モラトリアム社会人なあなたに
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:倉嶋麻里(ライティング・ゼミ日曜コース)
「今の仕事が、自分にとって天職です」
心からそう言える人は、日本の就労人口約5,600万人のうち、何人いるのだろうか。
「最近どうよ」
社会人2年目の夏の夜。
大学卒業ぶりくらいに会う人もいて、懐かしい面々で、おしゃれなバルでのひととき。
「今はとにかく仕事が楽しい。やっぱり天職なんだって思えるよ」
「仕事もいいけど、社会人サークルに今は夢中なんだよね」
そう、屈託のない笑顔で語る同級生たちが、眩しい。
いいなあ。
彼らは、今の自分に十分満足していて、幸せそうだ。
「それで、そっちはどうなの?」
「うん。毎日新しいことの連続。大変だけど、やりがいあるよ」
そう笑顔で答えながら、胸の奥がきゅー、と締め付けられる自分がいた。
こんな人達と一緒に働けたら。そんな思いで選んだ場所。
そこでの毎日は、忙しくも充実していた。
マンネリ化した業務はほとんどなく、
日々新しいミッションがあり、一つ一つに、非常に高い質が求められた。
そんな組織の一員であることは、私の自尊心を満足させるのに十分だった。
けど、心のどこかで、「これは、私が元々やりたいことじゃない」 そんな感情が
むくむくと大きくなっていた、そんな社会人2年生だった。
自らの手を動かして、問題解決ができる人材になりたい。
そんな思いで文系からエンジニアとして就職した企業での仕事は、
何もかもはじめての連続。
1年目は、とにかく言われたことをこなすことに必死。
悔しさのあまり泣きながら仕事をすることも、ままあった。
若手中心だったこともあり、2年目には定期プロジェクトの計画策定を経験することができた。
その中で、仕事の流れや数年後の自分の姿が
少しずつ見えるようになってきていた。
2年目にもなると、技術力の高さでメキメキ頭角を表す人もいる。
一方の私は、ずば抜けた技術があるわけでもなく、
かといって、仕事の意義を100%見い出しているわけでもなく。
まさに、宙ぶらりんな状態だった。
今のままでいいのか。そんな思いが、ふつふつと湧いてきていた。
……本当にやりたいことって、なんだったっけ?
大学の頃にぼんやりと描いていた、将来の夢。
誰でも人生を謳歌できるように、生活の不平等をなくしたい、良くしていきたい。
そんなことを思い、当時は自分なりに「こんなことを経験したい」と思ったことは一つ残さず実践してきた。
インターネットも通っていない海外の田舎に、電話一本でアポを取ってファームステイをしてみたり、お役人の話を聞いてみたり、原体験と呼ばれるものをたくさん経験した。
そんな学生生活の後に新卒の会社を選んだのは、少々畑違いだったとは言え、
自分の思い描く像に近づくための第一ステップに相応しい能力が身につく、という理由だった。その頃描いていた夢は一旦脇に置いて。
思い立ったら即行動。
そんなフットワークの軽さが、自分をどこにだって連れて行ってくれた。
平日に仕事を持つ社会人になっても、それは同じ。
たとえ仕事を持っても、常に色んなことに触れていたいし、学んでいたい。
そんなこと、ごく自然にできる。そう思っていたのに……。
「成長」「スキル」という人参を追い求めて必死に走り続ける日々。
それは自分が心からやりたいことなのか。
正しい道筋に、進めているのだろうか。
それを考えるだけの意欲と時間的余裕は
今思い返せば驚くほどに、なかったと思う。
そんなときだった、この本に出会ったのは。
週末の浅草。
商店街に面する通りは、いつも通り観光客でごった返していた。
その一角にある老舗甘味処は、やはり観光客と思しき人達でいっぱいだった。
近くに住んでいたこともあり、いつもは休日に混雑する場所には
行かないけれど、この日は流石にうだる暑さに負け、ふらりと
店内に入っていった。
傍らに一冊の本を携えて。
ーーーーー
「そう、駅伝。目指すは箱根駅伝だ」
これが、個性的で不揃いなメンバー10人の集う寮で、ある日突然掲げられた目標だった。
チームの中には、飛び抜けて実力のあるメンバーも確かに一人いたけれど、多くは駅伝だけでなく、走ることさえ素人同然。
漫画好きのインドア住民もいれば、スポーツの妨げとなるタバコがめっぽう好きな住民がいて。
そんなでこぼこチームが、1年間の努力の末箱根ですばらしい結果を残す。
ぶっちゃけ、できすぎた話だ。
そんなことが起こるのは、小説の中だけの話、かもしれない。
けれど、このストーリーの真髄はそこではない。
趣味も将来の夢も異なる10人が、各々の想いを抱いて、箱根での歩を進める。
彼らの目標は、ライバル校に勝つことでも、箱根で優勝することでもない。
高校生以来の、走ることへのわだかまりを溶かすこと。
血のつながらない家族の中で、自分の存在価値を探すこと。
好きな子への思いを告げること。
そして、自らの人生における走りの意義を探すこと。
各々が、走ることに意味を見出して襷をつなぐ。
そこには、他人と比較しては一喜一憂したり、
あまりの苦しさに辟易する姿は一人もなかった。
素人集団が、箱根駅伝で記録を残す。
そのすばらしい結果は、その後でついてきたいわば副産物なのだ。
ーーーーーーー
ただひたすらに走るという、単純なこと。
そんな風に、ただ一つの迷いもなく目の前のことを120%楽しめたのは、
いつが最後だっただろう。
現代では、早い人は小学校から、中学、高校、大学、はたまた一昔前は(今でもあるが)就職先まで!
私達は長い間、いわゆる他人との競争にさらされて生きている。
「いい学校、会社」という名のブランドを手に入れる為に努力し、入ったら入ったで
「いい成績、業績」を上げることが目標になる。
いつだって、他人よりも優れた肩書を持ち、秀でた結果を挙げることが、評価される。
そうでなければ、いわゆる「技術」や「資格」だ。
異業界同士の融合やIT技術の進歩によって、ここ十数年
世界中の名だたる企業は、業績を大きく減らしたり
全く新しいライバルの台頭に苦心したり
労働者にとっても、不安定な時代がやってきた。
そんな中で、何らかの資格や免許、最近ではITスキルや英語などが注目の的だ。
でも。
そういった他人から見てどんなに立派な肩書を持ち、スキルを持っていても、
心からこれをやりたい、という想いが伴っていなければ
人生はいつか、ガス欠になってしまう。
そんなときは、自分の内なる声に耳を澄ませてみてほしい。
「これをしているあなたは今、幸せですか?」
あれから1年半後、私は長いトンネルを抜け、
全く新しい、ヘルスケア関連の業界で新しいスタートを切った。
新型コロナで大変な情勢だけれども、少しでも世の中に還元できることがある。
大変なことも多いけれど、今が一番楽しいと、自信を持って言える。
別に、最速のタイムで走れなくても、
1位にならなくても、いいじゃない。
必死にもがいても、かっこ悪くても、
大好きな人達と、大好きなことをする。
それで、いいじゃないか。
***
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