1人のファンが生まれる瞬間
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:ヨシノアヤ(ライティング・ゼミ日曜コース)
お茶屋さんに、恋に落ちた。
何も、お茶屋さんの超絶イケメンに恋に落ちたわけではない。
たまたま見つけたオンラインショップの、来店したこともないお茶屋さんに、恋に落ちてしまったのだ。しかもそのお茶を飲む前に。
この長い巣篭もり期間。ちょっとくらい家で美味しいものを食べたい、飲みたいと思う人間心理は不思議ではないだろう。私も例に漏れず、おうちライフを楽しみたいと思った。だからといって高級食材や美味しいスイーツお取り寄せには興味もなければお財布の紐も緩まないのだが、一人暮らしの家に普通のお水以外に炭酸水、紅茶、コーヒー、野菜ジュースを数種類ずつ取り揃え、常に何かを飲む生活をしている自分は、飲み物には楽しみが欲しいタイプである。
そんな私の生活において水に匹敵する強力レギュラーかつミネラルの源である麦茶の水出しティーバッグが、底をつきそうになった。普通に同じものを買い足しても良いのだが、ふと先日飲んだルイボスティーが美味しかったことを思い出し、代わりのお茶としてルイボスティーを購入することにした。
ルイボスティーはあれこれ良い効能があるとかなんとか言われている飲み物だが、私はそこに惹かれたわけでも、お茶の味に強いこだわりがあるわけでもなく、単純にクセのある香りと苦味が好みなので、あんなお茶がまた飲みたいと思ったのだ。
つまり、そこそこ安全そうな商品で、そこそこ安心できそうなお店で、そこそこ安価であれば、味や効能に特にこだわりはなく、とりあえず買ってみようという軽い気持ちの消費者であった。
早速、楽◯のオンラインショップをいくつかチェックし、安くて口コミのそこそこ良いこの商品でいいかな〜と思いかけたとき、一つのお茶屋さんが目に入った。
そのお店は福岡県八女地域に長く続く由緒正しいお茶屋さんであり、商品も安心して飲めそうであったが、何より私の目に飛び込んできたのは、同店舗を長らく支えてきたであろうおばあさま(ここではお姉さまと呼びたい)が笑顔でお茶の葉を摘んでいる姿の写真であった。
その素敵な笑顔を見て自粛生活で疲れていた心が癒された私は、このお姉様が大事に摘んでくれたお茶なら美味しいに違いないという確信を持ち、すぐに商品を注文した。そう、この時点で、軽い一目惚れをしていたのだ。
その後お店から届いた注文完了メールには、アンケートのお願いが書かれていた。内容を見ると、「なぜ当店を選んでくれたのか?」「本商品を選んだ最後の決め手は?」といった、商品の感想ではなく、商品購入について問う質問がいくつか並んでいた。「回答者には次回5%オフ!」ということは書かれていたが、質問数もそれなりにあり、メールに返信する必要があるというのは、通常の消費者にとってはちょっと高いハードルかと思われる。私も通常ならスルーしていたと思うが、心がほっこりしたことの感謝を伝えたくなった私はアンケートに回答することにした。もちろん「決め手は?」の質問には、「(お姉様の)笑顔」という回答をし、この大変な時にも商品を作ってくれている従業員のみなさんを応援する気持ちをしたため、メールを返信した。
そして数日後、商品が届いた。開封すると中には、「大変な時期ですががんばりましょう」というお店からの手紙とおまけのお茶パックが入っており、その手紙には、あのお姉様が素敵な笑顔でお茶摘みをしているまた別の写真が添えられていた。
私はこれを見た瞬間、このお店に恋に落ちた。一目惚れを通り越し、ファンになってしまった。
「ファンをつくる」極意がすべて詰まっている、と思った。
日常的に消費するような、言葉を選ばずにいうと「あまりこだわりのない」商品を初めてオンライン店舗で購入しようとするとき、自分が「これがいい」「このお店がいい」と思って買うというより、価格という数字で測れる基準や、口コミという他者目線で測った基準に則って買う人が多いのではないかと思う。私もそうである。
それを、このお店は超えてきた。最初に「何かいいな」と顧客に一目惚れさせ、アンケートに回答させることでお店への親近感を芽生えさせ、商品受け取り時にきっちり恋に落としてきたのだ。なお、この時点で私はまだこのルイボスティーを飲んですらいない。
もちろん、ルイボスティーそれ自体が美味しかったことは言うまでもない。というか、はなから総合して「しあわせ」が確定しているので美味しく感じる以外ないであろう。
5%オフがついてくるとかおまけのお茶があったとかそういう損得感情ではなく、お茶を飲むたびにこのお店の温かくて優しい雰囲気を味わえることが、「しあわせ」だったのだ。
「ファンをつくる」ことができるお店は、子育て上手な母親のようなものだ。
自分たちの子どもとも言うべき商品にたくさんの愛情をかけていて、その愛情たっぷりの商品に周囲(顧客)は惹きつけられるので、ますます商品は愛され、すくすくと成長していく。
対象は何であれ、なにかを育てていける母親のような存在に自分もなりたい。
そう自然と思わされた、「しあわせ」な体験だった。
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