メディアグランプリ

程よい距離感が心地よい、旧友のような街「蔵前」


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:石田友希(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
正月の福袋に本やCDのジャケ買いなど「中身が分からない」という状況は
何故だか気分を高揚させるものがある。前情報やパッケージの雰囲気だけを頼りに
買い物をするというのは、福引感覚もあるし、自分では探しきれない「何か」に
出合えるような気がするのだ。私はそのスタイルをテレビ番組の録画にも
取り入れている。番組表をぼんやり眺め、心に留まったタイトルを予約録画して
後日視聴するのだが、よくもわるくも期待を裏切られる爽快感がやみつきになるのだ。
 
そこで見つけた一作が『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』という一話完結モノのドラマだ。
舞台は吉祥寺にある不動産屋。店主姉妹のもとに悩みを抱えた主人公がやってきて、共に
物件探しをしながら、前へ踏み出すきっかけを見つけていくというストーリーだ。
一話ごとに東京のお洒落エリアや、知る人ぞ知るエリアまで、様々な街がクローズアップ
されるのだが「東京のブルックリン」と紹介された蔵前に、不思議と心を惹かれた。
都会ながらも古き良き時代の趣ある雰囲気に、隅田川沿いのゆったりとした空気感、そしてものづくりの街という温かみが、画面越しにジワジワと伝わってきた。
現地のクラフトマンと触れ合い、挫折から立ち上がろうとする主人公を見ながら、
「そうだ、蔵前へ行こう」と、私の心は決まった。
思い立ったが吉日というわけで、早速連休を取得して、九州から東京へ旅に出ることにした。飛行機で2時間弱の移動を経て、京急そして地下鉄を乗り継ぎ蔵前へ。
改札を抜け街へ出ると、心地よい風が吹き抜けた。都心と違って人混みもなく
マイペースに歩けるというだけで、地方の人間にはありがたい限りだ。
駅を背中に周囲を見渡し、向かいに台湾雑貨&カフェの店を見つけると、早速胸が高鳴った。
すぐさま店に直行し、まずはカフェで朝ごはんがてら魯肉飯と台湾茶をオーダー。
お店のお姉さんは台湾の方だったようで、カタコトの日本語がとても可愛らしく聞こえた。
テーブルに置かれた台湾本を読んでいたら、あっという間に食事が運ばれてきた。
ごはんの上にのった豚肉は甘辛く味付けされ、白米によく染みている。お姉さんは
どんぶりを置くと、手際よく台湾茶を注ぎ「飲み終わったらお湯を足せます」と
優しく微笑み、厨房へ去っていった。どんぶりが空になる頃には、お客さんも増え
気づけばちょうどお昼時だった。お湯を注いでもらおうと厨房をのぞくも、せわしない
お姉さんに気が引けて、諦めようとしたのも束の間、なんと向こうからお湯を注ぎにきてくれたのだ。そんなさりげない親切が、楽しい小旅行を予感させた。
 
ものづくりの街・蔵前といえば、職人の店が数多く立ち並ぶ。
通りを歩いていると、淡い色合いの革製品が目に留まり、吸い込まれるように店に
入ってしまった。形はシンプルながら、存在感が際立つアイテムを眺めていると
店の方が話しかけてくれた。名刺代わりにショップカードを渡し「ゆっくり見て行って
ください」と、さりげない接客が信条のようだ。
きっとこだわりぬいた作品なのに、多くを語り過ぎず「私達なりに心を込めて
作っているので、よかったらどうぞ」と、あくまで控えめだ。
熱はあるけど主張しすぎず、相手の懐にスッと入ってくる感じというのか、店の人の
絶妙な距離感が、居心地の良さに結びついているのだと分かった。
 
通りを隔てて向かいの店をのぞいてみると、猫モチーフの雑貨が整然と並べられていた。
聞けば、私が来店した当日がオープン日だったらしい。猫好きの同僚達にいくつか
お土産を購入すると、猫型クッキーのおまけがついてきた。事前に徹底リサーチするのも
いいけれど、偶然が引き寄せる特別というのも、旅の醍醐味だ。
 
寄り道しながら進んでいると、インク専門店が見えてくる。
真っ白な壁面には、まるで宝石のようにカラフルなガラスペンが輝いていた。
店の真ん中に置かれた什器には、ビールサーバーのごとき大きなボトルが3本。
中を満たすのは、ありそうでなかった色合いのインクで、好きな分量を選んで買える
スタイルだ。さらに嬉しいのは、自分の好きな色をブレンドしてオリジナルの一色を
作れること。あいにく予約制とのことで、また蔵前に来る口実を見つけてしまった。
紅葉のようなオレンジ色のインクを買い、これを試し書きするノートを求めて散策して
いると、文具専門店を発見。なんとパーツを選んでノートをオーダーメイドできると知り
早速自分の一冊を作ってみることにした。サイズにはじまり表紙・裏表紙・中紙・留め具・リングまで、ひとつひとつセレクトして、ノートができる「過程」まで楽しめるのが心憎い。もちろん中紙は、インクとの相性のいいトモエリバーだ。早くペンを走らせたいと胸を躍らせ店を出ると、夕暮れ時を迎えていた。
 
そんな3年前の記憶が、今も鮮やかに甦る。初めて歩いた街なのに、人の温度が程よくて
一見の自分も仲間のように受け入れられているような懐の深い街。それが私の思う蔵前だ。
不思議と魅力を感じるのは、熱意があっても押し付けようとせず、けれども突き放すでも
なく「興味があったら、触れてみてください」という職人達のスタンスが、私の求める
人間関係に近い気がするからだ。次の上京は未定だが、しばらくは思い出の中を旅するのも悪くないだろう。いつかまた蔵前に行ける日がきたら、自分色のインクをオーダーして
新たな出合いを書き留めたい。
 
 
 
 
***
 
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2020-12-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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