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詐欺に巻き込まれて学んだこと


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記事:松尾 恵実(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
あなたは詐欺の被害にあったことはあるだろうか?
 
詐欺にもいろいろな種類がある。もしかしたら小さな被害だったら体験したことがある人も多いかもしれない。
 
では、詐欺をする側には?
ほとんどの人はないだろう。もし仮にそんな経験があったとしても、大っぴらに「やったことあります!」なんていう人はいないと思う。
私も、もちろんない。といいたいところなのだが、実は、する側される側、どちらも経験したことがある、ともいえるかもしれない。しかも同時にだ。
正確には、知らず知らずのうちに詐欺に巻き込まれてしまったのだ。
 
ことの発端は一通のメールだった。
仕事の合間の昼休憩に、とあるメールが私のスマホに届いた。
送信元は某インターネットショッピングサイトからだった。
内容を見ると、どうやら私のアカウントで、商品を販売したとのこと。
意味が分からない。そのインターネットショップは買い物にしか使っていない。
きっと何かの間違いだろう。迷惑メールみたいなものに違いない。
 
そう思ってメールを閉じると数分後、また同様のメールが数件、立て続けに送られてきた。
流石に、数分の間に何通も同じようなメールがくるのは変だ。
何かがおかしい。
ふと違和感がよぎった。ふといろいろな可能性について頭を中をよぎった。
そういえば……。
かなり前になるが、そのショップで商品を販売したことが一時期だけあった。
一時期だけだったのでそんなアカウント作ったのさえ忘れていたが、もしかして、それと関係があるのでは?
 
自分の知らないところで、何かよくないものが動いているような気配がした。
不安に思った私は、その思い当たったアカウントにアクセスしようとした。
が、できなかった。
何度アクセスを試みても不可能だった。
 
も、もしや、これは、世に聞くアカウントの乗っ取りでは?
急いで、ショップに連絡したら、予想した通り、アカウントの乗っ取りとの可能性があるとのことだった。すぐに一旦アカウントを停止してもらうことができた。
 
一件落着かと思いきや、実は大変だったのはそのあとのことだ。
 
その後、アカウントが乗っ取られたのは私だけではなかったことをテレビのニュースで知ることになる。
アカウントの乗っ取りは、どうやら詐欺グループの犯行によるものだったようだ。
のっとったアカウントで存在しない商品を格安で販売し、売り上げだけ詐欺グループが盗んでいく、という事件だったようなのだ。
 
私のもとにも、購入したのに商品が届かないというクレームのメールが大量に届いた。
ネットショップからは、乗っ取られたのでアカウント停止するよう連絡したというのに、商品を発送するように注意喚起するメールが大量に届いた。
クレームのメール自体は軽く数百件は届いたと思う。一日に数百件のメールを受け取ったことなんてあっただろうか?
自分も乗っ取りにあった被害者なんです、なんて返信しようものなら、絶対事態がこじれる。
 
アカウントを停止したが、再度のっとられないようにとセキュリティがきびしくなり、私さえ自分のアカウントに入れない状態も続いた。
自分でも何が起こっているのか状況はわっぱりわからない。
カスタマーセンターにも、何度連絡してもつながらなかった。
テレビのニュースで詐欺事件と放映されることで、知らず知らずに詐欺をさせられてしまったアカウント主や、商品を購入したのに送られてこないお客様たちの連絡が殺到したのだろう。
 
カスタマーセンターが対応しているはずだからと、じっと耐えることにした。
異変に気がついてすぐに連絡したから数百件のクレームのメールで済んだのだ。
これが、気がつくのが一晩明けてからだったと思うとゾッとした。きっとカスタマーセンターにすら連絡がつかず、下手したら数千件のクレームのメールを目の当たりにすることだったと思う。
いや、私がアカウント停止するまでのあの短い間で、よくもこんなにありもしない商品を売りつけましたよね。
詐欺グループ怖い。
連絡のつながらないカスタマーセンターに根気よく連絡をつづけ、数日経って、なんとかアカウントにアクセスした時には、覚えのない商品の販売で、とんでもない金額の売り上げになっていた。
その数字を見た時、たしかに私の顔から血の気が引いたのをよく覚えている。
 
事件が起きてからすべてが解決するのには一ヶ月以上かかったと思う。
このできごとで私が一番怖かったのが、自分の知らないところで、自分の人生を変えるような大きなできごとが動いている、という感覚だ。
何かが起こっているのはわかるけど、何が起こっているのか全体像がつかめないと時が一番怖かった。
自分で何か改善させるために動きたいのに、何もできない。ただ、巻き込まれていく感覚だった。
これは、もしかしたら病気と同じような感覚なのかもしれない。
自分の身に、よく分からない症状がでてきたら、何か重い病気なのではないだろうか、と不安になるだろう。
私は、薬局で働いているので、病気と戦っている方とよくお会いするのだが、医師に診断をされ症状の原因が分かった患者様のスッキリした顔をよく知っている。治るか治らないかともかく、何が原因なのか、診断名はなんなのかがわかるのは、想像以上に人の心を安心させるのだ。
 
実は、私がその事件に巻き込まれた時、一番にはじめに相談したのは、交番のおまわりさんだった。
ショップにはなかなか連絡が取れず、誰に相談すればいいのか分からず、途方にくれて電車を降りて駅を出た時、その交番が目に入ったのだ。
おまわりさんは本当に親身になって相談に乗ってくれ、警察所の相談窓口に電話してみるようすすめてくれた。
交番でも、警察署に電話しても問題は解決しなかったけど、親身になって話を聞いてくれるだけでこんなにも安心するものなのだと知った。
 
今日も、薬局での仕事を終えて、駅前を通ると、そこには交番があった。
おまわりさんが、道ゆく人々を見守っている姿が見えた。
交番はいつもそこにあり、意識せずに横切ることも多い。
でもどんな日だって、そこから見守ってくれている人がいる。
いつもそこにいるからこそ、できることがあるのだ。
 
毎日、私も同じ場所で、同じ仕事をしている。
私自身も、自分の仕事をしていく中で、代わり映えのない毎日であっても、やり続けることで誰かの助けになることがあるのだ。それを忘れてはいけない。
その交番を見るたびに、私は何度も思い出すのだ。
 
 
 
 
***
 
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2020-06-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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