10年前に見た映画の点が2020年に線になった話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:オリベツカサ(ライティング・ゼミ平日コース)
「誰かに似ている」
そう思ったけど最初は誰に似ているのか思いつかなかった。
その女性は凛として立っていた。背筋のラインがとても美しい。頭の中で答え合わせをしているけど一致しない。一体誰ににているのか。
そこは本屋とカフェが一体化したお店だった。ツンとした本屋ではなくフレンドリーな本屋だ。なのでスタッフと会話も気軽にできる。
きれいな本屋ではない。甲乙でいうと決して甲な本屋ではなく「乙な本屋」なのだ。最近はこの乙に入るために定期的に行っている。お気に入りの場所になった。
誰かに似ているなと思って家に帰りながらまた考えていた。でも思いつかない。
シャワーを浴びて布団の中にもぐりこんで寝ようとウトウトしたときだった。全身の力が抜けたからなのだろうか急に思い出した。あのときの映画の女優に似ている。
映画を見たのはかれこれ10年前だ。この頃は中国語を猛烈に勉強していた。そして中国語の映画も勉強のためにどんどん見ていた。そのときに見た映画の女優に似ているのだ。
この映画は当時気に入って何回もリピートして見ていた。主人公の男女がピアノを一緒に連打するシーンは特に何回も見ていた。主題歌も何回も聞いた。主題歌のタイトルにある「たんぽぽ」という文字が漢字の「蒲公英」になっていた。漢字は日本語と同じでも中国語なので発音はまったく違う。このことに新鮮さを感じていた時期だ。この蒲公英の中国語発音をかっこよく言えるのも主題歌を何回も聞いたおかげだ。
「そうかあの頃見た台湾映画の主人公に似ているのか。今度会ったら予告編動画を本屋さんに紹介しよう」と心の中で思った。
10日ほど経ちまたあのカフェのような本屋に行った。飲み物も注文できる。アイスコーヒーを注文した。
あの女性がいた。「台湾映画の女優に似ていますね」と伝えた。台湾映画は見たことがないらしく「どんな映画ですか」と聞かれた。
予想通りだったので予告編動画を教えた。
動画を見るとこう言われた。「すごくうれしいです。自分でもなんとなく似ているのがわかります。すてきな女優さんですね。ありがとうございます」と。
ショートヘアの髪型も似ているが凛とした立った感じが似ている。背筋のラインも似ている。この感じも伝わっているんだと思った。
そしてこの女性と気軽に話せるようになった。店員とお客の関係がもともと近い本屋だけどそこからさらに近づけた気がした。
あの頃猛烈に中国語を勉強していてよかったと思った。そして台湾映画を何回も見てよかったと思った。映画を見て終わりじゃなかったんだと思った。
10年前の映画の点が2020年になって線につながった。
経験が必ず役に立つとはいえない。未来なんてわからない。予想できない。でもつながる未来もある。
今回の出来事は小さな出来事かもしれないけどつながった。つながる未来があることがわかった。
ということは役に立つことばかり気にしていてもしょうがない気になってきた。効率的ではない方法でもこうやって結びつくこともある。効率的ってなんなのか。偶然を楽しむ力は効率からは生まれないような気がしてきた。
偶然はあるときふと風のようにやって来る。いつ来るかはわからない。突然やってくる。
やってきても気付かないときもある。でも気付く力はあった方がいい。
最近また違う台湾映画を見ている。こうやって好きなことをやっていたらまたいい偶然が来そうな気がした。
新しく見た映画にまた同じ女優が出演していた。しかし今回は似ていない。あの女優に似ている本屋さんはどこに行ったのか。女優が軸なのか本屋さんが軸なのかわからなくなってきた。この想像も楽しい。
本屋さんは10年前に見たあの映画に出ていた女優に似ていたのだ。あの映画以外の映画に出ているのは同じ女優でも似ていない。
似ていると思った映画のタイトルは「言えない秘密」で女優の名前は「グイルンメイ」だ。グイルンメイ出演の映画を見ると本屋さんに会えると思ったのに不思議と裏切られた感があった。勝手な話だ。これは台湾映画から本屋さんに軸が移動している証拠だと思った。
今度会ったらこのあーだこーだ考えた話をしようと思う。
こう考えると点が線になっていてその線がまだ長くなり続きそうだ。
人生はこうやって点を線にして描き続けたら楽しいんじゃないかと思った。
「おすすめを教えてください」では物足りない理由がわかった。おすすめを共有しても満たされないときがある。点が線になり線を描いているときは実に楽しい。おすすめの映画を見ただけでは点だ。しかし何かとつながると線になる。これかも線を描き続けようと思った。
今回のことで人生のコツをつかめたような気がした。
「線を描く人生を送ろう」と思う。
***
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