毎日の掃除をするように、茅を刈る
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記事:住田薫(ライティング・ゼミ平日コース)
皆さんは、掃除、毎日していますか?
私はしている、と言いたい。けれど、していません。実際は。
職場では、毎朝掃除の時間があるし、机の上もきれいに整えておくことを推奨されていて、ごちゃごちゃした状態で放ったらかしていると、上司から「片付けてね」と釘を刺されるから、掃除や片付けは習慣になっている。だからキレイにしておくことの気持ちよさは、十分、身体で分かっている。
けれど自分の部屋のことになると、ぐうたらが発動して、ついついさぼってしまう。
職場と同じように、毎朝10分、などとルーティーンにしてしまったら良いのだろうか。きっとそうなんだろうな、と思いながら、今日もやらない。
やりたいのだ、本当は。整った空間で、心と身体も整う、そんな生活に憧れを感じているのだから。
なんで掃除の話をしているかというと、掃除をすることと、茅(カヤ)を刈ることは、似ていると思うからだ。
私は建築の仕事をしており、茅葺き屋根の維持保存に関わる活動もしている。そこでは、屋根の材料である茅を確保するために、毎年、茅を刈らなければならない。
茅葺屋根の屋根は、茅(カヤ)というストロー状の植物で葺かれている。茅という植物があるわけではなく、ススキやヨシ、カリヤスなどの屋根葺材の総称をいう。イネやムギワラを使うこともあるし、笹を使うこともある。この材料を確保するために、毎年茅を刈らないといけない。
茅を刈るのは、実は自然環境にとっては良いことで、茅を刈ることで、その場所の生態系が豊かになる。日があたり、多種多様な植物が生え、結果、多様な生き物が生活できる環境となる。秋の七草なんかも、ちゃんと茅を刈っていると、その場所でよく育つのだ。
その昔、山に柴刈りに行っていた時代は、人は自然の生態系の一部だった。
ちなみに、柴刈りとは、「昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山に柴刈りに、お婆さんは川に洗濯へ……」の柴刈りだ。柴とは、野山の小さな雑木のことで、お風呂を沸かしたり、ご飯を炊いたり、囲炉裏に使うための薪になる。
薪は生活に必要不可欠な消耗品だから、頻繁に付近の山へ薪を取りに分け入り、人が住む集落の近くの山は今みたいに生い茂ってはおらず、見通しのよい状態だったという。人が山に分け入り、小さな雑木や下草を取り除くことで、地面に日があたり、様々な植物や、多様な生物が生活する環境が整う。そしてその恩恵をまた人が受け取る。キノコや木の実を採取したり、枯れ葉を肥料としたり、ツル草でカゴを編んだりする。このような生活圏内の野山のことを最近は里山と呼ぶ。
そして茅も、屋根材の確保するために、毎年秋になると刈るものだった。
今は茅葺きの屋根は絶滅危惧種だけれども、茅葺き屋根の職人さんや、茅葺屋根を保存・活用しようとしている人たちなんかは、今でも毎年、茅を刈っている。
そして私も数年前から、茅刈りに参加するようになった。
だけれども、ふだん全く運動をしない私にとっては、茅刈りはけっこうな力仕事である。
茅を刈ることは、嫌いではない。どちらかというと、好きだ。でもちょっとだけ、めんどくさい。と思ってしまう。
茅刈りは、毎日の掃除と似ている。
やり始めると、楽しい。
やり終わると、達成感や充実感が得られる。
“やらないといけないこと”である。
“やると良いこと”でもある。
好奇心はものすごくあるので、まず最初にやってみることには何の躊躇もない。
学生の頃に、先生に「毎日違うことをしろ」と言われたことを、今でもよく覚えている。
それは、毎日ただただ同じことを繰り返すのではなく試行錯誤しろという意味だったのか、それが脳に活性によいということだったのか、その中身はもうあまりよく覚えていないけれど、この言葉は今でも私の活動指針になっていて、「これはやったことないからやってみよう」で動くことがよくある。経験したことがないことはなんでもやってみたい。
茅刈りも、一度はやってみたい。一度目は楽しい。
問題はその先だ。
毎年続けるためには、違うモチベーションが必要となってくる。
そして、うまく“やりたいこと認定”ができていないから、人にすすめるときに、言葉に困る。
大勢で一斉にやったほうが、楽しいし、早く終る。だから人を集めないといけない。
自然環境がよくなるよ、というのは美しい誘い文句ではある。持続可能な社会を謳う企業さんなどにとっては、とてもオイシイ話だと思う。でも個人レベルでは現実のところ、上っ面のキレイな言葉じゃなくて、ほんとうの意味で、楽しめないと続かないし、人も集まらないと思う。
だから、自分が茅刈りとどういう関係を築いていきたいか、改めて考えた。
毎日の掃除は、やりたい。
充実感や充足感を得るために。気持ち良い生活をするために。そしていい女になるために。
茅も、刈りたい。よそ行きのキレイゴトだけでなく、心の底から、そう思う。
地に足のついた生活をするために。自然と仲良くなるために。そして運動不足を解消するために。
今年の茅刈りは、新たな気持での参加となりそうだ。
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