献血は命をつなぐボランティア、のもう一つの意味
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:石野敬祐(ライティング・ゼミ特講)
僕は血というものが苦手だった。小さい頃、転んでできた擦り傷でも、カッターナイフでちょっと切ってしまった指先の傷でも、血を見ると軽いパニックになっていた。大人になり、ちょっとした出血に動じることはなくなった。それでも健康診断の血液検査での採血は特に苦手で、針や血を絶対見ないように首を捻ってそっぽを向き、さらにぎゅっと目を閉じていた。
そんな僕だが、近年、定期的に献血に行くようにしている。
始めたきっかけは東日本大震災だった。長靴やスコップを持ってボランティアで東北へ向かう友人もいたが、僕には行く勇気がなかった。でも何かのボランティアをしたい。そう思っていた。そんな中、目に入っていたキャッチコピーがこれだった。
「献血は命をつなぐボランティア」
献血。もちろん名前は知っている。それ以上は知らなかった。
調べてみると、僕が住む神奈川県では毎日約900人分の血液が必要とされているそうだ。血液は人工的に作ることができず、献血でしか血液を調達できない。しかも血液は生きている細胞が入っていることから有効期限が定められているので、血液を長期保存することもできないということだ。そして、血液が使われる先としては輸血だけではなく、医薬品を作るためにも使われるということを初めて知った。
献血って、思っている以上に意味のあることかもしれない。血はやっぱり苦手だけど、こんな時期だし、僕の血液で誰かの命をつなげるならやってみよう。
震災の被害を受けた方に届くかどうかはわからないが、誰かの役に立てるなら。苦手でもやるというところも含め、僕らしいボランティアになるかもしれない。そして献血ルームに向かい、400ml献血をした。緊張したしやっぱり怖さはあったが、終わるとなんだか自分を誇らしく思えた。
献血したと次の献血までに3ヶ月以上空けるルールとなっているが、再度献血ができるようになってもまだまだ震災の影響は色濃く残っていた。そんな状況で最初の一回だけ? なんて周りに言われたらかっこ悪いかな、などと見栄っ張りな自分が出て、2回目の献血に。そして、その後もなんとなくそのまま惰性で続けるようになった。
ある時、献血に対する気持ちが変化した。積極的に献血に行く意識が高まった。
父は肝臓のガンだった。手術、新薬も含め様々な治療を続けていたが改善が見られず、打つ手がなくなった。余命宣告を受けた。よくドラマで見るような宣告シーンだった。
「3ヶ月ぐらいを覚悟してください。場合によってはそれより早い可能性もあります。身の回りの整理など、できることからでも少しずつ準備と覚悟をしておいてください」
そして、父はそのまま肝臓のガンで亡くなった。だが宣告された3ヶ月後ではなかった。
なんとそれから2年以上も生きた。
悲しみを克服できた後、僕は父の予想以上に余命宣告以上に生きられたことに興味を持つようになった。父がなくなってしばらくの間、母と「お父さん、3ヶ月って言われてたのによく頑張ったよね」という話を何度もしていたのだ。何が父の命をつなぎとめていたのか。「家族の愛情」とか「本人の生きる意志」的な美談ではない何かがあるのではないか。それを知りたくなった。
僕の結論。勝手な妄想かもしれないが、僕の中では「血液」。というのも。
父はガンが見つかった後も、血液だけは(ガン患者にしては)かなりいい、ということをよく言われていた。詳しい数値は知らないが、検査に付き添った母がニコニコしながら「血液検査の結果はよかった」と何度も僕に話してくれたシーンがなぜか思い出されたからだ。
たしかに血液は健康のバロメーターということを聞いたことがある。勝手な思い込みかもしれないが、血液さえ良ければ健康を保ちやすくなる。ありうるかも。
それから自分自身の血液ということにも興味が出てきた。それまでは、全然気にも止めていなかった血液検査結果(献血後に必ず送られてくる)を、ちゃんと見るようになった。履歴を見ると、疲れが溜まっていた時期には白血球の数値が若干悪くなっていた(献血ができるレベルではあったが)し、仕事もプライベートも、もちろん体の調子もよかった時期の結果では赤血球の数も多くなっていた。不謹慎と言われるかもしれないが、こうしたら血液スコアがよくなる、悪くなる、と若干ゲーム感覚を持ちながら結果を見るようになった。会社で受ける年1回の健康診断以外にも、血液の状態をチェックできるなら…… 献血に対して新たな意味・価値が感じられるようになった。
「献血は命をつなぐボランティア」
ずっと他人の命をつなぐだけのつもりでいた。が、きっとそれだけじゃない。自分の命さえも未来につなげるかもしれない。血液に意識を持ち続けていれば、異常にいち早く気付ける。他の人も自分もハッピーになるボランティアかもしれない。
すでに20回以上の献血をしている今も、採血で針を刺されるときには渋い顔をしている僕。でも、献血をやめるつもりはない。健康である限り、そして健康であるために。
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