同級生の運動ヒエラルキーを底辺から駆け上がってみたら
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:福田大輔(ライティング・ゼミ通信限定コース)
73番だった。
これは小学校6年生の時の校内マラソン大会の順位だ。小学校での僕の学年は5クラスあって男子と女子がそれぞれ80人ぐらい、総数160人強の生徒がいた。
その数の男子の中で順位が73番だった。
僕は同級生の運動ヒエラルキーで最下層に属していた。
小学校中学校ぐらいで確かに存在してしまう目に見えないヒエラルキー。スクールカーストなんて呼ばれたりもしている。運動が出来る、勉強が出来る、面白い、かっこいい。限られた価値観で格付けされてしまう狭い世界だが、ヒエラルキーの下層になってしまうととっても生き苦しい世界。
運動が苦手だった。
足が遅いし力も弱かった。
お腹もなんかぽっこりしている。
ケンカだって弱いことも分かる。
何で生まれ持った能力がこんなにも差があるのだろう。1位になれる奴は何でそんなペースで走りきれるんだろう。
運動が得意不得意はヒエラルキーのどの位置にいられるか大きく影響してくる。
ちょっとバカにされている、男子からも女子からも。
小学生ながらに感じ取れる嘲り感。
友達と遊んでいてもみんなが登れたり飛んだりすることが同じように出来なかった。
こいつには絶対に勝てない、かけっこでもマラソンでも球技でも。
そう思わされてきた友達は何人もいた。
特に体育の授業は惨めな思いをしてばかりだった。
運動神経の指針の一つと言える逆上がり。
その逆上がりが出来なかった。
みんなは何であんな当たり前に出来るのだろうか。
なのに何で自分は出来ないのだろうか。
何で逆上がりが出来ないこんな自分をみんなに披露しなきゃいけないんだろうか。
とにかく息苦しくて恥ずかしかった。
そんな僕なのにしっかり運動部に所属していた。
僕の通っていた学校は小学校のメンバーがそのまま中学校へと進む。
そんな中学で僕はバスケ部に入った。
思えばこれが転機だったのだろう。
小学校はサッカー部だったが、部活の体を成していないお遊びクラブだった。
僕はバスケというスポーツを小6まで知らなかった。
こんな楽しいスポーツがあるのか!
バスケやりたい!!
純粋な想いが湧き上がっていた。
同学年のバスケ部員で中学から始めたのは僕ともう一人だけで、他のみんなは小学校からの経験者だった。
そんな状況でも尻込みせず、自分が運動ヒエラルキーの下にいるとかおかまいなしにバスケ部に入りたかったのだ。
僕の中学のバスケ部は毎年県大会に出ている地区ではちょっとした強豪の超体育会系の部活だった。
顧問の先生は熊みたいなガタイでめちゃくちゃ怖かった。今のご時世ならすぐに体罰だってなりそうな指導のやり方。
そんなことは全て入部してから分かったことだったが。
今考えるとあれは理不尽の向こう側の境地だったなと思う。
意味が分かるような分からないようなハードな練習をたくさん課せられた。いっぱい怒鳴られていっぱい叩かれた。毎日が怖くて苦しかった。
夏休みなんかは体育館を締め切って、水を飲むことも禁止された中でひたすら体力と精神が追い込まれる。吐いたことだってある。
それでも練習を続けて体力的にも少しずつ慣れてきていた。
そして冬に1年生だけで出る大会があった。
そんな練習の成果なのかは分からないが地区大会で準優勝して県大会もベスト8まで進むことが出来た。勝っても負けても怒鳴られていたけど。
あれ?
オレらってちょっとは強い方なのか??
試合を通して少しだけそんなことを思って中学1年生が終わっていった。
中学2年生になった5月、スポーツテストがあった。その一つとして体育の授業で1500メートル走がある。やっていることは小学校のマラソン大会と変わらない。順位だってしっかり付けられる。
ちょっとした野心が湧いていた。
自分はどれぐらいの位置にいるのだろうか。
部活であれだけきつい練習をしている自分の運動能力は何か変わっているのだろうか。
これまでの周囲の見る目を変えてやりたい。
ただのスポーツテストなのにやたら緊張感をもって臨んでいた。
スポーツテストの1500メートル走は1周200メートルのトラックを7周半してゴールだ。
1500メートル走は5分(300秒)を切ったら満点の種目だ。
5分を切るために200メートルを40秒で走ることを目安に走り続けた。
たくさんの人を周回遅れにして抜いていた。自分が速く走っているのが分かる。
タイムは5分7秒だった。
結果は学年で3位、僕より速いやつは2人しかいない。
タイムに関しては素直に凄く嬉しかった。あの理不尽でハードな練習は身体能力の向上としてちゃんと結果になっているじゃないか。
そして何よりも運動ヒエラルキーの下剋上を果たすことが出来たんだ。
あの時こいつには勝てない、そう思い知らされていた同級生よりも速いんだ。
満足か? 嬉しいんじゃないか?
いや、そんなことよりもタイムが5分を切れなかったことへの悔しさが徐々に湧いてきていた。
その後、周囲からの目は変わったのか。
変わったのかもしれないが、気付けばそんなことはどうでもよくなっていた。
そういえば中学になって部活を本格的にやるようになって周囲の目なんて気にする余裕もなかったし、体育の授業で何か出来なかったから何だというのだ? そんな風に思えるようになっていた。
今思えば周囲から嘲りを感じていたのは、自分自身への自信のなさが勝手にそう感じさせていたようにさえ思える。
同級生の中のヒエラルキーなんてくだらない。だけど小学校や中学校ぐらいの年代だと運動が出来る、勉強が出来る、面白いとか限られた価値観で変なランク付けがされてしまう。僕らにはその狭い世界が全てのように思えてしまっている。
だからこそだ。
どんなことでもどんな分野でもいいと思う。その狭い世界からちょっと外側へ目を向けられたら見え方や感じ方が変わるんじゃないだろうか。
僕の場合は部活に打ち込むことで自分の見る視野が変わったのだろう。
めちゃくちゃ足の速い先輩、めちゃくちゃジャンプ力のある先輩、めちゃくちゃパワーのある先輩、他校の対戦相手、この人たちより上手くなって試合に勝つことが何よりも大切なことになっていた。
練習した先にある未来を考えるようになってからは、息苦しさもすっとなくなってしまったようだった。
そーいえば逆上がりは出来るようになったのだろうか。
試しにやってみると
何故だ?! やっぱり出来ない!!
鉄棒と相性悪いのだろう、きっとそうだ。
だけど、こんなこと出来なくても大したことないじゃないか。
鉄棒は諦めて部活に励むとしよう。
《終わり》
***
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