美人スパイラル〜メダカが鯛になる街・福岡〜

記事：中村比呂美（ライティング・ラボ）

高卒で就職した会社はキラキラ輝いていた。
バブル景気の終わりごろ、福岡にオープンしたファッションビル「ソラリアプラザ」。１階のメインショップに「エンポリオ・アルマーニ」や「プラダ」が入っていた時代である。

ご縁があって入社が決まったが、それまでオシャレやファッションに全く興味がなかった私。
「お母さん、入社式に着ていく服がなか！」
慌てて母と服を買いに行き、勧められるままモスグリーンのスーツを買った。

同期入社は短大卒のお姉さんばかり。黒やグレーのスーツをカッコよく着こなしていた。このころはまだリクルートスーツの定義が今ほど明確でなく、紺やグレーでもＯＫだったが、私のは母が知ってる店で安売りされていた前の年の売れ残り色物スーツ。野暮ったくて明らかに浮いていた。

初めての配属先はビルの管理事務所の総務部。事務職だし制服着て黙々と電卓叩いていればいいと思っていたのに・・・。

事務所の先輩方は流行のファッションに身を包んだ美人ばかりだった。
ソラリアプラザは当時の福岡女子にとって憧れの就職先のひとつ。激しい競争の中選ばれた生え抜きの人達はキラキラ眩しくて。

あまりの場違い感に私は泣きそうになった。
気分は「ミジンコ」。
ミジンコからすると美人な先輩は住む世界が違う「鯛」である。

鯛はミジンコに優しかった。
新人でも買いやすい値段のブランドやメイク初心者におすすめの化粧品を教えてくれた。教わった店で買った服を着ていくと、「似合っとうよ！」などと褒められて調子に乗り、トライ＆エラーを繰り返した。この調子に乗るところはお祭り好き福岡人の気質だ。最初の一年間、給料は衣料品やコスメに消えていった。

美人な鯛たちはトレンドを追うだけでなく、カラーコーディネート、小物使い、全体バランスの取り方、スカーフの巻き方、髪のまとめ方、メイク、ＴＰＯ、マナーや所作などなど、普段の会話の中で情報交換していた。
いいと感じたものは「それいいやん！　どこの？」と素直に聞き、イマイチと思えば「こっちの方が合うっちゃない？」と裏表なく言う。言われた方も納得できれば受け入れるし、根に持ったりしない。
そんな環境にしばらく身を置けば、ミジンコも進化して金魚くらいにはなれるものだ。

私はたまたま職場がファッションビルで周りのレベルが異常に高かったが、そうでなくても福岡にはヘア、エステ、ネイル等のサロンがやたらと多く、美容系サロンで働く友人が数名いるのは普通である。
美意識高い友人と接触を重ねれば自ずと影響されて進化していく。元がメダカなら鯉や鯛になっていき、鯛になったらミジンコやメダカの手本となる。日常的に「美人スパイラル」が進行しているのだ。

このように、美人接触率が高い環境と、お調子者で素直な気質の相乗効果で、今日も福岡は美人増加中である。

みんなが最初から美人なわけじゃなかとよ。
周りにつられていつの間にかそうなっとうと。
メダカが鯛になるとこ見てみりー。びっくりするけん。
とにかくいっぺん来てみんしゃい。
屋台で一緒に飲まんね！

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