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ログハウス わが家の自給自足は家だけということになった

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記事: 森 団平(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「妻が妊娠、わが家は自給自足を決意した」
そんなセリフから始まるダイワハウスのCM、松阪桃李さん主演のこのCMでは、自給自足を決意した家族が、挑戦の末、「自給自足は電気だけ」となるストーリーだ。
 
これを見ていた時、僕の心の中には、なにか引っかかるものがあった。
自給自足は電気だけ、自給自足、家のCM。
 
あっこれ、松阪桃李はうちの父だ。うちの家の電気Ver.じゃないかと。
 
我が父は我ながらちょっとおかしい人だ。
僕は、長男なのだが、どうも父は母が妊娠した頃から、自給自足を考えていたらしい。
きっかけは、昔NHKで放送していた「大草原の小さな家」だ。
開拓時代のアメリカを舞台とするこのドラマは、主人公インガルス一家が大草原の中で家を建て、農作物を育て生活し、様々な困難を乗り越える姿を通じて家族愛や人間愛を描いた大ヒットドラマだ。
これに感銘を受けた父は、自らの子供も大自然の中で育てたいと思ったらしい。
 
現代日本でそれをやろうとした。
しかし、現代日本では自給自足は難しい、とにもかくにもお金が必要だ。仕事はせねばなるまい。
井戸を掘るのは出来るが、飲料水は法律があるので現実的ではない。
牛と鳥も育てるのが難しい、稲は広大な土地が必要だ。
 
というわけで、「わが家の自給自足は家だけということになった」
 
思い立った父がまず初めにやったのは、大自然に引っ越すことだった。
わが家があるのは、四方を山に囲まれ、川が流れ、最寄りのコンビニまで歩いて3時間という田舎だ。むしろド田舎といった方が想像しやすいと思う。
さすがに「ポツンと一軒家程」ではないが、僕の同級生は小学校、中学校通して4人だったし、その小学校も中学校も今は廃校になった。
そこに建つ、古い家と隣接した土地を買った父は、計画を開始した。
そう、家を建てるのだ。
この時僕は5歳。今でもあの風景を覚えている。
長さ30mはあるベイマツ(アメリカ産の松)がうずたかく積まれているのを、
皮が着いた状態で優に300本はあっただろう。
それはとてつもない迫力で迫る山。当時の僕の遊び場は、ジャングルジムでもブランコでもなくこの丸太の山だった。
 
父が選択したのは、丸太で作る家「ログハウス」だったのだ。
 
ログハウスとは、丸太を積み上げていけば出来るので簡単に見えるが、決して簡単ではない。積み上げるためには、基礎を作り、丸太の皮をむき、チェーンソーで木を組み合わせるための溝を入れる。
そうして防腐剤を丁寧に塗った後で、組んでいくのだ。
組んでいくと言っても、丸太は重いなにせ長いものになると30mくらいはあるのだ。もちろん手では持ち上がらず、パワーショベルなどの重機を使う事になる。
 
重機を扱うのは技術が必要だ。それに買うと非常に高額だ。
それを解決するために父が考えたのは、土木会社に転職する事だった。そして、会社の重機を格安で借り受ける。技術も身について、費用も安く済んで一石二鳥だ。
 
皮をむき、木を削り、組み上げる。そして二年たった頃、力尽きた……。
遅々として進まないのだ。
 
考えれば当たり前である。本来であれば本職の職人さんが数名掛かりで半年以上かけて作り上げる家を、素人が、それも実質的には父と母の二人だけでしかも平日は仕事をしながらでは二年で出来るはずもない。
家の完成がはるか遠いことに悩んだ父は、仕事を休職した。
今、改めて考えると驚きの決断だと思う。
住む家を作るために、生活を犠牲にし兼ねない決断だ。今の自分にその決断が出来るのかと言われると難しいだろうと言わざるを得ない。
 
兎にも角にも、仕事の休職してからのペースはアップした。
毎日、組まれた丸太の高さが段々と上がっていく。
僕の遊びは丸太の山から、木屑を集めることに変わった。父がチェーンソー振るう。木屑が出る僕が集める。
 
建設するペースは上がったが、順調なことばかりではなかった。
クレーンを呼んで、大きな三角屋根の骨組みを立てる棟上げの時は一度空中でばらけて丸太が降ってきた。大惨事になるところだった。怪我人が出なかったのは不幸中の幸いだ。
屋根瓦の下に敷く防水シートを張り終えた直後には台風が来て、通り過ぎた後には、防水シートは破片しか残っていなかった。
 
そうして、引っ越した後5年も経った頃だろうか、ようやくわが家は完成した。
30m四方、2階建て、大きなベランダと僕の部屋には屋根に沿った天窓もついているログハウスだ。
 
完成したログハウスを見て父は何を思ったのだろう。
ただ、誇らしげに「LOG-FAMI(ログファミ)」と手彫りした表札を玄関に打ち付けていた顔は忘れられない。
 
大自然と暮らすという目的も、果たされたことだろう。なんせ、梅雨時期には雨が吹き込み、冬は雪が舞い散る室内。窓枠の作りが甘いせいだ。
ただ、冬は暖炉の火が灯り暖かい。
この頃、小学生の高学年だった僕の遊びは薪割りになっていた。
改めて思い出すと強く育てられたものだ。
 
あれから数十年、「大草原の小さな家」を目指した父が立てたログハウスは今も家族を守り続けている。
 
僕は、自分の家を建てるという事はなかったが、子供の頃の思い出は色褪せない。
時々考えるのだ、今は無理でもいつかは自分でわが家を作ってみたいと。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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