かたづかない部屋は度数の合わない眼鏡
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:南 章子(ライティング・ゼミ平日コース)
「え? 見えてますか?」
「や、やばい? え、えっと……み、右です」
「……はい、オッケーです」
や、やばかった。
今日は朝から仕事を休んで運転免許試験場にいる。
視力検査。普段は受けない検査だが、免許の更新には必須のもの。
私はゴールド免許だったので、それは5年ぶりの検査であり、普段は滅多にすることはなかった。
私は、眼鏡をかけているにも関わらず、前のマークがぼやけて見えていた。何とか見えたその向きを答え、本当にギリギリでOKをもらったのである。
私はそこそこの頻度で車に乗っている。無理な運転もしないし、のどかな田舎道なのでそう危ないことはない。だからゴールド免許。
しかし、私の眼鏡の度数はこの5年で大きく変わっていたのだ。
よくもまあ、それに気づかず運転をしていたものだ……。
「気づかない」といえば、こんな話がある。普段の私は、「整理収納アドバイザー」いわゆる、かたづけの仕事をしているのだが、ご依頼者様が自分自身の事に気づいていないことはよくある。
ご依頼を頂いたお家に伺い、ヒアリングをして家をかたづける仕事なのだが、ほぼご依頼者様が思っているかたづけられない理由は違うことが多い。
お家を拝見すると、趣味や嗜好をはじめ、お仕事でのお悩みとか、夫婦の喧嘩原因、お子さまのお悩み事などなど、そのお家の「本当の姿」が見えてくる。
そのお宅の色んな「モノ」や「コト」を通じて、ご依頼者様が自分で気づいていない部分を私に伝えてくれる。
かたづけの基本の一つに、「必要な在庫量を知る」というものがある。要するに持ち過ぎないことが大切ということだ。しかし、その家の習慣によってその数が大きくズレてしまっているお宅が、実は大変多い。
その実例なのだが、柔軟剤がとても多いお家があった。その数は2リットル入りが40個。その量なら柔軟剤で湯舟を半分満たせるレベルである。誰が見ても異常な量なのだがご依頼者様は気付いていなかった。
なぜかというと、ご依頼内容は「客間がかたづかないので手伝って欲しい」だけだったからである。訪問してあちこちをご案内していただくうち、この異常な量に気づいた。
その柔軟剤はなぜか押し入れに大量に積まれていて、大きなスペースを占領していた。そのために布団が収まらず、布団は客間に出しっぱなしになっていた。その布団の上で子どもが遊ぶから、おもちゃもあふれ、さらに洗濯物などをそこに置くからかたづかない部屋になっていた。
「柔軟剤のお風呂に浸かれますよ」
「えー笑」
そんな冗談を言いながら楽しくヒアリングをした。
そのヒアリングで分かったこと、その柔軟剤のきっかけは義母だった。
義母が、定期的に行く会員制スーパーで買ってくる柔軟剤。
大きいサイズがお買い得で、しょっちゅう行く所ではないからと、いわゆるまとめ買いをしてくれるのだ。もちろんありがたいから、それをいつも貰っていた。だからそのお宅では柔軟剤は貰うもの、として考えられていて、その量を加減することなど毛頭になかった。初めの引っ越しの時、押し入れに義母が入れてくれたから、場所もそこに決まったらしい。
そして義母は嫁が喜ぶからと一度に購入するその量がプラス1個また、プラス1個とエスカレートし、使い切る前にどんどん柔軟剤が増えてこんなことになっていた。
多くないかい? と他人ならわかるのだが、そのお宅では当たり前のことで、もちろん他所と比べる事もなかったので、そのまま過ごしてきたのである。
そのご依頼者様には、そのお宅の使用量と買い物の頻度から一回の買い物の量を割り出し、
だいたいの目安をお伝えし、今ある量が異常であることに気づいてもらった。
もちろん義母との関係性は壊すことなく、感謝を伝え、理由を伝え、今後の管理方法をお伝えし、押し入れをかたづけ、布団をしまい、おもちゃをかたづけ、そのお宅のおかたづけ問題は解決した。
かたづけは我流でやろうとしても、自分で気づいていないところで廻ってしまう事が多くそしてリバウンドをする。それが嫌になり、かたづかないことが当たり前になる。そんな悪循環になることも多い。
この例に違わず、「見えていない事実」に気づく事は大切である。そして、その事実に気づかせてくれるのが、第三者なのである。
私の眼鏡もそうだった。
5年の歳月をかけて少しずつ悪くなっていた視力。だがそれが私の中では、他と比べることもないから気づかずに来た。免許更新などという第三者が見てくれるきっかけがなければ、
まず気づく事は少ない。
ギリギリで視力検査に合格し、免許を更新したその足で、私は眼鏡屋さんに向かった。
やはり知らぬ間に随分と視力が悪くなっていた。新しい視力で作った眼鏡をかけた時「おお~、よく見える! すげー」と思った。こんなにも見えていなかったとは……知らぬとは恐ろしい。とても大切なことなのに、知らずに過ごし、指摘されるまで気づかないとは、いやはや……。
帰りの運転で、いつも見えなかったもっと先の景色をみながら私は思った。
人は、案外見えていないものが多い。
だからこそ、気づきを与えてもらうことはとても有難い。
たまに指摘されたときには、うるさく感じることもあるし、その指摘が間違っていることもあるだろう。
けれど、私が気づかない見えないことを教えてくれる周りの人たちに感謝の念を忘れないようにし、かたづけの現場でもご依頼者様にしっかり寄り添いたい。
今までこれが当たり前と思っていたことが、知らぬ間に変化していくこともある。
いつも自分を完璧と思わず、アップデートを心掛けたい。人生死ぬまで勉強だ。
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