復刻版ブームがもたらすもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大石 忠広(ライティング・ゼミ日曜コース)
「あなたがどんな立場からこの話を語っているのか見えない」
これは、私がライティング・ゼミの課題で提出したコンテンツに対してスタッフの方からいただいたフィードバックだ。
私は東洋の古典や哲学を学ぶのが好きで、よくそれ系の本を読んだり話を聞きに行ったりしている。その中で「これは是非多くの人に知ってもらいたい」と思ったことがあると定期的にブログで発信してきた。
例えば
「仏教には、こんな考え方があります」
「禅の教えには、こういうものがあります」
といった具合だ。
今回、ライティングゼミの課題もそのノリで書いた結果、冒頭のフィードバックを頂いたわけである。
このコメントは仰る通りだ。ぐぅの音も出ない。
結局私は、自分が見聞きして得た知識を受け売りしていただけだ。できるだけ分かりやすく書こうと工夫してみたり、たまに私自身の経験に関連付けて紹介することもあるが、基本的なスタンスはやはり「学んだ知識を伝達すること」だった。
「私はどんな立場から話をしているのか」
この「問い」に私は自分の足元が揺らいだ気がした。
「知識を伝えている私は一体、何者なんだろう? 」と。
自分が夢中になって学んだ素晴らしい知識を他の人にも知ってほしい。他者と分かち合いたい。これは紛れもなく私の純粋な気持ちである。しかし、その気持ちをいざコンテンツとして発信するとなったときの「私」とはいったい「何者」なのだろうか。または「何者」であるべきなのだろうか。
私はその道のプロでもなければ権威者でもない。ただの古典や哲学が好きなだけの凡人である。そんな私が聞きかじった程度の知識を元にコンテンツを発信して良いものだろうか?
そんな「問い」に悩み始めたら、思うようにコンテンツが書けなくなってしまった。まさにコンテンツ発信者としての「アイデンティティ」ロスである。
そんなアイデンティティロスが続いていたある時、通勤中に何気なく見たスマホのニュースアプリで、とある記事に目が留まった。
それは、私が子供の頃に大好きだったアニメの復刻版プロジェクトが開始されるというニュースだ。
記事中で紹介されていたアニメのプロモーション映像を見て、思わず「うわぁ……」と声がこぼれてしまった。
そこには、彼らがいたのだ。あの頃のままの姿で。
懐かしくて、嬉しくて、恥ずかしいような、切ないような、ワクワクするような、何とも言い表せない感情が込み上げてきたからだ。これは「ノスタルジー」なんて一言ではとても片付けられない感情だ。
当時、小学校低学年だった私はこのアニメが何よりも好きだった。毎週欠かさず観ていたし、登場人物は主人公も悪役も全て把握していた。チラシの裏にオリジナルのストーリーを書いたりした。主題歌も完璧に歌えた。ちなみに主題歌は今でも歌えると思う。
誕生日とクリスマスのプレゼントは決まってこのアニメのキャラクター商品だった。キャラクターがたくさんいたので、どれを買ってもらうべきか本当に悩んで悩みぬいて決めていた。商品に同梱されているアンケートはがきにも必ず感想を書いて送っていた。その甲斐あってか、玩具メーカーからアンケートの御礼の粗品(非売品グッズ)が送られてきたときは狂喜乱舞したものであった。
そういえば一度だけ発売前の商品を予約して買ってもらった時があった。その時は、予約をしてからというもの発売日が一ヶ月以上先であるにも関わらず、毎日おもちゃ屋に入荷確認の電話を入れていた。おもちゃ屋もさぞ迷惑だったことだろう。
いま思うと、この時の私は紛れもなくコンテンツ発信者だった。
親に、姉に、同級生に、近所のオジサンにも、いかにこのアニメが素晴らしいのか、登場人物のキャラクターがどれほどカッコいいのか、世界観が素敵なのか、全身全霊を掛けて発信していたからである。当時はSNSどころかインターネットもパソコンもない。発信する媒体も手段も限定されていた。
でもそんなことは関係なかった。
小学一年生の私は、自分の“スキ”を抑えられず、話したり、歌ったり、書いたり、電話したり、はがきを送ったりしていたのだ。アニメ評論家でもなければアニメの権威者でもないけれど、誰よりも熱く多く発信していたに違いない。
あのアニメに夢中になっていた自分を思い出していたら、私のアイデンティティロスが薄れていくのを感じた。だって、何者でもない小学一年生の私が、あれほど自分なりに“スキ”を発信できていたのだ。同じ人間である私が、今の“スキ”を発信できないわけがないではないか。
今、世の中は復刻版ブームである。アニメに限らず、ゲーム、音楽、ドラマ、ファッションに至るまで、ありとあらゆるジャンルで復刻が起きている。「焼き直し商法」と批判される面もあるだろうが、コンテンツ発信者としての自分のアイデンティティを掘り起こすのに、この復刻版ブームは絶好の好機ともいえるのではないだろうか。
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