人生には、”即興”が必要だ
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記事:やまぐちりょう(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「ピーーーーッ」
ホイッスルの音ともに、舞台がライトアップされる。
小さな舞台の上で、40代に差し掛かったおじさん6人が芝居を始める。
この芝居に、台本はない。
セットや小道具もない。
登場人物も、決まっていない。
そこにあるのは、床にばら撒かれた100枚ほどの紙切れだけ。
彼らは即興芝居グループだ。
僕がこのグループに出会ったのは、もう6年も前になる。
出会った当時は30代半ばの”お兄さん”だったメンバーも、今や立派なおじさんだ。
(人前に立つ仕事をしているだけあって、みんな実年齢より若くみえるけど)
彼らに出会ってから1年に1回ほどは公演を見に行っているのだが、
今回はコロナウイルスの影響を受けて、無観客公演のオンライン生配信だった。
もちろん会場で生の舞台を見るに越したことはないのだが、
オンラインだとしても、僕はこの公演を心待ちにしていた。
最近の外出自粛生活で感じていた、もやもやを吹き飛ばしてくれる気がしていたのだ。
オンラインではあったものの、今回も彼らのスタイルの即興芝居だった。
僕ら観客の手元には、事前に5センチメートル四方ほどの紙切れが送られてきていた。
そこには、「10年前の自分に一言」とか、「大切な人に言いたい一言」とかテーマが書かれている。このテーマに対して、僕らは思いつくままに言葉を書いて、写真を撮ってメンバーに送っておく。
メンバーは、観客から集めてプリントアウトした紙束を、会場の床にばら撒く。
これで準備完了。先ほどのホイッスルの音とともに、芝居スタートだ。
今回は、一人の女性のシーンから始まった。
次に舞台に出てきたメンバーが、彼氏役を演じ始める。
結婚の挨拶をしに彼女の実家を訪れているという状況がおぼろげに見え始めたころ、次は父親役のメンバーが出てきた。
**
念のため断っておくが、これは即興芝居だ。ここまでの流れも決まったものではない。
あくまで、その場の流れで徐々に作られていく。
**
「娘さんを僕に下さい!!」といった彼氏に対して、父親は押し黙っている。
すると見かねた彼女は
「私、前からお父さんに言おうと思っていたことがあるの……」と言って、
不意に床に散らばった紙を拾い上げ、そこに書かれた言葉を読んだ。セリフとして。
「お父さん、ずっと天国から見守っていてね!」
おそらく、「大切な人に言いたい一言」というテーマが書かれた紙を受け取った観客の誰かが書いた言葉だったのだろう。
この一言で、誰もが確かに生きていると思っていた、父親は、実は死んでいた設定になってしまうのだ。
しかし、メンバーはあらゆる設定の変化を受け入れ、物語を進めていく。感性のアンテナを張り、互いがどの方向に物語を持っていこうとしているかを感じ取る。
時折、床に散らばった言葉を拾って、その言葉をセリフとして取り込みながら、物語を進めていく。それが彼らの即興芝居だ。
だから、見ている人はおろか、演じているメンバー自身も想像だにしない方向に物語は進んでいく。
そして僕は思う、「あぁ、自分が求めていたのは”偶然”なのだ」と。
ここ数年で、”偶然の出会い”が圧倒的に減ってしまった。
僕が買うべき商品はAmazonが提案してくれる。
僕が見るべき映画はNetflixが紹介してくれる。
行くべき場所は、インスタのタイムラインが教えてくれる。
どれもこれも、敷かれたレールの上を歩いているように思えてならない。
いや、AmazonもNetflixも、自分の過去の購買履歴や視聴履歴をもとにしているし、
インスタのタイムラインだって、自分がフォローした人で作られている。
そう考えると、過去の自分が未来の自分のレールを敷いているのかもしれない。
コロナウイルスの影響で外出を控えるようになり、
オンラインで過ごす時間が増えて、その傾向はより強くなった。
そんな生活をしていると、どんどんと物事が予定調和的に進んでいくのだ。
自分の好きなものばかりがオススメされるし、目新しさはなくなっていく。
だから、即興芝居グループの
「6/28、29、東京単独ライブをオンライン開催します!」
の投稿を見て、にわかに心が沸き立った。
彼らは、筋書のない、どんでん返しだらけのストーリーを紡いでいくために、
他の演者の一挙手一投足、一言一言に全神経を集中させている。その瞬間に”かけて”いる。
僕は、彼らの芝居を見て、錆びかけた感性のスイッチを入れるのだ。
目新しいもの、偶然を見つけるために。
「この瞬間を一緒に笑おう」それが彼らの合言葉だ。
即興芝居を見たことがない人も、ぜひ一度、見てもらいたい。
人生は予定調和じゃ面白くない。即興が、必要だ。
***
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