外出自粛には猫が効く。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:山田(ライティング・ゼミ日曜コース)
我が家には雄の猫がいる。名前はにゃんざぶろうという。どこで生れたかとんと見当がつかないのは、夏目漱石の小説に出てくる猫と一緒だ。近所に捨てられていた彼は、好きでもない「古畑任三郎」を捩った名を無責任な私の父親から授けられ15年間、山田にゃんざぶろうとしてのらりくらりと生きている。
長年ともに過ごしてわかったことは、この滑稽な名前の猫は、何の役にも立たないということだ。犬のように芸をするわけでも、鳥のように言葉を発するわけでもない。ネズミどころか虫の一匹も仕留められない上に、重度の人見知りで、猫カフェの猫のように人をもてなすこともできない。ねこじゃらしを模したおもちゃに反応を示したことなど一度もないくせに、家の壁や障子を破壊することには夢中で勤しむ。おおよそ猫らしい可愛らしさを期待するだけ無駄。そう諦めざるを得ない。彼は飼い主に可愛がられるためではなく、自分の為に生きているのだ。
では、なぜ彼と一緒に暮らし続けるのか。「生き物を最後まで責任をもって飼いましょう」といった当然の義務感からではなく、彼と一緒にいたいと思う理由はきちんとある。
それは、彼が持つ座敷童のような不思議な力にある。その力の存在を強く感じたのは今年の4月、コロナウイルスによる緊急事態宣言の真っただ中のことだった。
未曽有の出来事に対して「自分自身で気づくことができない」ストレスをたくさん抱えていることに気づき始めた時期であった。趣味の旅行にも行けず、在宅勤務が続き、家から一歩も出ない日々。いつまでこの日々が続くか先が見えない中、テレビを眺めていた。
「猫の間でもコロナの感染例が増えてるらしい。人から猫への感染も確認されている」
お昼のワイドショーでそんな報告がされていた。猫でも、高齢だと重症化しやすいのだろうか……。そんなことを考えていると、世間の事情など俺の知ったことか、とでも言うように、にゃーにゃーと大声と前足で散歩を要求してくる彼。何度も言うが彼は犬ではなく猫だ。そして人や他の動物を極度に怖がるくせに、散歩が好きな身の程知らずなのだ。
こんな状況下、外出を控えているものだから、数カ月彼を散歩に連れて行っていないことに気が付く。天気もいいし、久しぶりに散歩へ行ってみることにした。何より、私自身が気分転換を必要としていた。公園と呼ぶには殺風景な、ちょっとした広場が家のすぐ近くにある。住宅地に囲まれたそこは、人通りも少ない。
「確かあそこには小さな桜の木があった。今年はお花見もしてないし、行ってみようかな」
以前の散歩コースでは通らない道を選んだのも、とにかく小さなことでもいいから変化が欲しい、という気持ちの表れだったのだと思う。
草木が茂るちっぽけな広場の中央に腰かけ、真上にある小さな桜の木を彼とぼーっと眺める。ひらひらとたまに落ちてくる桜の花びらにびっくりする様子が面白い。彼がこんなにゆっくりと桜の木を見るのは、15年の「猫生」で初めてだと思う。そもそも私にとっても、この広場の桜の木を繁々と眺めること自体がこの地に住んで20年以上、初めてだった。例年ならこの時期には桜の名所に行くので、1本しか生えていないこの地にわざわざ足を運ぶ理由がなかったからだ。
30分ほど、桜を眺めた。この桜の存在は認知していたのに、どうして今まで目を向けていなかったのだろう、と考えずにはいられないほどこの1本の桜は美しかった。毎年毎年、見てくれる人がいなくても、私がここに来ても来なくても、変わらず咲き続けていたのだろう。
この桜を見ているだけで、そして横に彼がいてくれるだけで、いろいろな不安やストレスがすっと軽くなるのを感じた。
「生きてるだけでいいじゃん」
のんべんだらりと生きるこの猫自身、そんなことは1ミリたりとも考えていないのだろう。ただ、面倒くさいことが避けられない人間生活の中で、彼の生き方を見ていると自然とそう思える。「がんばろう」などと、縁もゆかりもない人が発するテレビやネットからの言葉よりも、なーんにも考えていない、この自分の為に生きる猫を見つめている方が、どうしてかずっと心が安らぐのだ。
何もしていないように見えて、本当は気づかないうちに幸せを運んでくれている。そんな不思議な力を持つ彼と過ごせる何気ない一日を大切にしたい、と意識するようになったのはそれからのことである。今は、15歳と伝えても誰からも信じてもらえないほど、運動能力や食欲も衰えることを知らない元気さである。しかし、彼がやがてさらに老いて、この世を離れたときには、本当に我が家の座敷童になってくれるのではないか。本気でそう思っている。が、向こうでも、私たちのことなど気にもかけず今までどおりに彼の思うまま、無為に過ごしていたとしても、彼らしいなと思ってしまう。
***
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