赤玉国の悲劇
記事:Mizuho Yamamoto(ライティング・ラボ)
アジアの小さな国、赤玉国(あかだまこく)の王は、歴史に残る国王になろうと頑張っていました。
国のためには、1にお金儲け、2に軍事力をつけることだと考え、この2つのことに心を砕きました。
王が治める国には、随所に学校が開かれており、7歳から15歳までの子どもは9年間をそこで過ごすことが義務付けられていました。
王の目標とする海の向こうの「進みの国」では、25人の子どもたちに1人もしくは2人の師がついて面倒を見るらしく、教室と呼ばれる子どもたちが1日中過ごす部屋もゆったりしていました。
赤玉国では、1人の師が40人もの子どもの面倒を見ることになっており、教室はぎゅうぎゅう詰めで目が届かないのですが、そんなこと王の知ったことではありません。
師の仕事は、とても1人でやれる量ではなく例を挙げるとこうでした。
〈朝〉15分でやることリスト
教室で子どもたちの健康観察。具合が悪くても親に学校に行けと言われて出てきた子を、回復室に連れていき、保護者に具合が悪いことを電話で伝える。いつ迎えに来てくれるか確認。
子どもたちの持ってきた、勉強に必要な道具のお金や、国や市や町の教育にちょっとだけ関心のある組織からのアンケート調査用紙を集める。
誰が提出していないかのチェック。
欠席者の家への電話連絡で所在確認。
今日の予定の確認や変更事項の連絡。
インフルエンザの季節には、10数名欠席ということもあり、確認に大わらわ。
そうこうしているうちに授業が始まります。
午前中4時間、1時間ごとに違う教科を教える小学校。1人で40人教えるのは体力勝負。
今は先生がチョーク1本と教科書で授業をすることはなく、様々な教材を準備し、できる限り子どもたちに考えさせ、1人ひとりの疑問や、発見を大事にして授業を進めます。
教育にちょっとだけ関心のある国の組織が、「アクティブ・ラーニング」と名付けていま
す。
子どもは40人で先生は1人ですよ!
どうやって40通りの疑問や発見に応えるのでしょうか?
魔法使いか仙人になれたらいいでしょうに。
中学校では、午前中4時間同じ教科を1人の師が4つのクラスで教えます。つまり160人。
どの子どもがどんなところでつまづいたかは把握しかねます。「アクティブ・なんとか」は難しいです。
〈昼〉
給食です。40人の半分が給食係。
給食用エレベーターがない学校は、4階まで運びます。中学校の適正規模と言われる18学級なら、360人が一斉に給食室に・・・・・・。給食係の交通整理も必要です。
教室まで運んだら、継ぎ分け。
1つの食缶から、40人分のおかずやご飯を継ぎ分けるのは至難の業。
「早く席について」「早く食べて」「早く片付けて」師はいつも子どもを急かさねばならず。
食べ残しがあると、クラスの師が注意を受けます。かなりのプレッシャー。
「進みの国」では、カフェテラス方式で、ちゃんと担当者を雇っており、師は、自分は食べるだけの人で、休憩も取れます。
給食係と師にはほぼ昼休みもないままに、赤玉国の伝統「掃除の時間」がやってきます。
これが素晴らしいと「進みの国」から絶賛を浴びて? いますが、実のところ師が1人で掃除している教室もあります。子どもたちは「ほうき」「雑巾」なるアイテムを自宅で使ったことがなく、ただ振り回すものと思っている向きもあり、その指導も師の重要な任務です。
〈午後〉
また2時間授業が続きます。
その後、「帰りの会」なるものを終え、さようなら・・・・・・と思いきや、
中学校は、ここからが本番の部活動。
師は、その指導に土日も費やします。
ほぼボランティアで。
そのほかにも、「スポーツの祭」「文化の祭」「学修めの旅」「校外へのおでかけ」「お仕事体験」などの行事が目白押し。
それでもOECDとやらの世界の学力テストでは、常に上位を占める子どもたちと、それを支える師の頑張り。
少しでも順位が下がると、国を挙げて叱咤激励。OECDで教育予算は最低な赤玉国なのに、頑張りすぎでしょう!?
その結果、子どもの中には心身に不調をきたし学校に来られなくなる子、ストレスを狭い教室の中で「いじめ」という形で発散させる子が出てきて。
被害を受けた子が命を落とすことにまで発展。
「進みの国」並みの1教室の子どもの数なら
「いじめ」が減ったり教育効果が上がると、誰が考えても思いますが、そんな証明はないと教育にちょっとだけ関心のある組織はおっしゃいます。
寄ってたかって追い込まれてゆく、子どもちとその師たち。
そんな中、例の教育組織の方が「あと40,000人小中学校の師を減らせる」と試算し、ますます疲弊してゆく学校でした。
王の思い通りに経済は発展し、王のお友だちだけが豊かになり、武器を大量に購入し、軍備を充実させ、赤玉国は世界から恐れられる軍事大国となりました。
あれだけ頑張っても報われなかった子どもたちと師は、気づけばすべて赤玉国から脱出し冥王星へ移住して、教育を大事にする理想の国づくりに励んでいました。
せっかくの軍隊も王の友だちだけで構成せざるを得なくなり、ある日王が募集をかけました。
あんなに勇ましいことを言っていた友だちは、誰1人として応募せずに亡命。
「人が財産だったはずのわが赤玉国。人を最も育むべき「教育」をないがしろにした私が愚かだった・・・・・・。」
王が気づいた時には、赤玉国にはもうだれもいませんでした。
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