「男は仕事、女は家庭」世代とのギャップを乗り越える力
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:渡部梓(ライティング・ゼミ特講)
「男は、家庭を持つからこそ、仕事に対しての向き合い方が変わり、仕事に邁進できるんだ」
なんだこの意味不明な論理は。女が家庭に入っていることが前提とした因果関係じゃないか。
私はそう感じ、かなりカチンときた。でも、この発言は私の父のものだったし、数分前まで和やかな食卓だった家族の空気をめちゃくちゃにしたくなかったので、必死にこらえた。
ある連休。私たち家族は、私の実家に滞在していた。そこでの夕食時、たまたま「働き方改革」に対して父と私が議論になった。冒頭の発言はその流れで父から出たものだった。
父はいわゆる団塊の世代で、高校卒業後上京し、高度経済成長期の「企業戦士」として42年間一つの企業へ勤め上げた人間だ。専業主婦の母、私と妹の「モデルケース的な核家族」の大黒柱として、毎日働き、私たち娘を溺愛し、娘のやりたいことを応援する父だった。
だが、冒頭の発言である。毎日必死で働いている私への冒涜かと思った。父が男尊女卑的な発言をしている、女性が社会に出ることに対して否定的な意見を持っていると心底がっかりしたのだ。
こうした「男は仕事、女は家庭」という考え方は、私たちの親世代に多いように思う。今回の父の発言だけではなく、私は子供を持ってから
「なぜ家庭に入らないのか」
「ご主人も仕事をしているのに、わざわざ仕事をしなくてはならないほど生活が苦しいのか」
などの言葉を何度となく浴びせられた。多くは私たちの親世代である。
そのたびに私は、
「女だから、母親だからという理由は、自分がしたいと思っている仕事を諦める合理的な理由ではないですよね?」
と喧嘩を売ってやろうかと思ったのだが、これもこらえた。
私の場合、「仕事は自分と社会が繋がる地図」だと思っている。自分のアイデンティティや指針を見出し、社会の中でどうやって生きていくのかを知る地図が私にとっての仕事だ。自分の仕事に対しての評価も得られ、経済的な自立ができるということは、私に精神的な自立をもたらしてくれる。だから、私が仕事をやめるという選択肢はない。この考えは、仕事と家庭でどちらが偉いとか評価をしているというものではない。また、私は家庭での仕事が社会と全く繋がりがないとは思っていない。
仕事や家庭に対してのモチベーションや考え方は性別に関わらず人それぞれだと思う。男性でも必要最低限の仕事しかしたくない人はいるだろうし、私のように女性でもどんどん仕事がしたい人もいる。それぞれ個人の考え方を尊重することが大切だ。家事や育児に自分のアイデンティティを見出している人もいれば、家族の介護、仕事、趣味などがあってもいい。人それぞれ個人のアイデンティティややりがい、自律を見出すモチベーションが異なり、それを尊重すれば良いのだと思う。
だから、「男だから」「女だから」という理由で仕事をするかしないかを決めるのは、合理性を感じないのである。
私のように、親世代の性別役割分担的な発言にイライラしながらも、仕事に家庭に邁進している私と同世代の方も多いと思う。
しかし、ある日夫と今回の父の件について話したことで、この「男は仕事、女は家庭」発言を自分たちの親世代がする理由が分かった気がした。
おそらく親世代は、自分たちが生きてきた時代を否定されたくないのだ。日本が経済大国へと変化した時代を必死に生き、性別役割分担を強いられ、それを全うしたことを、否定されたくないのだ。この性別役割分担を疑問に思っていたか否かは別にして、である。
実際、先日母にこんなことを言われた。
「仕事や家庭に対しての考え方は、一番身近な親の影響を受けるものだと思っている。あなたがそんなに仕事にこだわるのは、お母さんのことを良く思っていなかったのかな、と思って……」
私たちの親世代で、個人の意志や興味、志向だけで「男は仕事、女は家庭」のモデルから外れるのは非常に難しかったと思う。世間体や風当りの強さを感じ、そこから出てくる不都合と折り合いをつける必要がある。だから、そこまでしなかったのはなぜだ、と親を批判するつもりは私にはもちろんないし、母にもそのように伝えた。母はほっとしているように見えた。
今、世の中は変革期だ。国は「総活躍」をスローガンに掲げ、男女ともに70歳まで働けと言っている。もう、親世代のやり方は通用しませんよと言っている。
その分、昔ほど「男だから」「女だから」という考え方を仕事に、家庭に持ち込まない世の中に少しずつ変わっている。仕事と生活のバランスは男女という属性で左右されるものではなく、個人の意思で選択が可能な世の中に少しずつ変化していると私は感じている。
でも、こうした変化は、前の時代の否定ではないということも私たち現役世代が合わせて心に留めておきたい。先ほどの私の母の言葉のように、自分たちの時代のやり方、または自分たちの時代すべてが間違っていると批判されると感じるのは、親世代には辛いことだと思う。
世代間で環境が異なることで、こうした意識の「差」はどうしても出てしまう。でも、その差を批判すると、せっかくの環境の変化が止まってしまう力にもなりかねない。私が見える限り、私たちの世代の多くが、それぞれの選択に対していい意味で干渉しない。私たちの親世代で自分の世代の価値観を絶対的な正解のように考え、それをストレートにぶつけてしまう人が一定数いることが残念に思う。一方で、私たち世代も、親世代に感謝と尊敬の念は忘れないようにしたい。
尊敬の念を持ちつつ、親世代のやり方を批判していないことを理解してもらう。そのうえで、自分たちの世代のやり方があることを理解してもらう。そうやって、時代は変わっていくのかも知れない。「男は仕事、女は家庭」発言にイライラするだけで終わらせるのではなく、親世代に価値観を理解してもらえる努力をしていければ、それはきっと大きな力になる。
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