メディアグランプリ

100kg以上の裸の女性を撮る写真家に、強く憧れを抱いた


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:やす(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 

「写真を撮る人は、二種類いるんだ」

 

そう話し始めたのは、30代前半の写真家のPさん。
出会って3ヶ月。撮影現場で顔を合わせることはあるけれど、今回のように男二人新幹線で一緒に名古屋までの出張は初めてで、僕は高揚感とほんの少しの気まずさを感じていた。
 

「カメラマンと写真家だよ。やすくん、この違いって分かる?」
Pさんは話し続ける。
 

だがわからない。

 

なんだ

 

カメラマンと写真家の違いってなんだ。

 

日本語と英語の違い?
なんとなくなイメージで、カメラマンの方が若くてイケイケ、写真家は髭もじゃもじゃな
高齢の方が古い機械を使って撮っているイメージ。
 

実際に辞書で調べてみると
「カメラマンとは、1.専門の写真技師。写真家。2.新聞社などの写真撮影担当者。3.映画・テレビの撮影技師」
「写真家とは、写真を撮る人。特に写真を芸術の表現手段として撮影・制作する人」
 

なるほど、わからん。
というかカメラマンの説明で写真家って書いてあるじゃん。
一緒じゃないの?
 

答えのわからないもどかしさと、何かを試されているような居心地の悪さを感じてきたのでPさんに回答を促してみると、

 

「カメラマンとは、仕事としてお金をもらうために写真を撮っている人。写真家とは、アートとして特定のものを撮ることに人生の使命を感じている人のことをいうんだよ」

 

とのこと。
へー、なるほど。
カメラマンと写真家の言葉の違いにはそんな意味が含まれていたのか。
聞くところによるとPさんは、あるときはカメラマンでありある時は写真家でもあるそうだ。
 

Pさんのカメラマンの顔は僕もよく知っている。
仕事で一緒に家電や車や家具の撮影を行ったりしてきた。だるいだるいと言いながら、今回もはるばる名古屋まで行きミシンの撮影だ。
 

では写真家としての顔は……?
僕は、Pさんが何に人生の使命を感じて写真を撮っているのか非常に気になった。
 

そこでPさんに聞いてみると、1つの小さなアルバムを見せてくれた。

貧困の恵まれない子供達? LGBTの方々? はたまたこの世界の大自然?

 

僕は胸を弾ませながら、そのアルバムをめくった。

 

そこにはなんと、体重100kgはゆうに超えていそうなふくよかな女性とPさんが、お互い裸で抱き合っている写真だった!

 

ページをめくっていくと、その写真全てに全裸なふくよかな女性が写っている。
笑っていたり泣いていたり、海をバックに哀愁漂う表情をしていたり、自身の体の三段腹の肉の間にレタスを挟んでいたりと、とにかく独創性あふれるスタイルで撮られていた。
全て全裸で。
 

その写真を見て言葉を失っている僕を尻目に、Pさんは話し始めた。

 

ふくよかな女性に心からの美しさを感じること。
現在120kgと140kgの女性と3人で同居していること。
そのうちの140kgの女性がこの前出て行ってしまったこと。
家族に自分の使命を話すことができないこと。
この美しさを人に伝えることが、自分の生きる上での使命なのだと思うこと。
 

きっと、仕事でしか繋がりのない僕だからこそ、Pさんは家族に言えないことも話してくれたのだと思う。

この話を聞いて、僕はある種の憧れをPさんに抱いた。
「強く抱いた」と言っても過言ではない。
「Pさんになりたい」とさえ思った。
 

なぜか

 

それはもちろん、女性の裸体が見たいからではない。

 

Pさんは30歳前半にして、自分の使命を、やるべきことを、生きる意味を自覚している。
ふくよかな女性にこの世で一番の美しさを感じ、彼女たちに対する偏見をなくしその美しさを伝えることが、自分の生まれてきた使命だと疑っていない。
 

なんと素晴らしいことか。

 

果たして、「あなたの使命はなんですか?」と聞かれて答えられる人が世の中どれほどいるだろう。

 

自分の使命を見つけることも大変ではあるが、自分の人生をかけてまで解決したい何かを決めるという行為は、ものすごく覚悟がいるように思う。
なぜなら「それ」を選んでしまった以上は、それ以外の全てを捨てることになるからだ。
 

Pさんは若くして自分の使命を見つけた上で、他の選べるものを全て捨てその使命に挑んでいる。
さらにそれで仕事をし、対価まで得ているというのだから驚きだ。
 

僕には、あるだろうか。それほどまで胸を張って言える自分の使命が。

 

僕にだって、叶えたい願望ならたくさんある。
海外を回りたいだとか、大きい家に犬と一緒に住みたいだとか、モテたいだとか。
 

ただどれも「使命」と言われるとピンとこない。

しかしそれでいいのだろうか。ただ自分の使命がわからないからと待っていても、27年間現れなかったのだからこれから現れる保証もない。

 

ともすれば大切なことは、Pさん同様「決断をする」ことではないか、と僕は気づいた。

 

自分の使命はこれだと決断し言葉にし、それを叶えるために日々を生きていく。
たとえそれが違ったとしても、その時また変えればいい。
 

変えていけないルールなんてないし、使命を決断し進んでいくことが日々を彩り、また新しい使命を見つけるための栄養になるはずだ。

 

僕に足りないことは「決断」なのではないかと、Pさんの話を聞いて気付かされた。

 

じゃあ僕は何を使命として決断しよう。

 

そう思った時、まずは自分という人を幸せにしようと思った。なぜなら自分が幸せでないと、他のことに手を回す余裕がないからだ。

 

当分は「自分を幸せにすること」を使命とし、よりよい使命を見つけるまでは、それを叶えるため最大限の努力をしようと思った。

 
 
 
 

***
 
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2020-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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