メディアグランプリ

雨の日の月曜日は


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:松本初穂子(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

雨の日の月曜日は憂鬱だ、という曲がある。歌うのは70年代人気だったアメリカのポップデュオ、カーペンターズだ。この曲を聴くたびに「ああ、わたし以外にも雨の日の月曜日は気分が下がるひとがいるんだなー」となんとなく励まされる。

 

この曲を知ったのは小学5年生のときだ。きっかけは父だった。ある雨の月曜日、出勤前の父はなかなか布団から出ないわたしのもとに来て「カーペンターズの曲に雨の日の月曜日はめんどくさいなーっていう歌があるんだよ」と教えてくれた。そのときは「へえー」と聞き流したが、なんとなくひっかかったので、試しに家にあったカーペンターズのCDをかけてみた。英語の歌詞はまったくわからなかったが、イントロの優しいハーモニカと柔らかい女性の歌声が妙に心地よく、その後しばらくは毎日カーペンターズを聴いていた。なかでも「雨の日の月曜日は」がお気に入りの一曲だったのは言うまでもない。

 

小学5年生のとき、わたしはとにかく学校に行きたくなかった。雨の日の月曜日どころか毎朝憂鬱だった。けれど「学校に行きたいくない」ということは「良くない」ことだと叩き込まれていたから、何がなんでも行かなくちゃ、と毎朝自分を奮い起こしていた。だから休日明けの月曜日に雨なんて降られたら最悪だ。雨の音で目覚めた瞬間から気分がダダ下がり、どうしたらサボれるか脳みそをフル回転させていた。

だから「雨の日の月曜日は憂鬱だ」という曲は衝撃的だった。そうか、雨の日の月曜日に気分が下がるのはわたしだけじゃないのか。そしてこれを英語で歌ってるってことは世界中でみんな憂鬱になってるのか。そう思うとなんだか気持ちがすっと楽になった。そしてこれを励みに思い切って雨の日の月曜日は学校をサボってもいいと決め、中学校を卒業するまでこの特別ルールを適用し続けた。社会人になった今でも、雨の日の月曜日はなんとなく憂鬱だ。けれど満員電車で同じく憂鬱そうな人々をみてると「ああ、みんな同じなんだなあ」と思い、脳内にはカーペンターズが流れる。

 

と同時に、年に数回の雨の日の月曜日がわたしにとって特別な日になっている。なせなら、このけだるい1日を乗り切るため「省エネモード」に設定し「ちょっと力を抜いても良い」「自分を甘やかしてもいい」という新たな特別ルールを適用しているからだ。それは例えば、めんどくさいことは次の日に回したり、コーヒーを長めに飲んだり、といった些細なことだが、年に数回だけ訪れるこの日がちょっと楽しみだったりもする。

 

あのとき、もし父が「雨の日の月曜日は」を教えてくれなかったらどうなっていただろうか。きっと「あー嫌だ、本当に行きたくない」と思いつつ、無理やりランドセルを背負ってドナドナのごとく学校へ行く10歳のわたしが容易に想像できる。けだるい雨の日の月曜日に嫌なものから逃げて、家でゆっくり充電できたおかげで、そうでない日々をなんとか生き抜くことができたんだとおもう。

 

ある意味わたしを救ってくれたカーペンターズだが、先日衝撃の事実を知った。あの曲のタイトルは「雨の日の月曜日は」ではなく「雨の日と月曜日は」だったのだ。英語では”Rainy days and Mondays”。つまり、あの曲は「雨の日と月曜日、どっちも憂鬱だなぁ〜」という歌だったのだ。

 

危なかった。あの朝、この正しいタイトルを知っていれば、わたしは少なくとも中学卒業まですべての雨の日と月曜日は学校をサボり続けることになっていたのだ。もちろん学校に行くことが必ずしも良いとは限らないが、それでも雨の日と月曜日に授業を受けていなかったら、きっと違う人生になっていただろう。そして今でも「すべての雨の日と月曜日は憂鬱だから省エネモードの日」なんて設定していたかもしれない。ちなみに単純計算で1年のうち月曜日は52日、そしてGoogleによると東京都は365日のうち110日が雨らしい。つまり162日、1年のうち約45%を省エネモードとして送る、もはや人生そのものが省エネモードになっていたかもしれない。

 

待てよ。ということ父はこれを見込んで、あのときわざと誤ったタイトルをわたしに教えたんじゃないだろうか。当時の父はわたしに学校へ行くことを強制はしなかったものの「ちゃんと勉強しないと、ろくな生活ができないぞ」と言い続けてた。そんな父にとって、娘が1年のほぼ半分も学校を休むなんて恐ろいことだ。その一方で、彼も雨の日の月曜日がけだるいこともわかっていた。だからたまには学校を休んでもいいよ、と伝えるためにあえて年に数回しかない「雨の日の月曜日」と言ったのかもしれない。

 

この真相はわからない。それでも、あのとき「雨の日の月曜日は」という誤ったタイトルを教えてくれた父には密かに感謝している。おかげで一応、娘は1年の大半をまともに過ごしている。

 
 
 
 

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2020-04-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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