お葬式でお別れするということ、縁をつなぐということ
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記事:文旦(ライティングゼミ日曜コース)
「お葬式、帰ってくるなら連絡ちょうだい」
母からそう言われた。
「仕事やったら無理せんでええよ」
父からもそんなメールが届いた。
昨年12月、元気だった祖母が倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
そして、お葬式についての両親からの連絡。
実家を出てからの十数年で、私はお葬式には出席できない子になってしまっていた。
社会人になって、国内外の出張が多くなった。
ある日海外出張から帰国し、携帯の電源を入れると、祖父が亡くなって今からお葬式だという連絡が入っていた。
すぐに駆け付けたかったが、距離的にも時間的にも難しいし仕事も休みづらい。
両親も無理強いすることはなく、一人遠い地から心の中でお別れをした。
その頃、実家に帰る頻度も年4回から3回に、そして気がつけば年末年始だけと減っていた。
半年以上前から日程が決まっている親戚の結婚式でさえも、出席率は3〜4割程度。
お祝いの場に同席したいと言う気持ちはあったが、なんとなく仕事を優先してしまっていた。
家族も、忙しそうにしている私を気遣って、無理に帰ってこいとは言わなかった。
そうこうしている間に、家族や親戚の中で私は忙しい人扱いになり、結婚式や法事ならまだしも、急に発生するお葬式には参列できなくて当たり前といったイメージがついてしまったのである。
しかし、本当に帰れなかったのだろうか。
いや、帰ろうと思ったら帰れたのである。
今は交通網も発達している。
学生の頃とは違ってお金にも余裕があるから飛行機や新幹線だって使える。
けれど私にとってお葬式とは、集まってお経を唱える形式的な物と言う印象で、そこまで重要だとは考えていなかった。
つまり、気持ちの問題で出席していなかったのだった。
ところが30歳を過ぎたある時、この10年で思いの外たくさんの人がこの世を去っているという事実に気がついた。
もちろん連絡を受けて弔電を送ったこともあるが、多くは帰省した際に母からそういうことがあったと知らされるだけ、またはその事実すら知らないこともあった。
いつもぶどうを持って遊びに来てくれていた声の大きな叔父さん。
小学生の頃所属していたバレーボールチームの監督。
お向かいの家に住んでいた阪神ファンのおっちゃん。
よく家に泊まりにきて一緒にお風呂に入っていたおばあちゃんの妹。
ちょうど祖父母世代にあたる人たち。
当時の私はまだ子供だったので、与えてもらうばかりだった。
何も返せていないのに、もう会えなくなっていた。
それどころか、ありがとうもさよならも言っていない。
見返りを求めることなく可愛がってくれた人、良くしてくれた人たちに対して、なんて薄情なことをしてきたのかと、自分に幻滅した。
そして昨年末、祖母が旅立った。
私は絶対に行くと決めていた。
師走の忙しい時期に1日でも休みを取るのは難しかったし、仕事と向き合っている方が悲しみを忘れられて楽だったけれど、今度こそちゃんとお別れをしなくてはと思った。
そして、お葬式に向かったのだった。
92歳という大往生で、直前まで頭も身体も元気なまま旅立った祖母のお葬式は、皆に愛された祖母らしく、沢山の人が弔問に訪れた。
写真を見て、顔を見て、花を手向けて、その都度涙が溢れたが、家族や親戚、町の人、皆で泣いて、笑って、それを繰り返しているうちに気持ちがふっと楽になった。
想いを共有することで、こんなにも救われるのかと思った。
そしてちゃんとお別れができたのだと、実感した。
もう一つ、お葬式に出て、見つけたものがあった。
それは祖母が残した縁だった。
孫にあたる私、そして従姉妹達は皆30代になっていた。
家族が増えた者、仕事で身体を壊しひと休み中の者、夢を追っている者、
若い頃は皆自分のことで精一杯で、あまり親戚での集まりに参加していなかったため、大人になって初めて、本当に久しぶりに皆が揃った。
お互いの近況報告や思い出話。祖母の死という哀しい出来事による再会だったが、話は弾み、改めて連絡先を交換した。
同じ祖父母から魂を受け継ぎ、これから先も一緒に年を重ねていく。
揺るぎない縁を持つ者同士、祖母が最期に繋ぎ直してくれた。
新しい縁もあった。
5年前に都会から移住してきた女性と祖母が仲良くなったと聞いていた。
田舎しか知らず、訛りも強い祖母が、都会育ちの人と友達になれるのか? と不思議だったが、毎日おしゃべりして、お茶を飲んで、大親友になったと言う。
「移住してきて一番良かったことは、おばあちゃんと出会えたことよ」
祖母よりもひと回り若いその女性は、涙ぐみながらそう言ってくれた。
友を失って寂しくなるはずだが、代わりに少しでも自分が力になりたい。
次に帰る時には必ず会いに行きますね、と約束をした。
時が過ぎて、春。
今この時も、日本のどこかでお葬式が行われている。
私にもまたいつか、悲しい別れが訪れてしまうだろう
でももう後悔はしたくない。ちゃんと逢いに行く。
ありがとう。
さようなら。
一生分の感謝と共にお別れを、そして故人の大切な縁をつなぎに行きたい。
***
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