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部屋と恋人の関係性


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記事:藤原 千恵(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
忘れられない部屋がある。
 
今まで数回引越しをしたことがあるが、その中の1つで、それは私が初めて東京での1人暮らしをはじめた部屋だ。
 
その部屋に入った瞬間、私はこの部屋に住むのだ、と直感でわかった。
 
高校を卒業してすぐの18歳の時に、私は福岡で1人暮らしをしていた。その部屋は実際に足を運ばずに選んだ、どこにでもある1Kだった。
初めての一人暮らしの部屋は「何者でもない」当時の私にはぴったりの、可もなく不可もない「いたって普通な」部屋だったように思う。
 
東京での就職が決まり、私は2泊3日という強行プランで東京へ部屋探しに行った。
行ってすぐに、2泊では全然決めきれない、とわかった。
まず東京は広すぎるし、部屋がありすぎるし、私の予算では希望している部屋が全くと言っていいほど見つからなかったのだ。
福岡の家賃相場と、東京のそれはここまで差があるのかと、頭を殴られたような衝撃を受けた。
それでも、紹介された部屋には時間が許す限り足を運んで内覧した。
 
1日目は収穫なし、そして2日目に私は運命の出逢いを果たすのだった。
 
「この物件が最後です」
と担当者に言われ、その部屋に入った瞬間、私は今まで見てきた数々の部屋を一瞬にして忘れた。
ぐるりと部屋の中を見渡して、
「ここにします!」
と伝えた。担当者も、もちろん私もびっくりするくらい即決だった。今までの内覧は、この部屋に出会うためのものだったのではないか、と思うくらい。
 
なかなか、ぴんとくる部屋に出会えず、もしかしたら「好き」で選んではいけないのだろうか……と諦めのような、半分ヤケになったような気持ちでいた。
それでも、最後の最後で、思い描いていたよりも素敵な部屋に出会えたのだ。
 
その部屋は、予算も築年数もだいぶオーバー、ベランダもない部屋だったが、部屋に入った瞬間にそこで暮らす自分が見えた気がした。
扉はアーチ型、部屋の天井は半分から斜めになっており、その斜め部分はガラスだった。
その斜め部分に沿うようにブラインドがついていて、昼間は外にいるかのような日当たりと、夜はブラインドを全開にすれば、月も星も見える仕組みだ。
 
少し不便でも、愛すべき何かがある方が、日々の充実度が変わってくるように思う。
疲れて帰ってくる自分の居場所が、自分の好きな空間であることはとても大事だ。
 
何度か引越し新しい部屋で暮らしているが、私はきっとおばあちゃんになっても「あの部屋が1番好きだった」と口にすると思う。もう戻らない恋人との、色褪せない日常を思い出す感覚に近いかもしれない。
そんな、ファンタジーのような部屋で暮らした東京生活の4年間は、私の宝物だ。
 
部屋と恋人の関係性に関して、こんな話を聞いたことがある。
恋人やパートナーのことを尋ねて、不満を口にする人でも、住んでいる部屋のことを尋ねると楽しそうに話すことがあるそうだ。
その場合、もしかしたら好きな人のことは大げさに悪く言っているかもしれない、という話。
自分を守ってくれるもの(部屋)=パートナーという関係性だが、この話を聞いたときに「本当にそうだな」と腑に落ちた。
 
どちらも安心感が必要な場所。
 
照れ隠しでパートナーのことは簡単に褒められない人が多いとしても、自分の身を置く家や部屋のことを悪くいう人にはあまり出会ったことがない。
この話は、私が人と話す上で、相手を知る手段として大切にしている1つだ。
 
これから新しい部屋を探しに行く時に、駅近でいくら素晴らしい部屋でも、もしかしたら駅から離れた不便な物件に惹かれるかもしれない。
その時の自分が求めているものとぴったり合った部屋に出会えることは、タイミングが良かったという以前に、私は「運命だ」と思ってしまう。
まるで、運命の恋人に出会った時のようにときめいてしまう。
そしてその恋人の元で暮らす自分を想像すると、しあわせ以外の言葉がみつからない。
 
今暮らしている部屋にも、もう長く居着いている。
2人暮らしの部屋にしては、これまた「狭い」という厄介な問題があるが、それでも離れられない愛すべきポイントが散りばめられた部屋だ。
それは、風通しがよく、部屋から見える景色が最高に素晴らしいところ。
 
そういえば私は、夫と暮らすことで見える日常風景が好きだ。部屋の窓から外を見るように、相手を通して見ることができる何気ない日常の風景にこそ、安心感がある。
 
部屋と恋人、人それぞれに大事なものは違うと思うが、根底には両者ともに譲れないものがあるのではないかな、と思っている。
その共通点を見つけることは、隠れていた自分の気持ちを見つけていく実験のようで、とてもおもしろい。
 
 
 
 
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2020-05-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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