犬を飼って後悔したこと
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:楠田 真奈美(ライティング・ゼミ日曜コース)
小学校2年生の冬の夜、母が家に見慣れない子犬を家に連れてきた。口の周りが黒く、まるで泥棒のようないで立ちの雑種犬だ。
「この犬は誰の犬?」「どこから来たの?」
突然現れたお客さんに興味深々、聞きたいことがたくさんあった。
どうやら、家の前のガレージで雨宿りをしていた野良犬の赤ちゃんらしい。とりあえずシャンプーをするつもりで家に入れたが、結局その日から家族になった。
名前は、その容姿から「ドン」と名付けた。ちなみに後から気づいたのだが、女の子である。
ドンを迎えてからから毎日が楽しくなった。学校から帰れば、小さな家族がちぎれんばかりに尻尾を振ってお迎えしてくれる。子犬だけあって、元気いっぱい! 外飼いだったが、毎日散歩に行って遊んだ。
ところがしばらくすると、ドンがいることが当たり前になり、散歩も面倒になって弟や親と押しつけ合うようになった。外飼いで寂しいからか、夜リビングでくつろいでいると度々呼ぶ声が聞こえた。その声も疎ましく感じた。
思春期になるとその感情が更に増し、可愛いとか、大切だとかいう感情が持てなくなってしまった。ドンもそれを感じたのか、帰ってもあまり喜ばなくなってしまった。
大学3年生頃、ふと昔のドンの写真を見て驚く。毎日見ているから気が付かなかったが、だいぶ歳をとっていた。白い毛が増え、体力も落ち、体も少し小さくなっている。
「あぁ、気づかないうちにこんなに年月が経っていたんだ。ドンもおばあちゃんになったんだ」
言葉にできない寂しさと、今まで感じたことのない別れへの恐怖が襲う。
そしてその日から、ドンと関わる時間を少しずつ増やしていった。
そこから数年は元気に過ごしていたが、社会人2年目の年明けからみるみる弱り、その年の4月末にドンは亡くなった。うちに来てから15年と4ヶ月だった。
亡くなってからしばらくは、心に穴が空きっぱなしで何も手につかない。毎日家にいるはずの存在が、急にいなくなってしまった喪失感は想像を絶するものだった。
少し落ち着いてきた頃、ドンの写真を整理していて唖然とした。写真があまりにも少ない。特に私が小学生の高学年頃から高校生だった時期の写真がほんの数枚しか見当たらない。
思い返せば確かに、ドンと写真を撮った記憶があまりなかった。大学生でドンの死を意識し始めた後は積極的に撮るようにしていたが、それでも整理すると多くはなかった。
ドンと一緒にいた頃は、この日常が当たり前に続くものだと思っていた。だから、今写真を撮る必要がないと無意識で考えていたのだ。
写真だけじゃない。散歩や一緒に過ごす時間も、本当は限りあるものなのに、そのことを忘れてないがしろにしていたのだ!
ドンが亡くなり、一緒に過ごした15年ちょっとを振り返ると後悔の嵐だった。
何故もっと写真を撮っておかなかったのか? 何故もっと一緒に過ごさなかったのか? 何故もっと大切にしなかったのか? 何故もっと一緒にいろんな場所へ出かけなかったのか……。
どれだけ後悔しても時は戻らないし、ドンと一緒に過ごせる日はやって来ない。
まさに失ってから、その存在の大切さに気づいたのだった。
ドンが亡くなってから2年、私が実家を出ると同時に両親は新しい犬を迎えた。小柄な柴犬である。実家に帰る時ぐらいしか会えないが、ドンに対する後悔を二度と起こさないために帰る度に写真を撮り、そして一緒に過ごす時間を大切にしている。もうすぐ8歳になるが、この習慣はずっと続けており、大切に思う気持ちは今でも変わらない。
こういった行動をするようになった対象は犬だけではない。人も同じである。
実家に帰る日を増やし、家族と過ごす時間をなるべく多く作るようにしている。
それでも忙しい毎日に追われ、1日を何となく無駄に過ごしてしまうことがよくある。そうしている間にも時は流れ、大切な家族や友人と一緒に過ごせる時間がどんどん少なくなっている。当たり前のように過ぎていく日常には限りがあることをわかっていながらも、どこかでずっと続くと考えてしまっている自分がいるのだ。
そんな時は、必ずドンのことを思い出し、「当たり前なことなどこの世にはない」ということを肝に銘じている。
この先、「こうしておけば良かった」という一生背負う後悔をしないために、今を一生懸命生きることにしている。
大好きなドンと過ごした日の思い出とたくさんの後悔は、今という時間の大切さ、そしてかけがえのない人と一緒に過ごす時間は限りあるものだと教えてくれた。
今年には新しい命が誕生する予定である。この後悔を活かし、かけがえのない大切な命と共に、かけがえのない一瞬を積み重ねていきたい。
***
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