メディアグランプリ

一律不接待日本人の中華料理店で炒飯を食べてみる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村 隆(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
昨年末に中国湖南省の鳳凰古城に行きました。
鳳凰古城の夜の煌びやかな街並みに心踊りながら、「お腹がへったなあ。チャーハン食べたいなあ」と思い歩いていると、威勢良く客引きしている中華料理店のおっちゃんと目が合いました。
 
「チャンツィイー! チャンツィイー!」(中国語はほとんどこう聞こえる)
 
肩をつかまれ、強引にお店に引き込まれそうになります。
待てよ。いくらお腹が減っているとはいえ、新宿の街中でさえ「客引きにゃ絶対について行っちゃダメよ」って、嫌になるくらい啓発されているのに、いわんや、ここは異国の地、中国。
むむむと悩んでいると、パッとある看板が目に飛び込んできました。
 
「一律不接待日本人」
 
!!!!!????
 
中国語が読めなくてもこの意味くらいは分かります。「日本人には一切接客してあげないよーだ」という意味の切ない看板ですよね、これ。
ということは、この客引きのおっちゃんは自分のことを日本人って判っていないのかな。それにしてもお腹へったなあ。と思いつつ、その看板と自分を交互に指さして、半笑いで「自分、日本人っすよ」とジェスチャーすると、「いいから入れ!」と言わんばかりに、お店にグイッと引き込まれました。
 
少しびくびくしつつ、店内のお客さんの刺さるような視線を浴びながら、席に案内されました。
テレビのニュースなんかでたまに見かける過剰に演出された外国人の映像が頭をよぎります。どこぞの国旗をむしゃむしゃ食べたり踏んづけたりするやつ。
 
まぁお腹へったし、気を取り直してとりあえず食べよう。えーと、チャーハン、チャーハンと、メニューを開くとあれら不思議!
 
そう、ないんですよ。チャーハンが!
 
でも、もう口の中がチャーハンなんです。止められないんです。中国なんです。
強引ながらもちっぽけな勇気を振り絞って入店したこのお店。ここで青椒肉絲に妥協したらぬるっとしたしこりが残る気がする。もやもやする。そう思い、意を決して店員のお姉さんを呼びました。
お姉さんはドンっと中国茶の入った急須とカップを置くと、「注文は? 早く!」と言わんばかりの冷たい表情でこちらを見てきます。その表情に少しひるむ。だけど負けるな自分! と言い聞かせます。もはやこれは外交だ。
スマホでお昼に食べたチャーハンの写真を見せながら、「これ、チャーハン! 食べたい!」と、阿呆な日本語に阿呆なジェスチャーを添えて伝えると、なにやら困り顔の様子で後ずさり、店の奥に入っていきました。
ちゃんと伝わってんのかなあ。これでチャーハンでてこなかったらやるせないなあ……そういえばこの街に来てまだ一度も日本人に会っていない。とか思いながらも、待っている間に他のお客さんから「どうして日本人がこの店にいるんだばっきゃろう!」とか言われたらどうしようとそわそわしたり、今まで接してきた優しい中国人の顔を思い浮かべたりしていました。
 
待つこと10分。
 
厨房の奥から「チャンツィイー!」と陽気な声とともにお姉さんが笑顔で登場し、なんと片手にはチャーハン? あっ! チャーハン!
目の前に置かれたチャーハン。そうそうこれだよこれ! なんだ作れんじゃん! と思い、どれどれお味は? と食べてみると……。
 
!!!!?
 
パラパラとした食感と油っぽ過ぎないあっさりした味わい。それでいて主役の米を引き立てる無駄のない具材選び! その文句なしの美味しさにしばらく言葉を失うほどでした。
奥で待機しているお姉さんをパッとみると、ニコッとしてくれたので、親指をグッと立てました。
そこからはなんだか嬉しくなってきてしまい、コーラを飲んで、青島ビール飲み、コーラを飲み、少し酔っぱらいました。
ふとお店を見渡すと、みんな美味しそうにご飯を頬張っているだけで、全然嫌な感じなんてしませんでした。世界が広がっていく気がしました。
 
お店をでると、冒頭のおっちゃんがまだ客引きをしていました。
今度はこちらから得意げに近づいて、「チャーハン美味しかったですよ」と日本語で声をかけると、「何言ってんだコイツ」という感じの苦笑いをされたので、さらに日本語でつづけました。
 
「どうしてこんな看板をお店に置いてるの?」
 
酔っぱらっていたのかもしれません。ただ、なんだかこの看板が、こんな看板が日本人と中国人との間に架かる美味しいチャーハンの架け橋を断絶しているのがもどかしく感じていました。
気づいたら「もうさあ! こんな美味しいチャーハンがあるのにもったいないじゃん!」と叫びながら、看板を裏返しにしていました。ささいな抵抗です。
 
すると、看板の裏にはまたもや「一律不接待日本人」という文字が。
 
えぇぇっ!???
 
まさかの両面仕様に固まっていると、おっちゃんと目が合って、お互い「ぷっ」と吹き出しました。
 
なんだか心が温まりました。
 
 
 
 
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2020-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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