あきらめない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:有野哲章(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「理事長、おはようございます。ちょっと良いですか」と施設長が私の部屋を訪ねてきた。
「これが、朝来たら私の机においてありました」と施設長が手渡してくれたのは、“退職届”であった。「はぁー」と深いため息を吐くしかない。
私の社会福祉法人は、職員が50名程働いている。この仕事に熱意をもって楽しそうに働いている人、ただ何となく給料もらうためだけに働いている人、喜びも不満もたくさん職員からでてくる。
退職届は、就業規則上では30日前に出すことになっているのだが、突然出して翌日からこなくなる職員もいる。人を信用するのに、正直疲れるときがある。
彼の人生は彼の人生で、私の人生ではない。でも私の法人に勤めた彼は、私の法人の人生を担ってしまう。私一人のことであれば何とかするが、彼一人のために法人全体の組織にヒヅミが生じてしまうのが辛い。
もしかして、今一緒に働いているあの人もこの人も、明日辞めてしまうのではないかと疑ってしまう。
福祉の仕事をしていて、特に人を信用することが難しいのが、アディクションいわゆる依存症を抱えている人たちへの支援である。先輩から、アディクションの相談が上手に受けられるようになったら、人間として強くなるぞと、最初のころにアドバイスされた。お酒や薬物をやめると言ってたとしても、再び使用してしまうことがあるからだ。つまり、やめるように一緒にがんばろうとしても、その期待が裏切られることが度々あるからである。
アルコール、覚せい剤、ギャンブル、SEXなど人は様々なものに依存してしまう。
依存症は、別名コントロール障害と言われている。昔植木等さんの歌で「分かっちゃいるけど、やめられない」とあったが、依存症とはまさにその状態である。
例えば、アルコール依存症で考えると、いわゆる大酒飲みの人はたくさんいる。
お酒を飲むことが違法ではないので、どんなに飲んでも罪には問われない。
ただしアルコール依存症になると、お酒を飲むために借金をし、仕事を休みがちになり解雇され、気がついたら奥さんや子供たちが家を出ていき、一人ぼっちになってしまった人にであう。一人ぼっちになり、お酒が悪いと分かっていても、お酒を断つことができない人がいる。これが依存症の難しさである。
依存症の相談は家族がまず来る。ご本人がどのくらいお酒に溺れている状態なのかを聞く。そして離脱症状として、虫が飛んでいると訴えたり、聴こえない声が聞こえると言ったり、いわゆる精神症状が出ている場合は早急に精神科治療につなぐように努める。ただ服薬治療で精神症状が治まり、退院祝いだと言って再びお酒を飲み始める人もいる。
アルコール依存症を抱える家族には、一般的に「底つき体験」をしてもらうようにお願いする。底つき体験とは、酔っぱらって本人が帰ってきて、玄関先でおしっこをもらして寝てしまっていても放っておくように伝える。パートナーとして可哀そうな本人の姿を見ると、どうしても助けてあげたくなるのが人情である。ズボンが汚れていたとしても放っておくように助言する。放っておくことで、朝本人が起きた時に自分の姿をみて「俺はこのままではダメだ……」と感じて反省することで、治療につながる場合がある。
薬物依存症の場合、警察に逮捕され釈放されたところからサポートが始まる。有名人であれば逮捕された時点で社会から抹殺されてしまうが、私たちは釈放された時点から福祉のサポートに入る。
大酒飲みは、先ほども書いたが合法です。福祉のサポートは何を見ているのかと言うと「生活」である。体を壊したら治療につなげるが、生活が成り立っていたらサポートには入らない。大酒を飲んで、翌日2日酔いであっても、仕事に行き、家族に迷惑かけずに生活ができていたらサポートは必要ないと考えている。本人が希望していないのに、サポートをしても大きなおせっかいに思われる。
生活が破たんし、もうお酒は飲まないと言っていても、飲んでしまうのがこの病の難しさである。有名な芸能人が何回も覚せい剤に手を出し捕まってしまう時、本人の努力は必要だが、人間の無力さを肌で感じてしまう。
経営者として、職員を雇い一緒に働きやすい環境をつくっていったとしても、突然やめると言われ裏切られた気分になる。
依存症の人の支援をしていて、「今度は絶対にやめるから」と約束しても、再び飲酒したり、薬物を使用してしまう姿をみるとやるせない気分になる。
それでも、私は経営者として、福祉の専門職としてやるしかない。それが私のプライドである。そしていつか、「ここで働けて良かった」「あなたに出会えて良かった」と思ってもらえるように、今できることをがんばるしかない。
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