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いま会いに行きます


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記事:佐々木 慶(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「今日のテーマは『あなたの好きなもの』です」
仕事帰りの自家用車のカーラジオから、ラジオパーソナリティーの声が流れてきた。
 
「自分にとっての好きなものってなんだろう?」
ラジオの声に反応するように、ぼーっと物思いにふける私。
頭の中に真っ先に浮かんだのは、あなただった。
 
出会いは、小学校の低学年くらいの頃までさかのぼる。
もう、20年以上くらい前のことだ。
 
当時、父は米菓会社で営業マンとして働いていた。
せんべいやあられといったお米で作られたお菓子をスーパーや小売店に売り込むというそんな仕事。
仕事柄もあってか、せんべいやあられが入った段ボールが家の中で存在感を放っていたのは今でも記憶に残っている。
学校から帰ってきて、段ボールの中から、せんべいやあられを選んで食べる。
私にとって、まさに日常の光景だった。
 
そんな時に、あなたに出会った。
そう、「柿の種」。
 
「ビビッときた」とか、「運命の出会いに感じた」訳ではない。
気付いたら、そばにいた。
言ってみれば、幼なじみのような存在。
 
ただ、出会ったときの印象はよく覚えている。
他のせんべいやあられとはひと味違った三日月形。
光を受けてきらきらとオレンジ色に輝くボディー。
しょうゆの香ばしいかおり。
他のどんなせんべいやあられよりも異彩を放っていた。
 
私が、柿の種に惚れるのに、そう時間はかからなかった。
 
父が定期的に持ってきてくれる数ある米のお菓子の中から、柿の種のみを選び続けるそんな日々が続いた。
とても幸せだった。この日常がずっと続くかと思った。
 
しかし、終わりは突然に訪れた。
父が、米菓会社を辞めたのだ。私が高校2年生のときだった。
 
あれだけ、好き合っていたのにお別れなんて!
柿の種を食べることができなくなるなんて!
この時の私はきっとこの世の悲しみを集めたような顔をしていただろう。
 
ん、いや、待てよ?
それなら、自分で会いに行けばいい話じゃないか!
財布を握りしめた私は近くのコンビニに駆け込んだ。手にはもちろん柿の種。
 
それからというもの、高校から家に着くまでの間、帰り道で柿の種を見つけては、すかさず購入し、柿の種を堪能するようになった。
当時、クラスメートとなかなかそりが合わず、気分が上がらない日々が続いていたが、柿の種を食べている時だけは違った。
柿の種が私の心を解きほぐしてくれたのだ。
まさに、オアシスのような存在だった。
 
大学に進学してからは柿の種好きに拍車がかかった。
当時、サークルの部室に入り浸っていた私の姿をみたメンバーからは、よくこんなことを言われた。
「佐々木くんって、いつも柿の種しか食べてないよね?」
 
「そんなことない! 何を失礼な!」
と、反論しても良かったのだろう。
しかし、そんな気持ちにはならなかった。
実際、毎日と言ってもいいくらい、柿の種を食べていたのだ。
 
またこんなこともあった。
大学2年生の誕生日の時だ。
所属していたサークルのメンバーから、こんなことを言われた。
「誕生日おめでとう! 佐々木くんの好きなものをみんなで集めてみたよ」
その言葉とともに、大きな紙袋に入ったプレゼントを渡された。
突然のサプライズに、びっくりしながら、中を開けると見覚えのあるパッケージが見えた。
当時よく食べていた柿の種だった。ざっと30 袋はある。
 
他の人から見たら、なんとも異様な光景だっただろう。
しかし、私にとっては最高の光景だった。
「よっしゃ! 昔のように、柿の種が食べ放題じゃないか!」
 
メンバーへの感謝、そして柿の種を長く楽しめるといううれしさでいっぱいだった。
ただ、これが柿の種との関係を変えることになろうとは、私はまだ知らなかった。
 
それ以降、傍目でもわかるくらい柿の種を食べる頻度は減っていった。
別にお菓子を食べること自体が減ったわけではない。
むしろ、せんべいやチョコなどのお菓子を食べることは増えた。
 
飽きてしまったのだ。柿の種という味に、存在に。
他のお菓子に手を出したくなったのだ。
自然と、柿の種は遠い存在になっていった。
 
しかし、しばらくして違和感に気づき始めた。
いくらお菓子を食べても満足感がないのだ。
あれ? なんかおかしい……。
昔と違っていろいろなお菓子を食べているのに、なんで?
 
いや、むしろ逆だ。
柿の種を食べなくなったからだ。
あの食感、風味。
魅力を挙げ出したら、キリがない。
 
離れてみて気付いた。
柿の種は私にとって、友であり、パートナーであり、かけがえのない存在だった。
きっと、柿の種を好きな人は私以外にいっぱいいるだろう。
別に、私一人が柿の種を食べなくなったからと言って世界が変わるわけではない。
しかし、私は柿の種に伝えたいことがある。
 
柿の種、大好きです。
もう二度と離したくない。
ずっと、そばにいてほしい。
 
ラジオから聞こえてくる、様々な『好きなもの』。
私にとっての『好きなもの』はもちろん決まっている。
 
そんなことを思いながら、自家用車を走らせ、今日もコンビニに向かう。
大好きな柿の種に会うために。
 
 
 
 
***
 
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2020-03-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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