メディアグランプリ

「本がもたらす無駄の幸福」

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ヒロベナオミ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は本が大好きだ。
今までもこれからも、本がいちばん大好きだ。
 
しかし現実の日本では、長らく読書離れが叫ばれている。
実際に、個人書店のみならず、超大型書店さえも軒並み閉店を余儀なくされている。
 
私のまわりを見回しても本を読まない人は多い。
知人のみならず、電車の中や病院の待ち時間、いつどこを見渡しても、皆うなだれるようにスマートフォンを覗き込んでいる。
ちなみに二年ほど前の大学生を対象とした調査結果によると、約50%の学生の1日の読書時間が0分だった。
 
好きな作家やジャンル、面白かった作品を共有し合える人は、いないのか。
やはり自己満足の世界なのか。
世間から本が減っていくのを横目に、そう思っていた。
まさにその時、SNS上に読書アカウントなるものを見つけた。
ここでは、どこに隠れていたのかと驚くほど、たくさんの人たちが本を読んでいるのだ。
読んだ本の感想、考察、新刊紹介まで、とにかく本にまつわることだけを日々投稿している。
しかも皆、圧倒的な量の様々なジャンルの本を、読んでいるのだ。
もちろん、読書において重要なのは量ではく、いかに心と記憶に残るかだ。
しかし大半の人たちが、もっと読みたい! という欲求に駆られて読んでいる。
こんな世界があることを知り、どれほど嬉しかったことか。
もちろん私も今は、この世界の住人となり新たな形の読書を楽しんでいる。
 
このように、全く読まない人が増える一方で、明けても暮れても読んでいる人がいる。
いったいなぜ二極化が起きるのだろうか。
 
私は読書離れは、本嫌い、活字嫌いだけが要因ではないのではないかと感じた。
 
そう感じさせたのは、意外にも読書アカウントの存在だった。
その中でも、ある傾向を持つアカウントだ。
その傾向とは、年間の読了数や目標読了数を掲げていること、ビジネス書・自己啓発本だけを読んでいること、そして、膨大かつハイペースに読破していくことである。
 
私はこの読書のスタイルに、少し引っかかった。
もちろん、誰がどんな本をどうやって読むか、それは全くの自由だと思う。
それにも拘らず引っかかったのだ。
なぜなら、この人たちが本を好きなように感じられないからだ。
本が面白くてたまらないというよりは、本から何かをむしり取ろうとしているように見えるのだ。
本はたくさん読むほど「効果がある」、この本に書かれてあるテクニックは「役に立つ」、だから読む、そんな思いが透けて見えるようなのだ。
大量に読むことや、ビジネス書・自己啓発本が良くない、と言いたいわけではない。
しかし、それ自体が読書の目的になっていることには、違和感を覚えずにはいられなかったのだ。
 
効果がありそう、役に立ちそう、だから時間を割いてでも読む。
裏を返せば、効果がなく役に立たなければ時間を割かない、ということになるのではないだろうか。
つまり読書離れの本当の要因は、本が嫌いだという言葉の裏にひそむ、本を読む無駄な時間が嫌いだ、という思いではないかと感じたのだ。
 
これは個人の考え方だけではなく、社会の流れも影響しているだろう。
どこもかしこも、効率がいい、すぐに役に立つ、誰にでもできる、簡単、コスパがいい、などの言葉で埋め尽くされている。
いまや物にとどまらず、人にまで使いだす始末だ。
つまり、手っ取り早く実益を欲しがる人が多いということだ。
 
そういう視点で読書をとらえてみると、確かに読書は無駄で意味がない。
専門書を読んだからといって、明日から研究者になれるわけでも、実生活に役立つわけでもない。
小説を読んだからといって、そのたびに人生が激変するわけでもない。(そんなことが起きるなら、私は今までに何千回も人生が激変していなければならず、想像するだけで恐ろしい……)
 
しかし、無駄な時間こそが、その人らしさを構築する時間ではないか。
意味のない時間こそが、幸福な時間ではないか。
その無駄を楽しめるのであれば、一人きりで味わう充実感、好奇心や感動する心を感じられる。
さらに、本を読んでいる間だけは、誰の目にも映らない自分になれる。
何の評価もされず、急かされず、どう感じるかも自由だ。
そんなことが何になる、そう思うかもしれない。
しかし、よく考えてみて欲しい。
社会生活の中で、こんなにも自由になれる瞬間はあるだろうか。
今流行りの言葉で言うならば、「じぶんらしい」姿でいられる時間だ。
「自分探し」の旅に出なくても、ありのままの自分がここに現れる。
本を開けば、本物の自分にいつでも出会える。
そんな積み重ねは、いつか必ず自分を救う。
 
本はいつまでも待ち、いつでも迎え入れてくれる。
そして読書には上手いも下手もない。
まずは書店に行き、面白そう、ただそう思った本を連れて帰ってほしい。
「何か」のためではなく、ただ過ごす時間のために。
 
そこには、「意味」や「効果」以上のものがある。
 
それを知っているから私は本を読む。
願わくは、あなたにも読んでほしい。
 
 
 
 
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2020-02-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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