可愛いストーカー
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:sakura_shuri (ライティング・ゼミ日曜コース)
朝6時、携帯のアラームが鳴るとすぐに手に取りアラームを止める。息を止めて静かに周りを見渡し、動きや息遣いを確認する。
「よし、大丈夫だ、起きてない」
そ~っとベッドから降り、音を立てないようにドアを開けて部屋の外に出る。ドアを閉める時も音を立てないよう慎重に行動する。
「行けた!」
心の中でガッツポーズをしてトイレに向かおうとすると。
「ママ~」
部屋の中から私を呼ぶ声が……。
「は~い」
急いで返事をしてドアを開ける。今日もダメだった。
下の子はもうすぐ2歳になる女の子、名前はミユ。ちょうど後追いの真っ最中でまさにストーカーである。
朝は子供たちが起きる前にいろいろと終わらせておきたいことがたくさんある。顔を洗ったり、化粧をしたり、ゴミを出したり、子供たちの学校の支度をした入り、ゆっくり新聞を読んだり、やらなくてはいけないことや、やりたいことが山積みである。でも、子供が一緒に起きてしまうとほとんど何もできなくなってしまう。
後追い真っ最中の子供の感覚はびっくりするくらい鋭い。朝、部屋から出ただけで気が付いて起きてしまうくらいに。
あと30分、いや、5分でも寝ててくれるとと~っても嬉しいのだけど……。
起きてしまったミユを抱き上げてリビングへ。まずはオムツを交換する。暗い部屋から明るい部屋に入り眩しそうに眼を細める顔を見て、笑ってしまう。
さて、オムツも交換したし、今度は私がトイレに行きたい。でも、娘は抱っこをせがむ。
「イヤイヤ、あなたを抱っこしたままだと用を足せないし」
少しの間だからとその場に置いてトイレに向かうと、この世の終わりかのような大泣き。
「ハ~」
私も負けじと大きなため息をつきながら、抱きかかえる。すると、満足げに泣き止んでニコニコに。トイレに一緒に入るがさすがに抱っこしたままでは無理なので一度下におろすが、足をバタバタさせて抗議してくる。何とかトイレを済ませ、リビングに戻るが常に抱っこモード。
仕方ない、本当は見せたくないのだが、テレビを付けて好きな動画を流し始める。
目はテレビにくぎ付けだが、しっかりと抱きついている。
そっと床に座り膝の上に座らせて様子を見る。
「よし、集中してみているな」
今度はそーっと膝の上からおろして床に座らせる。
「イヤ!」
離れたのに気が付いてすぐに抱き着いてくる。
「あの~、会社に行く準備したいのですが……」
なんて話を聞いてくれるはずもなく。
そうこうしているうちに、寝室から別のストーカー達の声が……。
「マ~マ~」
「マァマ~」
双子のお兄ちゃんたち、ユウとヨウである。
「はぁい!!」
その声を聞いてミユは置いて行かれると思い、さらに強くしがみつく。仕方がないのでミユを連れて寝室へ。
「もう6歳なんだから、自分で起きようよ」
何とか二人を起こして、朝ご飯。
子供達をイスに座らせて、さあ子供たちがご飯を食べ始める。
「今だ!」
3人が朝食に集中しているすきに顔を洗ったり、ゴミを捨てたり用事を済ませる。とりあえず必要最低限のことしかできない。
「ママ、ふりかけかけて」
「ママ、お茶ちょうだい」
「ママ、ウン」
すぐに呼ばれてしまう。自分の朝食をとりながらなんとか子供達にご飯を食べさせる。終わったら今度は顔を洗って、歯をみがき、着替えである。
ミユはすぐにお兄ちゃんたちの真似をして、なんでも自分でやろうとする。歯みがきも顔を洗うのも、着替えも。手伝おうと手を貸すと、
「イヤ!」
拒絶される。そのため、時間も倍以上かかる。
何とかユウとヨウの尻を叩きながら幼稚園の準備をさせて送り出す。さて、次はミユである。私の後ろを必死でついて回る姿はとてもかわいい。でも常に抱っこをせがみ、足にしがみついてくる。動けない。あの手この手で気をそらして何とか自分自身の支度を済ませてさあ、出勤だ。
「ミユ、ママ会社に行ってくるね」
「イヤ!」
顔がゆがんで今にも泣きそうになり、必死でしがみついてくる。
「ごめんね、ママ行ってくるね」
無理やり引きはがし、ダッシュで玄関へ。大きな泣き声が聞こえてくる。顔を見るとさらに泣いてしまうし、私もつらいので後ろを振り向かないように玄関を出る。
「行ってきます」
やっと一人になった通勤途中。今朝のバタバタを振り返り一人反省会である。
ミユに気づかれないように起きるためにはどうしたらいいか。
どうしたら抱っこせずに離れて遊んでくれるだろうか。
朝ご飯はどうやってあげようか。
いろいろ考えながらふと、上の双子の時のことを考える。そういえば二人ともミユと同じ時期があったなと。あの時は幸いなことに二人同時ではなく、時間差があったので少しホットしたのを思い出した。先にヨウの後追いがはじまり、少し落ち着いたころにユウの後追いだったため、それぞれをしっかり相手してあげることができたのだ。
でもそんな後追いの時期も短く、日々成長していき、泣いたり、ママを呼ぶ回数が減っていく。出勤する際や保育園に送るときも次第に泣かなくなり、ついには笑顔で言われてしまうのだ。
「バイバイ」
ついこの間まで
「行かないで~」
としがみついて泣いていたのに。
そう思うと子育ては本当に一瞬で、今のこの時期はすぐに過ぎ去ってしまう。今は泣いて私をストーカーのように追い掛け回すが、すぐに私が反対に追い掛け回す日がやってくるだろう。そう思うと私の反省会は、どうやったミユの後追いをかわすかではなく、今を楽しむかに代わっていった。
仕事が終わって家に帰ったら真っ先にギュッと抱きしめてあげて、たくさん構ってあげよう。ミミユに
「イヤ!」
と言われるまで。
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