コーヒーという名の沼
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:安平 章吾(ライティング・ゼミ平日コース)
「コーヒーは沼だ」
この言葉はコーヒーが好きな人なら一度は聞いたことがあるはずだ。
コーヒーは粉末をお湯に通したら完成、といった単純なものではない。
豆の産地、豆の処理方法、焙煎時間、粉の大きさ、お湯の温度、抽出する手順、粉にお湯を通す時間、そして器具……
様々な条件によって味が変わる。
美味しいコーヒーは当然人によって定義が異なる。酸味が強いもの、コクがあるもの、あっさりしたもの……
そのため、「万人受けする美味しいコーヒー」は存在しない。
また、コーヒーは味を平準化するのが難しく、日によって変わる味をどのように誤差を無くすか、それはどの条件によって変わるのか、日々の作業を記録し、微修正を重ねていき、非常に時間がかかる。
そして、追求すればするほど深い世界に入り込んでいく。器具も新しいものが欲しくなり、深い知識だって欲しくなる。日本を飛び出して直接現地の農園を訪れる人もいて、自分が望めばどこまでも理想を追い求めることができるのだ。
だからこそ「コーヒーは沼」はその言葉どおり、自分が深入りすればどこまでも沈み、気持ちも入れば早いスピードではまっていく。コーヒーの奥深さを表すにはぴったりの言葉だと思う。
その言葉が今、私を幸せな気持ちにさせ、そして非常に悩ませている。
コーヒーにのめり込んだのはつい1年前。田舎である地元には珍しくお洒落なカフェがオープンしたため、ふらっと行くことにした。その際、食後に頼んだコーヒーを飲んだときに衝撃を受けた。
「美味しい!」
これまでは、眠気覚しのために缶コーヒーを飲むことが多く、「苦い」としか思っていなかったが、この日を境に、コーヒーの虜になった。
「自分でもこんな美味しいコーヒーを淹れたい」
そう思った矢先にこの店が主催で、初心者を対象にしたコーヒー講座が開催されることを聞いた。
平日、しかも車で1時間かかる場所での開催だったが、定員5名ということもあり、すぐ申し込んだ。私の中で仕事よりもコーヒーを習うことの方が優先度が高くなり、コーヒーを学ぶことが一番重要となっていた。
講座に参加すると、まずはコーヒーを淹れるときの注意事項から始まった。
「美味しいコーヒーの淹れ方はありません。初めはコーヒーが嫌いにならないように、自分が気に入った道具、淹れ方で慣れてください」
「?」
コーヒーとは無縁だった私にとって、意味が全く理解できなかった。
美味しいコーヒーの淹れ方を聞きに来たのに、その方法がなければ講座で何を教えるのか、少し疑問に感じた。
「本日は自分の店舗で出しているコーヒーの淹れ方を紹介します。これは私が美味しいと感じている淹れ方です。まずはこれを基本としていただき、皆様が好きな味に近づけるよう淹れ方を変えてください」
どうやらコーヒーは単純に淹れたら良い、ということではないらしい、とここで理解した。
と同時に私が沼に足を踏み入れた瞬間でもある。
この日の講座で焙煎した豆をいただいたため、終わったその日にコーヒーの器具を通販で注文した。
同じ手順を行ったつもりだったが、抽出されたものは全く違う味となった。
もしかしたら回数を重ねたら上達するかもしれない!
そう思ってまずは練習用に豆を買いに行くことにした。
が、そこでも待ち受けるのが、コーヒーの試練。
カトゥーラ、ブルボン、ティピカ
ナチュラル、ウォッシュド、ハニープロセス
ブルーベリーのような甘味と酸味、チョコレートのようなコク、ナッツのような香り
「???」
聞いたことのない言葉に面を食らって店舗のカウンターで変な汗が出てきたことをよく覚えている。
魔法の言葉ですか?
コーヒーなのにベリー?チョコレート?
コーヒーはコーヒーでしかない!
そんなことを心の中で叫びながら、初めに目についたマンデリンを買ったことは絶対に忘れないだろう。
そして、この段階でようやく気がついた。コーヒーを本気で好きになるにはどうやら基礎知識が必要らしい。
豆の表示方法、抽出の方法等、「美味しいコーヒー」を追い求めるまでに多くの知識と段取りが必要なことに気づき、自分では無理ではないのか、と少し思い始めていた。
ただ、趣味がこれまで無く、飽き性の私にとって、ここまで奥深く、のめり込めそうなものに出会えたことはとても嬉しかった。
だからとことん沼にハマることに決めた。
自分にとっての「美味しいコーヒー」を追い求め、器具を増やし、様々な方法でコーヒーを淹れ、その都度記録を取るようにしている。
現在では淹れ方が安定したこともあり、焙煎による違いを学びたいという新たな意欲が湧き、焙煎機を購入し、自宅で焙煎を行なっている。
この4月からは地元で月1回の頻度で開催される焙煎講座にも参加する予定だ。
コーヒーの基礎知識も勉強し、「コーヒーインストラクター」の資格も取り、家族からも「コーヒーおじさん」との名誉ある称号をいただいた。
将来的には派生し、エスプレッソマシンを購入し、ラテアートにもチャレンジしてみたいと考えている。
気がつけば沼の奥深くまでハマっている。そして、コーヒーは私の生活の一部となっている。
これからもコーヒーのある生活を継続し、沼にはまって悩みもがき続ける中で、少しでも自分が想う理想の形に近づいている喜びを感じていきたい。
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