開店したばかりの小型書店に取材が殺到する理由
記事:雁瀬 暁子(ライティング・ラボ)
この秋、福岡市に「福岡天狼院」がオープンした。
数分歩けば、TSUTAYAやジュンク堂など売り場面積が10倍も20倍もある大型書店があるというのに、そしてプレスリリースも出していないから、まだ誰も知らないはずなのに、オープン日には開店を待つ客の行列ができ、テレビやラジオの取材依頼の電話がひっきりなしにかかってくる。
なぜなんだ?
それは、この書店が「古い」からである。
古書が置いてあるということではない。新刊ばかりだ。
アンティークな造りかというと、そうではない。
いってみれば「おばあちゃんちのたたずまい」とでも言おうか。
なんといっても売り場の片隅に「畳に炬燵」がある。夏は冷やしこたつになる。冬になったらきっと誰かがみかんを持ってくるに違いない。
道路側の壁は全面ガラス窓になっていて、木製のカウンターが施されている。ガラスの向こう側にある公園には、樹の下で夕陽に赤く照らされてのどかに遊ぶ親子や、ベンチでくつろぐサラリーマンや、長い影をもつれあわせて談笑する学生グループの姿がみえる。それはまるでおばあちゃんちの縁側から見る景色のようだ。
店内に目を戻すと、自分がセレクトした本ばかりの書棚がある。好きなだけそこにいて本の世界に浸っていることができる。お腹がすいたらカフェで注文した食事が出てくる。コーヒーやスイーツやアルコールもある。
木製の観覧車のオブジェが本の陳列棚になっていたり、壁面が黒板になっていたり、わざとばらばらに本を重ねておいてあったり、普通に想像する書店のイメージから逸脱したユニークで新しいスタイルでありながら、おばあちゃんちに帰って来たような、古く懐かしい佇まいが、いる人をほっとさせるのである。
また人は、誰かといると「一人になりたい」と思い、一人でいると「誰かといたい」と思うわがままな生き物である。そんなわがままを恋人にぶつけたら、一波乱あるのは間違いない。だが「福岡天狼院」は、そんなわがままさも、大きく両手を広げて迎えいれてくれるのも魅力の一つだ。
ひとりで静かに黙々と読書にいそしみたければ、何時間でもそれを許してくれるし、誰かと話したい、つながりたいと思ったら、「部活」や「パーティー」、「ファナティック読書会」に気軽に参加することができる。そこに集まった知らない誰かと雑誌を作り、劇団を作り、バス旅行に行く。印税が入るわけでもないのに、自分の好きな本について熱くプレゼンする。そんな書店、聞いたことがない。
どんな店で、どんなスタッフがやっていて、どんな客が集まっているんだ?
新しいもの好きの福岡市民が、放っておくはずはないのだろう。
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