「プロポーズされたの?」って、なに?
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:大沼 芙実子(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「え! ……ってことは、プロポーズされたの?」
結婚することになったよ。
そう伝えたわたしに対し、同期から返ってきた言葉はそれだった。彼も同棲をしている彼女がいたのでそろそろなのかなあと思い、わたしの結婚を報告してみたところ、この言葉が返ってきたのだ。
「え……うん、というか、まあ結婚するからねえ。合意形成? はしてるけど」
「おめでとう、とかじゃないんだ」、と少し笑いそうになりながら、彼の質問にわたしはこう答えた。なんとなく違和感を感じていた。だけどその違和感は、その場では何なのかはわからなかった。
家に帰る途中、その違和感がふつふつと蘇ってきた。なにが引っかかるのかなあ……。引っ越したばかりの家に向かう道で、自転車を漕ぎながらながら考えていると、なんとなくわたしの引っ掛かりが見えるようになってきた。
まず「プロポーズされた」という言葉が引っかかった。
なんで受け身なのだろう?
お互いに「結婚しよう」とは決めたけれど、それは別に「わたしが彼のオファーを受けてOKした」、とかそういう位置付けではない。わたしにとってまさに「合意形成」という感じで、お互い同時に選択をしたという気持ちがあった。
彼はなぜ「プロポーズされた」という事実を確認してきたのか……。
もう一つ、「結婚するよ」と言ったのに対して、次に返ってきた言葉が「プロポーズされたの?」だったのにも違和感があった。
え、そこ?
こいつは、その結婚に至るまでの手続きに興味があるのか?
謎だ……。
不思議に考えていた矢先、もう一人別の男性の同期にもLINEで結婚を報告した。
「同棲したよー。何もなければこのまま結婚するよー」
「おー。プロポーズはされたの?」
……!!!
なんと。
またきたのだ。「プロポーズされたの?」が。
そして、だんだんとわたしは理解した。
女性が男性から「プロポーズをされる」という行為は、「結婚」という出来事とセットになっている。そしてきっと結婚を目前に控えているカップルにとっては一大事なのだと。
折しも報告した二人の同期は、ちょうど結婚したてだったり、プロポーズを控えていた時期だったりしたので、「どうやってプロポーズをしよう?」ということをよく考えていたのだと思う。
その一つの大きな儀式を乗り越え、結婚を選択したという過程がありありと想像でき、どんなプロポーズを通過したのか、そこに興味を持ったのだと解釈した。
考えてみたら、女友達と話す中でも聞いたことがあった。
「家で『結婚しよう』って言われたんだけど、これは違う!って思って。翌週やり直してもらったんだよね(笑)」
「クリスマスにちょっと良いホテルにご飯を食べに行って、そのまま帰ると思ったら、部屋も取ってくれていて。それプロポーズだったんだよね」
なんだか素敵なイベントである。
そして同時に、「男性、よく頑張ったなあ」と拍手をしてやりたくなる素敵さである。
気になって、ネットでも「プロポーズ」を検索してみた。
「プロポーズをどこでするか?」と言ったトピックで書かれた記事がたくさん出てくる。
それらの記事には、高級レストランや思い出の場所、ホテルのスイートルームなど、たくさんの選択肢が書かれていた。
当日のプランやセリフを綿密に決めましょう。
会場は下見しましょう。
彼女が喜ぶシチュエーションを把握しましょう。
それらの記事は、いかにも男性を奮起させ、「失敗なんてできないよ!」そう鼓舞しているような書きぶりだった。
わたしに「プロポーズされたの?」という言葉を投げた同期の男たちは、これらのプレッシャーに耐え勝ち、無事最愛の彼女と結婚を決めたのか。
そう思うと、彼らが戦いを治めた勇者のように感じられた。
この「プロポーズ」という行為の解釈は、一般的な解釈なのかもしれない。
だけどわたしには、この「プロポーズ」という観念は、新しい発見だった。
一方で、ネットには自宅でさりげないプロポーズが一番、という意見も出てきた。
なんでもない日に、大げさなシチュエーションではなく、日常に溶け込んだプロポーズをして欲しい、という意見だ。
ちなみにわたしは俄然こっち派だ。
わたしたちはベロベロに飲んだ後、彼の自宅で、迫り来るワンルームアパートの契約更新を前にしているという認識のもと、結婚をするため引っ越すことを決めた。
彼がひっそりとケーキを買っていてくれたのが嬉しかった。
食べたのは覚えている。だけどやっぱり酔っ払っていたので気づいたら寝ていた。
そんな「プロポーズ」だった。
だけど、いかにもな演出は苦手なわたしにとって、この始まりは大満足だった。
夫も考え方は似ていると思う。
この「プロポーズされたの?」事件について話してみると、「わかる!」とすぐ返ってきた。
彼も結婚を控えている男友達に、「結婚指輪どう決めたの?」と訊かれ、「え、あげてないけど」
と答えて驚かれたらしい。
「型があるのか〜!」と二人で妙に納得した。お互い世間知らずである。
ただ結婚という長い共同作業の中で、節目をイベント化することは大切かもしれない。
わたしたちはさらっと結婚届を出してしまい、あっけなく受理され、あっけなくわたしの旧姓がなくなり驚いた。
よくSNSで見るように、「婚姻届を持って写真を撮るのかな」なんて少しワクワクしていたが、市役所の人は笑顔で淡々と事務作業をこなしてくれて、あっという間に彼とわたしは家族になっていた。
そうだ、だから、わたしたちは結婚当日を振り返る写真を持っていない。
またわたしたちはまだ結婚式もしていないから、特に同棲から大きな節目はなく結婚生活が始まった。「結婚してなにか変わった?」と友人に訊かれたが、正直一つも思い浮かばなかった。
わたしたちは、結婚の始まりを周りに誓う機会を、間違いなく逃している。
それはそれで良いのだ。わたしたちは毎日楽しく満足に生きている。
けれど、どうしても結婚生活は日常生活になり、お互いへの感謝や結婚当初の気持ちは薄れてゆくだろう。そんな中で、節目の出来事をイベント化しておくことがきっと、二人の歩みを振り返る契機になると思う。
これからは小さな記念日をあえて作ってみるとか、イベントにしてみるとか、そんなことも大切なのかなあ。
この「プロポーズされたの?」事件は、図らずもわたしにたくさんの気づきを与えてくれたようだ。
ちなみにこれ以降、「プロポーズされたの?」と聞かれた時には、わたしは胸を張って「合意形成はしてるよ」と答えるようにしている。
つまらないこだわりだけど、きっとわたしにとって、受け身ではなく、彼と人生乗り越えていこうという主体的な合意形成をしたという事実が、きっと特別な出来事だったんだ。「プロポーズされたの?」だって、「合意形成してるよ」だって、正直何にも変わらない。
そこに違いがあるなら、自分の中でどう輝いているか、その違いがあるだけなのだ。
***
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