もしも自分を見失ったなら、夜空に輝く一番星を探して
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:緒方愛実(スピードライティング・ゼミ)
「今日は会ってくれてありがとう、とっても楽しかったよ! また遊んでね」
笑顔で手を振りながら去っていく友人に、私も手を振って返す。
ぽつんと一人残った私は、首を傾げた。友人の言葉が聞こえなかったわけじゃない。また会いたいなんて、そんな言葉をかけてくれる意味がわからなかった。
「何で、そう言ってくれるだろう?」
私は、とても自己肯定感が低い。いつも自分に自信がなくて、時には色々なことに途方に暮れてしまうこともある。ライティングや手芸などの、自分で作った物にも、ぼんやりとしか自信がなくて、褒められると、戸惑ってしまう。
「三浦先生、書かれた小説拝読しました。とっても面白かったです!」
ある日の天狼院。店主で、作家で、私のライティングの師匠である三浦先生にお会いした時のこと。先生の書かれた小説は、ストーリーも構成も秀逸で、心震えた私は、三浦先生に飛びつくような勢いで、感動を伝えた。
三浦先生は、眼鏡の奥でキラリと目を光らせて、ニッコリと自慢気に笑った。
「そうでしょう! 僕も最高に面白いと思ったもん」
私は、目を細めて先生の顔を見上げた。自分の作品と仕事、自身に誇りを持ち、賛辞を素直に受け取れる。なんて、眩しくて、うらやましいことだろう。
彼の自己肯定感を動物に例えるなら、黒鷲だろうか。大空高く、翼を広げて悠然と飛んでいく。その姿は自信にあふれていて、自由だ。
私はというと、地上にも出ていない。海の深いところにいるヒラメかもしれない。海底をひらひらと進んだり、砂の中に隠れたり。そして、時折佇んで、暗い海の底から、青い空を見上げるのだ。空の上は遥か遠くて、眩しくて、とても上がれそうにない。
「緒方さん、私福岡を離れることになったんです」
大切な友人が、突然遠くへ行ってしまうことが決まった。
私は、動揺する気持ちを落ち着かせながら、彼女になんとか声をかけた。
「そうなんですか。それはさみしくなりますね。……うん、きっと、みんなもさみしがりますよ」
すると、彼女は小首を傾げた。
「ん~、そうですかね?」
私は目を見開きそうになってしまった。彼女は、笑顔がキュートで、がんばり屋なすてきな女性だった。だから、みんなが慕っていたし、彼女に会いに来る人もたくさんいたように思う。私自身も、彼女に励まされ、元気をもらっていた一人だ。だから、彼女がそう言ったことが意外でならなかった。あなたはこんなに魅力的なのに。彼女自身がそれを知らないことが、とてもさびしく、悲しかった。
お世話になった彼女に、何か特別な贈り物がしたかった。花束、文房具、お菓子、悩みに悩んで、ハッと気がついた。
そうだ、ライターを志す私にだからこそできることがあるじゃないか。
今の私が込められる精一杯の技術と、思いを込めよう。
言葉には力があるから。彼女への感謝の気持ちと、エールを贈り届けてくれるはずだ。
私は、ありったけの思いをライティングに託した。
Tさん、人の魅力というものは、きっと一番星のようなものだよ。
誰しもが持っていて、いつも強い輝きを放っている。でも、それは私たちそれぞれの頭上にある。気持ちに余裕がある人や、熟練した人は、その存在を知っていて、それを誇りにして、道標にして進んでいる。でも、ひたむきに前を向いて歩き続けている人は、気が付かなくて、見失うこともある。
そんな時は、あなたの周りの人のことを思い出して欲しい。
人は、光のあるとこに集まる。あなたがいつも輝いているから、みんながそれを慕って集まっている。あなたがすてきな人だということを、あなたが気づいていなくても、みんながそれを知っている。
だから、自信を持って進んでほしい。
道に迷いそうになったら、深呼吸して、夜空を見上げて、思い出して欲しい。
そこには、あなたにしかない、一番星が輝いているから。
彼女が、福岡を去る直前、運良く会うことができた。
「緒方さん、読みました。ありがとうございます」
私、何も用意していないのに。申し訳無さそうに言う彼女の姿が、なんだかおかしかった。何を言っているんだろう、私はもう十分に、たくさんのものをあなたにもらったのに。
どうやら、彼女に無事届いたようで、私はうれしさと、面ばゆい気持ちで胸がいっぱいだった。涙をこらえながら彼女の手を取る。
「Tさん、本当にありがとうございました。これからも応援していますよ。どうか頑張りすぎないで。身体を大切に!」
私の手を彼女がしっかりと両手で握り返してくれた。見上げると、彼女も私と同じ様な表情をしていて、今度は泣き笑いしそうになる。
「はい、緒方さんもお元気で!」
再会を約束し、お互いにエールを贈った。笑顔で手を振りあって、私たちはそれぞれの道を歩き出した。
それから数日経って、彼女へ贈った言葉を一人読み返した。
一番星は、誰もが持っていると、私は言った。ということは、私にもあるのだろう。自分に自信がなくて、うつむいてばかりの私は、それをずっと見失っていたのだ。
また会おうと言ってくれた友人、私の文章を読んで感動したと言ってくれたみなさん。
私はまだ、私自身を、胸を張って誇ることはできないけれど。私を慕ってくれる人が存在するのなら。すてきな彼女に、みなさんに出会うことができたのなら、私の人生は捨てたもんじゃないのかもしれない。
私の一番星を見つけてくれたのなら、まずはみんなのことを信じてみよう。
言葉を素直に受け止めて、大切に胸にしまおう。
そう、決心すると、なんだか胸があたたかく、身体が軽くなった気がする。今まで、私を海底に縫い止めていた枷が外れた気がした。
ヒラメがすぐに空を飛べることはできないけれど、マンタにはなれるかもしれない。広い海の中を、鳥のように翼を広げ、ゆっくりしっかり泳ぐのだ。空を見上げるその目は、天高く飛ぶことをまだあきらめずに。
春が来た。
新しい部署、新しい場所に移った人もいるだろう。多忙な毎日に追われて、自分自身を見失ってしまうことがある。何がしたかったのか、本当にこれでいいのか、自信をなくすことだってある。
そんな時は、立ち止まって、夜空を見上げて欲しい。
遠く離れていても、あなたのことを応援している人がいる。あなたの一番星の輝きを知っている人がいる。
あなたは一人じゃない。
あなたの大切な人のことを思い浮かべて、自分を信じて、誇りに思って。
すてきな人が大切に思うあなたは、きっとすてきな人だから。
自信を胸に、あなたの一番星を、より一層キラキラと輝かせ続けて欲しい。
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