クーリッシュはひとりでやってこない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:米山拓真(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「あー眠い、それにしても眠い」
7年前私はいわゆる苦学生で、色々なアルバイトを掛け持ちしていました。その日は数あるバイトのひとつ、工場での夜勤の日。
仕事内容は『ベルトコンベアで流れてくるクーリッシュ単品をひたすらダンボールに詰めてコンベアに流す』作業で、これを深夜に延々と行うわけです。
当時バリバリの昼型星人の私には、本当に拷問のような時間が流れていきました。
私の頭は徐々に朦朧としてきて、雑念が次々と沸いては消えていきます。
(本当にマジで眠い)
(そういや最近クーリッシュ食ってねえな……)
(高校生の頃はよく食べたっけ)
(学校からの帰り道、ドラッグストアで買ったクーリッシュ片手に部活仲間とよくだべってたもんだ)
(ていうかあの頃見たクーリッシュと今目の前のクーリッシュ、多分何も違いはないんだけど、全然別物に見えるなあ。証明かな)
(部活のあいつら、今頃どこで何してんだろ)
(あー眠い、だいたいクーリッシュになんでこんな苦労せにゃならんのだ)
(クーリッシュなんてどこのコンビニにもあるくらいありふれとるやんけ……)
と、それまでの私が不完全な認識をしていたことに、ここで気が付きます。
(ああそうか、あの日見たクーリッシュも、コンビニのクーリッシュも、誰かがこうして深夜に箱詰めしてくれる人がいるから、そこにあったのか)
(……いや、違うな)
(箱詰めだけじゃない、ここから配達する人や店頭でそれを並べてくれる人が居てこそだよな)
(そもそもこのクーリッシュのパックだってきっとここじゃないどこかで誰かが作ってて、それをまた違う誰かがここに持って来てるのかもしれない)
(……クーリッシュって勝手にそこにあるわけじゃないのか)
この経験をして以降、私は目の前で起こったこと、目の前にあるものの裏側に気を配るクセが付きました。
もちろん、それまでも「どうしてクーリッシュがコンビニに存在しているのでしょうか?」ときかれれば「そりゃ誰かがどっかで作って、誰かが持ってきたからでしょ」位には答えることができたでしょう。
しかしその「誰かの存在」に身をもって納得できたのはこのときでした。
そしてこのときの気付きで、人生が少しずつ変わりはじめます。
まず今まで生活の中に溶け込んでいて見えなかった「見えない誰かの努力」が、途端に目につくようになりました。
みなさんもきっと車を買い替えた途端に、乗り換え後の車を道端でよく見かけるようになった経験があると思います。あんな感じ。
さらに工場夜勤勤務により「あんなに辛かったクーリッシュ詰めをやってくださる工場勤務の方々マジすげえ」という思考回路が完全に出来上がってしまいました。
結果「目についた周りの方々のちょっとしたいいところ、すごいところを片っ端から褒めまくる人」の完成です。
当時は、特別なことをしているつもりはありませんでした。
私としては夜勤で大変な思いをした経験を経て、大変な状況でも頑張っている人はすごいなあという言葉を口にしているだけ。「いやほんと大変だよねー、なんかわかるよー」くらいの認識だったのです。
しかし面白いもので、人間には褒められると褒めかえしたくなる性質もあるようです。周りからは「褒め上手」といわれ、逆に私がたくさん褒め返されどんどん自己肯定感を上げていきました。
ある日、大学院の研究室の同期から「そういえば米山ってそんな粘り強いやつだったっけ」と言われたのを今でも覚えています。
たしかにそう。私はそれまでは飽きやすい性格でした。何をやらせても、うまくいかないとすぐにやめてしまうタイプの人間でした。そんな私が徹夜で試行錯誤しながら自分の研究と向き合っていたのです。
「なんでだろうな、できる気がするんだよ」
思い返すと私は小・中・高校、大学生も終盤に至るまでのそれまでの人生で、本当に褒めらたことのない人間でした。
そりゃまあ人より認知能力も運動能力も劣っていて、「そんなやり方ではダメだ」「もっと考えて行動しろ」と叱責されたのも一度や二度ではありません。
私が粘り強く物事に取り組めなかったのも、そんな「劣等生」であることを私自身が一番よくわかっていたからでしょう。人より何においても劣る私が何かを頑張ったところで人生を変えられるわけがない、そこまで意識していなくともなんとなく自分にブロックをかけていたのだと思います。
しかし
1. 誰かのいいところが目について、褒める
2. 誰かに褒め返されて、気づかなかった自分のいいところに気がつく
3. なんとなく「自分も案外捨てたもんじゃないのではないか」と思いはじめる
という流れを経て、研究に打ち込めるようになったのです。研究をやり遂げることで、自分の能力を確かめたかったのですね。
結果としては見事に成果を出すことができました。もちろん私ひとりの成果ではありませんが、「やっぱり自分だってやればできる」と実感するに十分だったのです。
私はその後、そこそこ大手のメーカーにチャレンジして採用されたり、せっかく就職した会社をやめてフリーランスにチャレンジしてみたりと、なにかと挑戦してきました。この原動力も振り返ってみれば、褒め合う文化から得た自己肯定感が生んだものだったのだと感じます。
クーリッシュはひとりでやってこない。
その気付きが結果的には私の自己肯定感を上げ、私の人生を変えたのです。
「うわぁ、朝日ってこんなに眩しかったっけ。バンパイアかよ、俺……」
その日の私は、深夜のちょっとした「気づき」がその後の人生を変えるだなんて当然思いもしません。夜勤明けの目に刺さる朝日に目を細め、フラフラと家に帰るのでした。
***
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