睡眠中の音を録音したら聞こえてきたもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:加藤有加里(ライティング・ゼミ平日コース)
今日も朝まで電気をつけたまま寝てしまった。化粧も落とさずいつの間にか寝てしまい、目覚めたときの気分がとても悪い。
たくさん寝ているはずなのにいつも眠い。
仕事が終わって20時過ぎに帰宅し夕食を食べ終わると自分の部屋に行く。
少しだけ横になるつもりがあっという間に泥のように眠ってしまう。
朝まで電気がついたままであることはしょっちゅうだ。
昼間もスーパーで買い物をしていると、急に眠気が襲ってくることもあった。そのときは何とか眠気と戦いながら家まで帰ってきた。
幸い、仕事中に眠ってしまうことはなかったのが唯一の救いだった。
もしかして寝ているようで実はきちんと眠れていないのかもしれないという不安が私の頭の中をよぎった。睡眠時無呼吸症候群。寝ている間に呼吸が止まってしまう病気だ。そのせいでよく眠れていないのかもしれない。
それに、いびきや歯ぎしりをしてよく眠れていないのかもしれない。
きっと何か眠れていない原因があるのだろうと思い、たどり着いた答えが寝ている時の音を録音するということだった。
さてどうやって録音しようか。
手軽なのはスマートフォンを使った方法だ。とりあえずアプリを検索してみた。すると「スリープモニター」という睡眠中に音が発せられた時に録音してくれるアプリを見つけた。早速私はそのアプリをダウンロードして使うことにした。
もしかしたら私が想像しているもの以外に何か違う恐ろしい音でも録音されていたらどうしようというちょっとした不安もあったが、とにかくこの睡魔を何とかしたいという思いが勝ち、使うことに決めた。
ダウンロードした当日、自分が寝る時にそのアプリを起動させた。朝までそのままにしておくと寝ている間に何か物音があった時は自動的に録音してくれるという。きっといびきをかいたり息が突然止まって苦しそうにしていたりしたら、録音していてくれるはずだ。そんな期待を込めて眠りについた。もちろん目を閉じて数分後には眠りについていた。
それから三日間同じようにこの録音を続けた。
私は不安と期待の入り混じった中、録音されている音を確かめることにした。
すると一晩の間に10回ほど、それぞれ30~60秒の音が録音されていた。どんな音が録音されているのかドキドキしながら再生してみると、聞こえてきたのはこんな音だった。
「ガサガサガサガサガサガサ」
布がこすれあうような音。
そう、私が寝がえりを打って布団がこすれ合っている音だった。
他の音も確認してみた。
「ピピピッ」
これはスマホのお知らせ通知の音だった。音が鳴ればスマホ自身からの音でも録音されている。ぐっすり眠っている私は、そんな音にはまったく気づいていなかった。
すべての音を確かめたが、いずれもこのどちらかであった。
つまり、私はいびきもかかず、歯ぎしりもせず、静かに寝ていて、何度か寝返りを打っていることが分かった。
しかも寝返りはいつもだいたい朝の4時頃に激しく何度も行っているようで、そのころに目が覚めてトイレに起きていた。
寝ているときの自分について、こんな風に調べてみたのは初めてだ。
起きているときはもちろん自分の行動に自覚はあるが、寝ているときの自分は未知の領域。もう一人の自分を見るようで、とても怖かったが、意外に大人しかったことに拍子抜けしてしまった。
かえって、いびきをかいていたほうが、いつも眠い理由が分かってよかったのに。そんな風にも思えてしまった。
結局のところ、この眠たさの原因はよく分からなかった。おそらく睡眠の質が悪いのか、単純に一般の人よりもたくさん眠らないとだめなのかもしれない。しかし、未知の自分を知るというワクワク感やドキドキ感は体験することはできた。
自分自身をいちばん知っているのは自分だと思っていたが、実はいちばん知らないのが自分なのかもしれない。よく鏡で見る自分というのはいつもキメ顔をした自分であり、素の自分を客観的に見ることはほとんどない。気づかぬうちに撮られていた写真に写っていた間抜けな自分の顔に驚くことがある。
それくらい、自分というものは実は分かっていない。今回は寝ている間の自分を知るために音を録音してみたが、ほんの少しだけ、未知の自分に近づけたような気がした。
未知の自分、つまり可能性とでもいえようか。
いつも自分の限界はこれまでだと決めていたが、意外と自分の知らない可能性があり、他にも何かできる力があるのかもしれない。
子供のころからいつの間にか自分はこういう人間なんだと型に当てはめていた。いい子でいないといけない。宿題はきちんと忘れずにしないといけない。テストではいい点をとらないといけない。窮屈な自分に辟易しながらもそうするしかないと思っていた。大人になってからも、自分を演じるようにしていたところもある。だってそういう自分しか知らなかったのだから。
今、大人になってからずいぶん時間が経った。これからもアクシデントがなければ私の人生はまだ続くはずだ。未知の自分との出会いはまだあるのだろうか。出会うためには、いつの間にかかけてしまった自分自身への鍵を外していかなければならないだろう。
睡眠中の音を録音したら聞こえてきたもの、それは未知の自分をもっと知れというもう一人の自分からのメッセージだった。
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