とまとちゃん
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:串間ひとみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
私の愛車は初代のシボレークルーズ。赤色でコロンとした見た目から「とまとみたい」と思い、そのまま「とまとちゃん」と名付けた。正面からだとちょっとつり目に見えるヘッドライトが小生意気そうな表情で気に入っている。軽自動車と間違われがちだが、1300ccのれっきとした普通車である。17年間乗って、現在までの走行距離34万kmまであと少し。
「10万km越えたから、次の車を考えとかないと」
職場で聞いた誰かのセリフにたまげた。私はその3倍以上の距離を走っているが、今のところ少しも車を替える気はない。だが、日本の自動車メーカーは、エンジンなどの主要部品の保証を「10万kmまで」としており、実際に10万kmを越えるとエンジントラブルが起こりやすいとのこと。さらに新車登録から13年で税率が大きく上がる(だいたいそのあたりが10万km)ことも、10万kmを目安に車を替える理由らしい。そういえば車の税金が他の人と比べてやたら高いことを今年知って愕然とした。大事に乗っているだけなのに、なぜ税金が高いのか納得いかないところである。
車に名前を付けている人に今のところ出会ったことはないが、私は母から受け継いだ初代の車にも「サニーちゃん」(日産のサニーであったという単純な理由で)という名前を付けていた。そしてサニーちゃんは2年でお役目を終えた。たった2年の付き合いだったが、別れるときには大泣きしたので、17年も相棒のとまとちゃんと別れるときのことなど考えたくもない。車に対する愛着はある方だと思う。
名前がシボレークルーズなので、シボレーの車かと思いきやそうではなく、外装はシボレーだが、中はスズキが作っている。そのため車検、修理全般スズキのお店に頼んでいる。そのお店との付き合いも17年になる。私がとまとちゃんを気に入っていることを知る昔からの担当者は、
「大事に乗って下さってありがとうございます。できるだけ長く乗れるように」
と、丁寧にメンテナンスをして下さっている。車検が高額になった時はさすがに、買い替えの提案もなされたが、
「部品の替えがきかなくなるまで、この車以外に乗る気はありません!」
言いはしなかったが、できることなら乗れなくなっても家にショールームを作って保管しておきたいくらいだ。それなのに新しい担当者に「もう古いけんですね」と、言われた時には本気で担当を変えてもらおうかと思った。
ある日、とまとちゃんに乗ってずいぶんたくさん一緒に出掛けた職場の後輩が、こんな話をしてくれた。
「知り合いの車の修理する人が、車が長持ちする秘訣を教えてくれたんですけど、何だと思います?」
「定期的にメンテナンスすること? ま、うちのとまとちゃんの場合は私の愛かな」
「そうなんですよ!」
ん、どっちにそうなんですよ?
「車は機械だけど、乗っている人の気持ちが伝わるんだそうです。不思議だけど、メンテナンス以上に、愛着を持って乗っている人の車程、状態がいいんですって。植物と同じ。乗るときにありがとうと声かけるとか、人に接するように接するというか」
車の修理の人の話を聞いた時、私ととまとちゃんのことを思い出したそうだ。私は、変な人だと思われそうだが、結構とまとちゃんに話しかけている。「今日の仕事大変だった」とか、「めっちゃ雨降ってるけど、今日も頑張ろう!」とか、「いつも安全に私を運んでくれてありがとう」とか。
「そうなのか……」
大学生から一人暮らしを始め、実家で過ごした時間よりも一人で生活してきた時間の方が長くなった。家族よりも長い時間をとまとちゃんと一緒に過ごしている。上手くいかないことが続いた帰り道、あまりの悔しさに運転しながら何度泣いたことだろう、仕事の忙しさに、家にたどり着くのが精一杯で、車の中で寝てしまい気づけば朝だったことも1度や2度ではない。大好きな友人や、家族と一緒に、たくさんの場所に連れていてもらったし、車の中でいろいろな話をした。とまとちゃんは、私の人生のアルバムのようなものだ。本当にたくさんの思い出が詰まっている。私にとって、悩みを聞いてくれるカウンセラーのような存在であり、癒しをくれる親のような存在であり、楽しい時間を過ごす友人のような存在でもあり、人生を共に歩いてきた戦友で相棒だ。
とまとちゃんは生き物ではないけれど、きっと私たちは相思相愛だと思う。愛情をもって接していれば、ちゃんと応えてくれる。それは私たちの身の回りにあるもの全てに当てはまるのではないかと思う。
旅に出て帰ってきて久しぶりに空港でとまとちゃんに会った時、ああ帰ってきたと思う。そのハンドルを握ると妙に落ち着く。私の帰る場所に戻ってきたという感覚。人も物も大事にすればちゃんと答えてくれる。それを教えてくれたのが、私の愛車シボレークルーズのとまとちゃんだ。
***
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