メディアグランプリ

人の振り見て我が振り直せ。悪の教祖様が教えてくれた「わたしの生きる道」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:三上縁(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「だからあなたはダメなのよ!! 私の言うとおりに生き方を変えなさい!!」
 
2017年8月20日日曜日。
外はこんなにも晴れ渡っているのに、なぜわたしは、この薄暗いカフェの奥で3時間も説教されているのだろう……。
 
「一度個別にしっかりと個人セッション受けていただくのがいいかと思います」
そうわたしに伝えてきた彼女のことを、Aさんと呼ぶことにする。
その言葉を素直に受け入れ、90分30,000円のセッションを受けることにした。
 
Aさんとは学びの場で出会った。その学びの場では勧誘が禁止されていたので、気持ちにスキができていた。Aさんから親しげに話しかけられ、簡単に気持ちを許してしまった。この学びの場には、騙す相手を探している人は来ない……そう思い込んでいたために、大きな痛手を負うことになった。普段の状態であれば、防御姿勢をとれたはずなのに……。
 
Aさんのセッションは、Aさんの旦那様が考案した統計学に基づく性格診断のようなもので、自分自身と家族の生年月日からそれぞれの特質・関係性を紐解き、どうやってその人がもつ本来の生き方で生きるべきかを導くものだった。Aさんのセッションを受けた人はみな涙し、すっきりし、前を向いて歩きはじめることができるというので、自分もすっきりしたいと思ったのだ。その時の自分は、自分を見失い、すがれるものを求めていた。
Aさんの言葉は、あなたのためを思って発せられるものだから、と彼女の旦那様にも勧められた。
「もともとの自分の居場所である地盤をしっかりさせたうえで建築物を構築していかないと、ぐらぐらしちゃうよね。だから自分の生き方をしっかりさせるためにセッション受けてみたらいいよ」
 
自分と両親、姉、旦那様の生年月日を事前に伝え、指定のカフェに向かった。
 
「今日は本気でぶつかります」
Aさんのこの言葉でスタートしたセッションは、早く90分が過ぎることを願うものに瞬時に変わった。何度も何度も冒頭の言葉を投げつけられながら、ただただ耐えた。
わたしはなぜ、ここにいて、罵倒されるために30,000円もつぎ込んだのだろう……。
 
わたしがあまりにもAさんの言葉を受け入れることができなかったために、ムダに時間を消耗し、終了したときは3時間が経過していた。カフェの店員さん、Aさんの旦那様、カフェのお客様の前で、時間をかけてキラキラ輝く顔に変化したはずのわたしが披露された。
「どう? このすっきりした顔!!」
その場に来てしまったことを心底後悔していたわたしの顔は、彼ら彼女らにはどう見えていたのだろう。
 
Aさんの存在から、言葉から、呪縛から逃れるために、大切にしていた学びの場から離れるという選択をした。統計学だけではかれない自分らしさを知るため、心理学や哲学、気質の本を買い集めた。だまされたと認められず、Aさんと距離を置いた理由も話せずにいたが、恥を忍んでこれまでの経緯を仲間に対して言葉にした。
 
仲間のおかげで見えてきたものがある。
Aさんは、学びの場にカモにできる人間を探しに来ており、わたしはカモにされただけなのだ。
Aさんの言葉は、決してわたしのために発せられた言葉ではなく、Aさんのために発せられた言葉だった。
Aさん教の信者とするために、優しい言葉でからめとられただけだった。
 
今日現在も、Aさんの言葉を愛あるダメ出しと受けとる人は少なくない。自分らしく生きなさいと諭されて、これまでの自分を否定し、Aさんのいう本来の自分を新たに作り上げていく。
Aさんのいう本来の自分は、生年月日から類推される分類で括られた人と同じ生き方さえしていればいいのだろうか。本来あるべき生き方とは違う生き方をしていた場合、これまでの人生で得た経験はムダなのだろうか。これまでに経験した失敗は、本来の生き方をしてこなかった罰なのだろうか。
 
二年半もがいたことは、なりたくない人間像を提供してくれた。
Aさんのように、相手をコントロールしない。
Aさんのように、相手を分類せず、否定しない。
Aさんのように、すがりやすいものを提供する人間にはならない。
Aさんのように、相手の自立を阻害する行動はとらない。
 
二年半もがいたことは、ありたい自分と生き方の指針を示してくれた。
目の前にいる人を、コントロールできるモノではなく、尊重すべき人として扱う。
目の前にいる人を、分類せず、その人のこれまでの人生や考えを受け止める。
目の前にいる人が、その人のこれまでと今を肯定できる環境をつくる。
目の前にいる人が、その人自身の中にすでにあるものを基軸にできるようお手伝いする。
目の前にいる人が、その人自身の言葉で語る言葉を真摯に聴く。
目の前にいる人が、その人らしく生きていけるよう伴走する。
 
いろんな構成材を寄せ集めた建築物にはなる必要はない。
他と比べ、頑丈で、外側はきらびやかに見え、高く作り上げることに何の意味があるだろう。
人は、自分の中にあるもので構成されている。
自分の居場所である土地に深く根を下ろし、柳のようにしなやかで、自由に枝葉を伸ばし、しっかり太陽の恵みを得られる生き方をしているほうがよっぽど美しい。
 
自分も、自分の目の前にいる人も、幸せに生きるためにどうすればいいのか……。
もがき続けたこの二年半が、今、愛おしく思える。
 
 
 
 
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2020-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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