だから私は、歴史を学ぶ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:櫻井麻緒(ライティング・ゼミ平日コース)
「麻緒、面白いもの見つけたんだよ。これ見てみろよ」
この日、家に帰るなり、父に書類を手渡された。
見ると「戸籍」と書いてある。
「書類を整理していたら、見つけたんだ。明治以降の櫻井家の戸籍だぞ。日本史専攻の者にとってはたまらなく面白いだろ」
中を見てみると、まぎれもなく櫻井家の戸籍が、みみずの様な字でつらつらと記されていた。
今日はゆっくりとドラマでも見て、早く寝よう……そう計画していたすばらしい夜の時間が、この戸籍のおかげで、早くも頓挫しそうだった。
そう、大学院で日本史を専攻している私にとって、この類の古文書の魅力には抗えないのだ。本物のみみずは大嫌いで見たくもないが、この今にも動きだしそうなみみずのような崩し字は大好きなのだ。
私は小学生の頃から歴史が好きだった。
歴史が大好きだった祖父と、その影響を受け継いだ父、そしてさらにその影響を受け継いだ私。
櫻井家三代にわたって、何かと「歴史」に関心を持ち続けている。
祖父も父も、一人でふらっと電車に乗って、「~の墓」やら「~の生家」に行ってはお土産を買ってきた。
そして、それは私も同じ。思い立ったら吉日で、よく一人であちこちに出没している。
おかげで、至るところで買った置物やらがらくたが増えた。
……歴史とあまり関わりのない人たちからしてみたら、とんだ変人家族だろう。
……要するに血は争えないのだった。脈々と、「歴史好き」の血が私にも流れていた。そして、祖父と父の思いを受け継ぎ、挙句の果てには私は歴史学者を志している。
そんな歴史バカな血を持つ私は、しかし最近、歴史を研究することの意義を考えあぐねていた。
「歴史って何が面白いの?」
「歴史の研究って何するの?」
「過去のことってもう分かっているじゃん。そこから何を学ぶの?」
……今まで、幾度となく友だちから興味本位で聞かれて来た。
その都度私は、当り障りのない答えで応じていた。
歴史が好きだから、教訓があるから……。
小さいころから「歴史」に触れることが当たり前となっていた私にとって、歴史を学ぶことの意義を深く考えたことはなかった。
「何でそんなこと聞くんだ!!」
とばかりに、歴史を学ぶ=当たり前な生活を送ってた。
だが、このコロナの影響でそんな当たり前がゆらぐことになる。
外出制限によって自分と向き合う時間が増え、柄にもなく哲学チックな一人問答を繰り返していた。
自分は将来、今学んでいることをどう生かすのか。
研究者になってどうしたいのか。
……いや、そもそもなぜ自分は歴史を研究しているんだろう。
誰のために、なんのために?
……考えだすと、きりがない。
ああでもない、こうでもない、と一人悶々としながら過ごしていた。
「何のために歴史を学ぶのか」
哲学的思考がからきしな私でも、このコロナの影響で頭のねじがずれたのか、ロダンの「考える人」よろしく、頭をうならせていた。
そんな時に、父から「戸籍」を渡された。
夕食もほどほどにすまし、早速机に向かい「戸籍」と向き合う。
今のデジタル時代に似つかない、紙の「崩し字辞典」を片手に、みみず文字ならぬ崩し字を解読していった。
「うわ、え、そうなのか……」
夜中の3時。案の定、ドラマを見るどころか、早く寝ることさえあきらめた私だったが、無我夢中で調べ続けていた。
そしてあるページで私は思わず、手を止めてしまったのだ。
私の祖父の叔父にあたる人が、終戦後にシベリア抑留地で戦病死していた。
しかも、その人の妻と子供二人は満州引揚げで中国各地を転々とし、二人の子供は引揚げ途中に相次いで亡くなっている。
……壮絶な先祖の歴史だった。
明治時代以降の民衆を研究している自分だったが、その対象はいつも過去の人で、調べる自分とはあまり関係のない人たち。
ましてや、ドラマや小説でよく耳にするシベリア抑留や、満州引揚げに関して、どこか自分とは結び付けられずにいた。
それが今や、過去の人が密接に私とつながった。自分と血のつながった人が、先祖が、壮絶な人生を送っていたことを知ったのだ。
他人事ではなかった。
椅子に座りながら茫然としてしまった私は、早くも3時半になろうとしていても、当然寝る気になれない。
……布団に入ったのは4時過ぎ。空がすでに白んできて、カラスの声が聞こえていた。
「ねえ、おじいちゃんの叔父さん、シベリアで亡くなってた。しかも、残された家族も壮絶だよ……」
結局3時間ほどで目が覚めた私は、起きて開口一番に父に伝えた。
父もやはり、驚いていた。恐らく、私以上に。
「自分の家族に、こんな壮絶な人生を送った人たちがいたなんて……記憶を風化させてはいけないね。麻緒が調べなければ、この人たちの記憶は忘れ去られていた。有名な人の伝記は自然と残るけど、こういった名もなき人たちが生きた証は語り継がれないからね。誰かが、記憶を紡いでいってあげないと」
……そうだ、これだ、私が歴史を研究する理由。
私は父の言葉を聞きながら、思い至った。
名もなき人たちの生きた証。それは、残そうとしなければ自然と忘れ去られてしまうもの。
しかしそれをあえて堀りおこすことで、一人一人の人生の記憶が蘇るのだ。
……では蘇った記憶が何になるのか。
現代あるいは未来の社会に生きる人々に教訓を残すかもしれない。
あるいは現代の不安定な世の中、今ならばコロナ禍で暮らす、様々な人々の暮らしを見つめなおす、きっかけになるかもしれない。
あるいは私のように、自分の先祖に思いをはせ、自分と向き合うきっかけになるかもしれない。
……掘り起こした記憶が誰にとって、何のためになるかはその人次第。
生きた証を掘り出し後世に残すことで、何かのきっかけとなることが、重要なのだ。
そんなきっかけを作り出すこと。それが歴史を研究する私の使命だと、気づいた。
「何のために歴史を学ぶのか」
過去の記憶を紡ぐことで、誰かの何かのためのきっかけになることを願って。
私はこれからも、歴史を研究し続ける。
***
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