家族クエスト〜そして本当の父親へ〜
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:安平 章吾(ライティング・ゼミ平日コース)
「お父さん、いや!」
娘が2歳になったとき、一緒に娘と寝ようとすると突然言われた。
2人目の出産を控え、妻が入院中であったため、家には娘と私しかいない。
そんな中、こんなことを言われると、どうしていいのかが全く分からくなり、ただただ娘を抱っこして安心できるようにあやすだけである。
それでも泣き止まない。
最終的には妻の実家を頼り、その日は祖父母に寝かしつけをお願いした。
その後、1人で寝ている中、ずっと娘のことが気がかりだった。眠れるはずもなく、これまでの自分の行いを振り返ってみた。
妻が産休に入ってから、仕事は早く切り上げ、保育園の迎え、夕食を作って食べさせ、寝る前には絵本を読んであげた。
休日もいつも一緒で行きたいところは連れて行った。買い物、水族館、そして妻がいる病院。
そのときはいつも手を繋いで、笑顔で私のことを見てくれていた。
1日経てば父親が恋しくなる、そういった期待を持ってその日は諦めたが、次の日になっても何も変わらなかった。
「お父さん、いや!おじいちゃんとおばあちゃんがいい!」
ついに具体的に父親以外の人物が出てきた。
そうなってくると、こちらも諦めてしばらくは祖父母に甘えようと思った。
それと同時に、娘から離れられて、育児から解放されるという気持ちが芽生えた。
何より、その時期は自分が楽しみにしていたドラゴンクエストの新作が久しぶりに発売されることもあり、ちょうど良いタイミングであった。
娘を祖父母に預け、家に帰るとすぐにニンテンドー3DSを引っ張り出し、こうなることを少し期待していたこともあってか、仕事帰りに寄ったゲームショップで購入したドラゴンクエストをすぐに始めた。
結婚してから、初めての1人の時間はとても充実していた。この時間がずっと続けばいいのに、そう考えることもあった。
しばらくの間、仕事が終わり、祖父母の家で食事を取り、その後は祖父と娘が一緒にお風呂に入っていくのを見送ると、私は家で普段飲まない生ビールを片手にドラゴンクエストに没頭した。
しかし、日が経つにつれ、次第に娘のことが気になり出し、ドラゴンクエストのストーリーを進めることに罪悪感が出てきた。
「俺、何やっているんだろう」
布団の中で仰向けになって3DSを持ちながら、客観的に自分を見たとき、そう思うようになった。
ゲームの中では、自分の育てるキャラクターに良い装備を買い与え、成長させている。
でも、今、自分は実の娘には何かしてやれているのだろうか。
そう思うと、次第にドラゴンクエストのことがどうでも良くなってきた。
次の日の夜、娘を自分の家に連れて帰ろうと決めた。しかし、当然ながら、今更無理な話である。
「いやいや!絶対いや!」
もはや娘は私を必要としていなかった。
優しい祖父母が毎日かまってくれ、言うことを全て聞いてくれる。
「声をかけ続ければ、休日だけでなく、平日も一緒に過ごせば変わってくれるだろう」
そう思って、有給を取り、思い切って数日間仕事も休みを取ってみた。
結果は何も変わらない。
毎日、夜になると大泣きでお父さんを突き放す。
これまで自分なりに大事に育ててきたのに、仕事も早く切り上げて家族の時間を増やしてきたのに。
そう思い、目の前が真っ暗になった。
「絶望」という言葉が初めてスッと自分の体に入ってきた気がする。
何が悪かったのだろうか。
答えを探している間に娘は追い込んでくる。
「お父さん、絶対いや!」
泣きながら、娘が毎日同じ言葉を繰り返し、1週間ほど経った日、ついに私は耐えきれなくなった。
「もういい!お父さんとは関わらんといて!」
つい、感情的になってしまった。
親として絶対に言ってはいけないことだ。
娘はそれを聞いてさらに大泣きした。
それと同時に、祖父母の困った顔が目に入った。
「父親として失格だな」
そう思って祖父母の家を飛び出した。
次の日から娘に対してどんな顔をして良いのか、そればかり考えその日は眠れなかった。
次の日、とりあえず祖父母に謝った上で、娘の顔を見ようと思った。
「お父さん!」
娘が走ってきて抱きついてくれた。
昨日、あんなに酷いことを言ったのに、父親として私に抱きついてくれる。
祖母がそれを見て言った。
「子どもの言うことを真に受ける必要はないよ。次の日になったら忘れているからね。」
祖父も安心したようで、私に言った。
「親の不安やイライラが伝わったんではないかな。何かしてあげること自体も大事だけど、それよりもどんな気持ちで接してあげるかが大事だよ」
私はハッととした。
子どもは親の感情に気づきやすい。
妻がいないため、一生懸命娘に対して何かをやってきたが、1人で不安を抱え、イライラしている気持ちが伝わったのかもしれない。
さらに、祖父母に預けたことによる子育てからの開放感で父親の顔が晴れていることが娘には伝わっていたのかもしれない。
そう思うと、娘に対して何をしているか、ではなく、どう接するかということが大切であることに初めて気づくことができた。
それから、娘に対してより一層付き合う時間を増やした。同時に、できるだけ楽しい姿を見せ、不安な気持ちやイライラした姿はなるべく出さないように心がけた。
今では娘からも、その後生まれた息子からも「お父さん、大好き」と言われるようになった。
その場の雰囲気に合わせた行動を心がけ、深く考えすぎず、楽しみながら答えがないものに対処しながら日々楽しく過ごしていく。
あの時始めたドラゴンクエストはまだ全部クリアできていない。しかしながら、自分の中でもう進めることはないと思う。
家族の中で、勇者やヒーローは必要ない。
時間はかかったが、私は本当の意味で父親に変われた気がした。
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