潤う書店~何も知らない私は幸せ者である~
記事:烏兎匆々(ライティング・ラボ)
「知らない事が多い方が良い」
当時小学三年生になったばかりの私に、担任が言い放ったその言葉は、とても皮肉な言葉として記憶に焼きついていた。
ずっと、担任の表情を思い出せなかった。
私はその担任が好きだった。おそらく、小学校生活を通して一番に。そして今でも。
扉を開けるとそこは異世界…などではなく、書店であった。
4月。
大学を卒業し、社会人になった。「新卒」「社会人一年目」世間からみればピッチピチに潤って見える単語だが、私は渇いていた。
学生は忙しい。
少なくとも私は今社会人になり、そう感じている。
勉強だけで平日朝から夕方まで予定が埋まり、加えてバイトや部活で夜遅くなり、土日や長期休暇も殆ど休みもなく、趣味や友達との遊びに一日中費やす日は少なかった。
それが、社会人になると、部活もバイトも勉強も一度に無くなり、平日の仕事のみになる。休日、自由に自分の為に使える時間ができた。
途端、私は暇人になった。休日にやる事が無い。仕事関係の事を終わらせればあとは自由な時間だ。起床後、布団の上でしばらく寝転がっていると、無為に時間が過ぎる事に焦りを覚える。
勿体無い。
そもそも、お金も時間も、自分の技術を上げるために使った方が有意義だ。無駄なものに費やしたところで財産にはならない。
そう思い立ったらまず行動だ。池袋に引っ越したばかりだった為、まず池袋周辺を散策する事から始めた。週末には英語を習い、時間があれば遠出をして絵を描いた。勿論友達と会ったり、研修へも行った。極力無為に時間を消費しないように。
しかし、渇きは潤わない。例えるなら、喉が渇いていて、手の届くところに水はあるが、水ではなくスポーツドリンクを飲みたい。そんな感覚。
だから私はその書店と出会った。
私は口コミでその書店を知ったとか、道を歩いていたら偶然に辿り着いたとか、そんな特別ドラマチックな方法でその書店と巡り合ったわけではなく、ごく平凡に西武のLOFT付近の本屋さんに置いてあった雑誌「池袋walker」を暇潰しに読み、そこに掲載されていた三つのキーワードに興味を持ち、Googleマップで場所を調べてその書店に行った。
扉を開けると書店。確かに書店だが、私の知っている世界では無いのは確かだった。
本が積まれている。奥に進むとこたつがあり、そこでドリンクを飲みながら談笑する人たち。目に入った黒板には◯◯部の文字。そしてアパレルのお店でも無いのに、店員さんが話しかけてくる。
「こちら、ご来店されるのは初めてですか?」
この書店はなんだ?
最初の印象がこのような一文であった人は私だけだろうか。
私はその疑問を晴らしたいが為に、日程が近く、部活も組み込まれている旅部に参加をした。
そこからはもう底無し沼にはまったかのようにその書店にのめり込んだ。書店の部活も面白いが、そこに集まる人もまた、皆、一人一人職種も年齢も様々で、話を聞くだけでも面白い。私の知らない世界を教えてくれる。
私にとって知らない世界を知ることは根本的に面白いのだ。アリストテレスでは無いけれど。
そして知るたびに知らない事が増えていく。
知らない事がある事に気付かされる。その連鎖だ。
だから今がとても楽しいのだろう。そう感じている自分は幸せ者だと思う。
あの言葉をくれた、大好きだった先生は笑っていた。その笑顔はとても晴れやかに。そして輝きを放って。
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