独立やベンチャーは、真冬の浜辺で焚き火生活をするようなものかも知れない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:川崎雄斗(ライティング・ゼミ平日コース)
数年前、テレビで『極寒の湖で、焚き火だけで何時間耐えられるか?」という企画が放送されていた。
渡されたのは、マッチ数本と薪と布団。
電気ストーブなどの文明の利器は持ち込みNGで、さて何時間耐えられるか? という番組だった。
企画の顛末がどうなったのか、覚えていない。
ただ、僕がこれまでやってきた、”フリーランスへの独立”や”ベンチャー起業”というのは、まさにこんな感じだったなと、ふと思った。
よく独立やベンチャーは自転車操業と例えられけど、そんな甘っちょろいもんじゃない。
どちらかというと、波が押し寄せる真冬の浜辺で、焚火を守りながら生活しているようなもんだ。
もし、そんな生活をすることになったとしたら、ちょっと大変そうではあるけれど、最初はきっとワクワクする。
乗り越えたらいい話草になるだろうし、満点の星空も独り占めできるだろう。番組の企画なら賞金だって手に入るかもしれない。
けれど、そんな甘い見通しは、早々に打ち砕かれる。
「手持ちの薪で1日足りると思っていたけど、3時間でなくなるかも……」
そう気付いた頃には、もう遅い。
乗ってきた船は、もう彼方に遠ざかっていて、生きるためには、焚き火に薪をくべ続けなければならない。
最初のうちは、近くに転がっている枯れ木を集めれば、なんとかやっていけるだろう。
けれど、次第に手近な薪は無くなっていき、リスクを承知の上で、裏の山に足を踏み入れなければならなくなる。
狡猾な野生動物と戦いながら、死に物狂いで薪をかき集め、「これは大きな枯れ木だ! よく燃えそうだぞ」と持ち帰ってみたはいいものの、中が湿気って使えないなんてこともある。
この頃には、最初に感じていたワクワクした気分はすっかり何処かへ飛んで逃げ、ただ、生きるためだけに必死になる。
そんなこんなで四苦八苦しているうちに、今度は潮が満ちてくる。
せっかく大切に守ってきた炎も、波にさらされてしまったら、ひとたまりも無いだろう。
あとから事の大変さに気が付いても、もう後には引き返せない。
思い返してみると、フリーランスとして独立してからの毎日は、ずっとこんな調子だったように思う。
最初はやっぱり、目の前に輝かしい未来の情景が浮かんでいた。
僕の場合であれば、「輝かしい成功者ライフ」だったり、「社会への貢献」だったり、「自由」だったり、とにかく自己実現に近づく未来が手に入る。
そんな期待を胸に、独立に踏み切った。
もともと、大学4年生からやっていたライターで、生活費くらいは稼げていたし、計画もそれなりに練っていた。
けれど、現実はそんなに甘くない。
1年は持つと思っていた資金は、4ヶ月も保たずに底がつきる。
クレジットカードの枠は埋まり、日に日に増える、リボ残高。
毎月のようにクレカの返済に追われ、「やべ……、今月の支払い足りるのか……」と心が不安でいっぱいになっていった。
それでも、命の灯火を燃やし続けるためには、薪というお金を集めなくてはならない。
最初は、「楽しそう!」と憧れた生活も、ただがむしゃらに生きるための仕事をこなすことだけで、いっぱいいっぱいになってしまう。
「あれ、自分の目指してたのってこんな生活だっけ」
「この生活、いつまで続くんだろう……」
「結局、やりたいことなんてできてない」
そう思ってる間にも、当初立てた計画はどんどん狂っていき、今度は焦りだけが募ってくる。
そもそも、計画なぞが役にたつのは、浜辺にログハウスを建ててから、焚き火を始められるほど余裕がある莫大な資金力があるベンチャーだけだろう。
一方で、全く考えないとなると、波打ち際の焚き火のように、時代の波にのまれたり、大きな会社に市場ごとひっくり返されて、身につけてきたものがすべて無に帰す可能性もある。
だから、考えても無駄になることが多いけど、考えないわけにはいかない。
こんな風に、どうにもならないような毎日を生き抜いていくのが独立やベンチャーなのだ。
だから、これから独立しようと思っている人には、両手をあげておすすめ! とは言えない。
余った時間とお金で副業を始めて、生活できるようになってから始めたら? と勧めたいくらいだ。
では、独立して後悔して後悔しているのか?
と聞かれたら、とんでもない! と答えるだろう。
たしかに、独立してからの数年間は、苦しい期間も長かった。
狡猾な人間に、報酬を払ってもらえいないことだって、何度経験したかわからない。
そうして手に入れた経験は、満点の星空にも劣らないほどの財産となっている。
だから何度やり直せるとしても、同じように独立の道を選ぶだろう。
テレビの企画のタレントさんが、最後にどんな表情で去っていったかは覚えていない。
「もう二度とやりたく無い!」と思ってるかもしれない。
けれど、数年後に振り返ると「やってよかった」と思っているかもしれない。
僕にとってそれが独立であり、ベンチャーだった。
たしかに同じことはもう二度としたく無い。
けれど、過去の自分には「絶対やるべき!」と言うだろう。
だからこれからも、そんな「二度とやりたく無いけれど、やってよかった」と思えるような経験を、積んで行けたらいいなと思う。
***
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