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地元民が語る!「伊豆に来たなら肉を食え」の理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蓮台寺 梓(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
昔々あるところに、ひとりの若者がおりました。彼は転勤族でした。ある日のこと、若者は伊豆への異動を命じられました。
 
「伊豆の名物といえば、海産物だ!」
 
東京からはちょっと遠いけれど、そのぶん新鮮な海の幸をお腹いっぱい食べてやろう。若者は意気込んで、赴任しました。
 
意気揚々と伊豆急行に乗り込んだ若者は、はるばる東伊豆までやってきました。海の向こうには、伊豆大島が見えます。波はどこまでも穏やかで、太陽が海原をやさしく照らしています。寝坊して、朝ごはんを食べていなかった若者は、町の人におすすめのお店を尋ねました。
「どこかおいしいお店を教えてくださいな」
 
町の人は答えました。
「東伊豆に来たんなら、”肉チャーハン”を食べて行って!」
 
それを聞いた若者は、お礼もそこそこに南へ立ち去りました。本当は、「稲取キンメ」のお店を教えてもらいたかったし、絶対に教えてもらえるだろうと期待していたのです。
「それにしても、”肉チャーハン”ってなんだろう?」
 
気を取り直して、再び伊豆急行に乗り込んだ若者は、終点の伊豆急下田駅までやってきました。そろそろ昼食の時間です。お腹を空かせた若者は、町の人に尋ねました。
「どこかおいしいお店を教えてくださいな」
 
できたら伊勢海老など食べてみたいのですが、と彼が続ける前に、町の人が答えました。
「下田の名物といえば、”豚カツ”だよ。いくつかおすすめのお店があるけど、どこがいいかな」
 
「なぜ伊豆まで来て、豚カツを食べなければならないんだ!」
またも期待を裏切られた若者は、お礼もそこそこに南へ立ち去りました。
 
そういえば、下田駅前にはいくつか海産物を扱う食べ物屋さんがありましたが、全て閉まっていました。この日は水曜日。観光客が最も少ないことから、ほとんどのお店は定休日だったのです。
 
東海バスに乗り換えた若者は、とうとう南伊豆までやって来ました。田舎はバスの本数が少ないので、もう夕方になってしまいました。お腹がペコペコになった若者は、町の人に尋ねました。
「どこかおいしいお店を教えてくださいな」
 
町の人は答えました。
「南伊豆の”ジビエ”は、臭みがなくて最高だよ」
 
若者は「また肉か!」と叫んで、西伊豆へ向かおうとしましたが、既に終バスの時間を過ぎていたので、泣く泣く下田へ戻っていきましたとさ。その夜、若者が何を口にしたのかは、誰も知りません。おしまい。
 
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この若者が期待していたように、一般的に伊豆の名物として挙げられるのは、海の幸である。伊豆の観光ガイドブックを開けば、赤く光る金目鯛の煮付や、プリプリした伊勢海老のお刺身が、所狭しと紙面を飾っている。
 
温暖な気候を活かし、柑橘栽培が盛んな伊豆では、レモンのような外見とさわやかな甘さのコントラストが魅力的な「ニューサマーオレンジ」なども名物のひとつに数えられてはいるが、やはり外せないのは海産物である。せっかく伊豆まで来て、海の幸を味わうことなく帰るなぞ、映画館でポップコーンだけ買ってロビーで食べて帰るようなものだ。
 
ところが、私の経験上、地元民におすすめのお店を聞いてみても、なかなか海産物を出すお店を教えてもらえないことが多い。真っ先に教えてくれるのは、「肉チャーハン」やら「豚カツ」やら「ジビエ」やら、なぜか肉系のお店ばかり。
 
仕事の都合で、2年ほど下田に住んでいた私は、ある時不思議に思って、地元の方に理由を聞いてみたことがある。
「そう言われてみると、なんでだろうな?」
 
はっきりとは分からないが、「刺し身や煮付を出す観光客向けの店は高い」「魚はスーパーや近所で間に合っているから、わざわざ食べに行かない」といった事情があって、ふとしたときに「おすすめのお店」を聞かれると、普段使いしている定食屋さんなどを紹介してしまう、ということらしい。
 
確かに、海産物系を扱う伊豆のお店は、観光客価格であることが多い。地元密着の小料理屋やレストランもあるにはあるが、一見さんにはおすすめしにくい雰囲気があったり、車がないと行けない場所にあったりする。稲取キンメなどは、ブランド化して以降、高級品になってしまい、ほとんどが築地市場に流れているというし、日常的に利用できそうな海産物系のお店を急に聞かれても、正直あまり思い当たらない。
 
それに対して、たとえば東伊豆町が誇るB級グルメ「肉チャーハン」は、手頃さが魅力だ。駅から徒歩圏内に何軒かお店があるし、1,000円出せばお釣りが来る。ちなみに、「肉チャーハン」とは、普通のチャーハンの上に、大きめに切った肉と野菜を炒めた塩辛い餡が掛かっているだけなのだが、他ではあまり見かけたことのない、癖になる見た目と味だ。「東伊豆のソウルフード」とさえ言われている。
 
下田の豚カツ云々については、駅前に「とんかつ一(はじめ)」という、とんでもないインパクトのある店があることが、話の取っ掛かりになることが多い。この店は、さしておいしいわけではない(事実)のだが、「エンドレス給仕」で有名だ。すなわち、食べても食べてもおかわりが注ぎ足され、なかなか帰ることができないという、謎の給仕(給餌)が体験できる。もちろん、市街には「とんかつ錦」「とんえび」といった、ごく普通に地元民から支持される実力派の豚カツ屋さんもある。
 
ジビエについては、南伊豆だけでなく、伊豆全体の「救世主」とも目される存在になっている。伊豆の道を走ると、鹿や猪にしょっちゅう遭遇するのだが、彼らが農作物にもたらす食害は甚大だ。たとえば、鹿にかじられたミカンの木は、その部分から先が枯れてしまう。鳥獣害対策のひとつとして期待されているのがジビエ料理、というわけだが、癖の強い風味が魅力である一方、取っ付きにくさにもなっている。その点、南伊豆にある「Motoばる おきくや」のジビエは、臭みが全くないので、初心者にも安心しておすすめできる。
 
このように、「伊豆で美味しい海産物が食べたい!」と思っても、地元民におすすめのお店を尋ねた場合、なぜか期待していたのと違うジャンルを勧められてしまうことがありうる。やはり、自分の食べたい物をきちんと伝えることが一番大切ではあるが、ときには地元民におすすめされたお店に行ってみるのも、隠れた「伊豆らしさ」を味わうチャンスになる。
 
特に、観光客向けの店が閉まっている水曜日には、素直に地元の人のアドバイスに従った方が良い。冒頭の青年のように、途方に暮れなくて済むように。
 
 
 
 
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2020-04-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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