「ありがとう」より「すみません」の数が多くなっていないかい
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記事:松永 恵(ライティング・ゼミ平日コース)
「生きていてすみません」
ずっとそう思って生きてきた。
自分が生きていることのバツの悪さとか、気まずさとか。
死にたい願望というわけではなく、ただ、自分は人に頼ってばかりで、人に迷惑をかけて生きているのではないか、そんな思いに囚われていた。
発する言葉にすみません、が多くなったのは、いつからだろう。
なんとなく感じる生きづらさ。
変わってるね、といわれることは褒め言葉だと思っていたけれど、いつしかそれは普通と違うという意味だと気付いた。
目立たないように、迷惑をかけないように、隅っこの方で生きていくことを選んできた気がする。
いつの間にか、挨拶の代わりにすみません、という言葉が息を吸い込むよりも早く、口から漏れ出るようになっていた。
けれどふと気づくと、周りにもすみませんは溢れかえっていた。
いや、日常で聞かない日がない。
こんにちはやありがとうをいう回数と同じくらい、すみませんをいう場面がやたらと多いのではないだろうか。
満員電車でベビーカーを引き、道を譲られて申し訳なさそうなお母さんも。
うっかりハンカチを落として、誰かに呼び止められた学生も。
すみません、と発してしまうのは、人に迷惑をかけることを嫌う日本という風土のせいだろうか。
いや、違う。
危うく日本人の性質のせいにしかけたが、すみません、という言葉が曖昧すぎるのだ。
気になると調べたくなる私は、早速辞書の「すみません」を引く。
参照:三省堂 大辞林 第三版
すみ ませ ん 【済みません】
相手に謝るとき、礼を言うとき、依頼をするときなどに言う語。しばしば感動詞的に用いられる。 〔「すまない」の丁寧な言い方。くだけた言い方としては「すいません」となり、より丁寧には「あいすみません」ともなる〕 → すまない ・申し訳ない
これだ。これのせいだ。
『相手に謝るとき、礼を言うとき、依頼をするときなどに言う語』
すみませんに、「謝罪」「感謝」「依頼」の3つも意味があるじゃないか。
すみませんに3つの意味があるといっても、感覚的には圧倒的に「謝罪」の印象が強い。
「感謝」は例えば、電車で座席を譲ってもらった時。
「席を譲っていただいてすみません」⇒「席を譲っていただいて申し訳ないです」
「依頼」は例えば、道を尋ねる時。
「すみません、ちょっと道を尋ねたいのですが」⇒「申し訳ないです、ちょっと道を尋ねたいのですが」
どの場面でも、謝っているようにしか聞こえない。
ただただ、申し訳なさそうにしか見えず、卑屈になっているような印象しか与えない。
すみませんを乱発することで、何だか気分も下に向いてしまっている感じだ。
これはいけない、と意識改革に乗り出した。
謝る時は素直にすみません、と謝ればいいが、「感謝」と「依頼」の場合は別の言葉でもいいのではないだろうか。
席を譲ってもらったら、ありがとう。
道を尋ねる時は、ちょっといいですか、
特に感謝はストレートに伝えたい。
すみませんとありがとう、の中間の言葉は存在しないのか。
感情を表すことが下手くそな私は、特に言葉で感情を表現する必要がある。
ありがとうの感謝の言葉の前に、迷惑をかけて申し訳ない、という気持ちが混ざってしまい、すみませんが飛び出していく。
このクセを直さなければならない。
どうもありがとうございます、だと長い。
サンキューと英語でいってみても、イマイチ気持ちが入っていないような……。
そこで編み出したのが、会釈+ありがとう。
これなら、とても感謝していることを伝えられるのでは。
四六時中忘れ物をする私などは、すみません!の乱用にかけてはなかなかのものと自負している。
いや、忘れ物に関しては本当に迷惑なので、そこはすみません、と伝えるべきではあるが、とにかく感謝は伝えなければならない。
先日駅のエレベーターに向かう際、閉まりそうになった扉を、エレベータ内のご婦人が開くボタンを押して待っていてくれた。
早速私は、すみませんではなくありがとうございます!と言葉にして会釈をしてみた。
ご婦人は笑顔で、閉じるボタンを押してくれた。
ありふれている場面だけれど、迷惑をかけてしまって申し訳ないのではなく、親切にしていただいたんだから、自信を持ってありがとう、と伝えていいのだ。
今までいくつ、すみませんといってきただろう。
数えきれないすみません、の中にありがとう、の感謝も数えきれないほどあったはずだ。
たくさん、ありがとうを言いそびれてきた。
すみません、をありがとう、に変えてみると、驚くほど無数のありがとうがあることに気付く。
世界は優しさに溢れていることに、私は気づけたのだ。
すみませんをありがとうに変えて、言いそびれてきたありがとうをたくさん伝えた時、私は「生きていてありがとう」と自分に思えそうな気がしている。
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