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マスター直伝、飲食店が長続きする7つの習慣


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事: 追立 直彦(ライティング・ゼミ平日コース)
 
年があらたまり、はやくもふた月が過ぎようとしているが、そのあいだ、ぼくの「カーヴ」ロスは地味に続いている。
 
カーヴ。残念ながら昨年の大晦日に閉店した、小粋なワインバーの名前である。
福岡市内で飲食店が集中する地区のひとつ、天神北。その目立たない路地沿いで、ひっそりと営業していたお店だった。
 
天神北の周辺は、仕事でよく通う場所である。
用件が終わってひと息つく。陽は傾きつつあるが、家路につくにはまだ早い。そんな時、ふと脳裏に浮かぶのが、カーヴの長いカウンターとマスターの顔だった。
 
(そうだ、ちょっとマスターと一杯傾けながら、ムダ話でもして帰るか)
実際には、寄ったら一杯どころでは済まないのだが、マスターと音楽や映画の話で盛りあがるお店でのひと時は、貴重なストレス発散の場になっていた。こんなふうに、いつでもフラッと気軽に立ち寄れる「とまり木」があるのは、幸せなことだな。常々そう思っていた。
 
その感覚は、年が明けてもなんとなく続いていて、夕暮れ時、気がつけば今はもうないお店のほうに、勝手に足が向かおうとしている。(ああ、もうカーヴはないのだ)と、あきらめる。そんな瞬間が何度かあった。カーヴがなければ、別のお店のドアを開ければいいじゃないか、とも思う。でも、そうはならないのが不思議で仕方がない。カーヴでの特別な時間は、きっとぼくの生活の一部になっていたのだと思う。
 
マスターからお店を閉める話を聞かされたのは、去年の秋の初めごろだった。
 
「え! なんで閉めちゃうの?」
マスターは、いつもと変わらない静かな表情で理由を話してくれた。
「糸島に引っ越して、そこで食品加工の商売を立ち上げます。これからの展開を考えていたら、どうしてもやりたくなっちゃって。ちょっとした総菜とか、スペアリブの漬けこみダレとか。そんなのを商品化して、うちみたいなお店に卸せたらいいなと思って。もう、取引先にもあたっていて、少しずつ軒先も出来てきているんですよ」
 
そうか、もうそこまで話が進んでいるのか……。
確かに、このお店のスペアリブは絶品の美味さである。
マスターが、毎回丹精を込めて丁寧に焼き上げているのも知っているから、ここに友人やお客さまを連れてきたときには、逸品中の逸品として、かならず紹介してきた。
 
マスターが、このお店を畳んでまでやりたいと思った事業。
きっと勝算があるのだろうし、今はなくても、マスターならきっと地道に事業を軌道に乗せていくことだろう。ぼくにとっては、大事な止まり木がなくなることを意味するのだが、彼が決心したことならば、喜んで門出を祝ってあげたい。
 
ぼくが、マスターの商売の腕を信じるのには、確固たる理由がある。
何年か前のことだが、ぼくはマスターに彼の商売哲学を尋ねたことがあった。
なぜかというと、こんなデータを耳にしたからである。
 
飲食業の倒産確率をご存知だろうか。
なんと2年以内に50%近くのお店が廃業に追い込まれるというデータがある。さらに5年が経過すると、廃業率は実に70%まで拡大するのだ。この傾向は、リーマンショック以降、さらに加速したとも云われている。「外飲みが減った」と実感している人は、なんと50%以上も存在するのだとか。「飲食業はシビア」とはよく聞かれる言葉だが、いやはや驚きの数字である。
 
そんななかにあって、マスターは30年近くも水商売の世界で生き抜いてきた。
自分のお店を持ってからの歳月は15年くらいだが、全国的にも飲食店の競争が激しい福岡市内の繁華街で、それだけ頑張ってこられた事実は称賛に値するだろう。ぼくは、その秘訣を知りたかったのだ。
 
「7つの習慣を、ひたすらやりきることです」
問われた瞬間は、首を傾げたマスターだったが、やがておもむろにそう答えた。
そして、さらに言葉をつなぐ。
「ひとつひとつは難しいことじゃないし、誰でも学べば出来ることです。でも継続することを面倒臭がる人が圧倒的に多い。だから大半のお店は、早々に商売をあきらめざるを得なくなるんじゃないかな」
 
「7つの習慣」といえば、 スティーブン・R・コヴィー博士が、ビジネスマン向けに唱えた自己啓発本で有名だが、マスターのそれは、コヴィー博士の習慣とはまったく異なるものだった。以下にその習慣を羅列してみよう。
 
その1. やると決めたら、即実行する。
その2. モノゴトは徹底的に分析し検討する。
その3. 数字は徹底的に管理する。
その4. 同業者をライバル視しない。
その5. お客さまから目を離さない。
その6. 常にお客さまを飽きさせない工夫を。
その7. 与えられた条件内で最大限の成果を。
 
ひとつひとつの習慣とすべき事柄について、マスターは丁寧に教えてくれた。
そのうちのいくつかは、確かに日頃のマスターの行動から感じ取れるものである。マスターは、手料理のクオリティに関しても、イベントの準備に対しても、妥協しない。マスター自身が納得するまで、常に「徹底的」に追及しているように見える。
それでいて、ないものねだりや物理的なムリはしない。「与えられた条件内で最大限の成果を」発揮するために工夫を怠らないのが、マスターのやり方だ。
 
これは、飲食業の運営のみに当てはまるものでもないだろう。経営全般に必要な習慣だ。マスターがこの習慣を持続する限り、あたらしい事業も心配ないに違いない。
 
ぼくは、マスターのあらたなチャレンジ宣言に触れながら、彼直伝の「7つの習慣」を思い返していた。応援したいきもちと、そこはかとないさびしさと。その日のワインには、とても微妙な味わいがあった。
 
お店を閉める予定の大晦日も近づいてきたある夜、マスターがぼくに語ってくれた言葉を思い出している。
「そういえば、最近、ライティングの勉強をしているんですよね。よかったら、いずれこのお店のことを小説にしてくださいよ。追立さんもご存じのとおり、カーヴ(洞窟)の住人たちは個性的な人たちが多かったから。きっとおもしろい物語になりますよ」
 
マスターのいうとおりだ。
このロスは、カーヴを物語の中で永遠に生かすことで昇華させよう。そんなふうに考えれば、このさびしさも、決して無駄な感傷にはならないだろう。
 
 
 
 
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2020-02-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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