茶道は 幸せなサスペンス である
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記事:楠 綾 (ライティング・ゼミ 日曜コース)
2、30年前になるだろうか。
毎週火曜夜9時になると、アンニュイな気持ちをあおるオープニングテーマで、サスペンス劇場というテレビ番組が始まっていた。 松本清張作品などの日本の推理作家や海外ミステリーなどを原作として映像化され、毎回2時間で完結していた。 連続番組のように、1度見逃したら内容についていけなくなるわけではなく、家事雑事から解放される時間帯に放送されていたこともあり、中高年世代に、人気だったようだ。
その番組を、両親は、いつも部屋の明かりを消し、すっかり就寝の準備をして見ていた。私は、いつも両親の隣の部屋を寝室として使っていたが、「早く寝なさい」と制されつつも、オープニングテーマに、得体のしれぬワクワク感でいっぱいだったのを、ついこの間のことのように憶えている。
さて、サスペンスとは、何だろうか。
辞書で確認すると、「先の展開が読めないことにより不安や緊張を感じること」。 英語の “suspense” には、「宙ぶらりんの状態」と、ある。
不安や宙ぶらりんな状態になるなら、初めからやらなければいいのに、とも思うけども、私たちは、扉にちょっと手をかけたら、途中でやめることができないのかもしれない。
わたしにとって、茶道がまさにそうだ。
なんか怖そうな、型苦しそうな世界だなと感じていた一方で、仲間入りできたら、みやびと博学が一度に手に入るような感じであこがれていた。
門戸を叩こうか否か、いや場所が、曜日が時間がと、自分に言い訳をしている間に2年が過ぎたころ、ようやくあるカルチャーセンターに電話して、茶道教室の見学をさせてもらうことにした。
実は、見学の予約をした後も、生徒さんは何名で、何歳ぐらいの人ですか?と往生際悪く、受付の人に確認をしたのだけれど。
見学の初日、茶道は時間に厳しいだろうから、遅れては大変と、時間よりかなり前に到着した。部屋に入ると、パンフレットの写真通りの年配の温厚そうな男性の先生がおられ、「ずいぶん早く来たんだね、まだ準備できてないよ。ちょっと待ってて」 と言われ、ちょっと拍子抜けしたんだっけ。
茶道は、細かいと聞いていたけれど、畳のヘリを越す足の右左が決まっていたり、 茶筅 (ちゃせん お茶とお湯をかきまぜる竹製の道具)は、畳の〇目めに置く、 茶杓 (ちゃしゃく お茶をすくう竹製の道具)は右手で、下端から3分の一のところを持つ、と言ったように、ちょっと持つ、置くのも自由にさせてくれない。
先に入門した先輩達は、いとも簡単に足の運びや所作などされていたのに、私は、一足踏み出すことさえも、おっかなびっくりで、抜き足差し足のまるでどろぼう、緊張しっぱなしだった。 稽古が終わると、毎回ぐったりで、入門したことを少し後悔していた。
3か月経ったころ、いつもはお稽古に向かう道中、「今日も、自分だけ怒られるのかな……」と、憂鬱だった気持ちが、「今日はどんなお菓子だろう」「お茶はうまく点てられるかな」に変わってきていた。
もう少しすると、「花入(はないれ 花を入れる器)に入ってるお花が、楚々としてホッとするなぁ」 「今日のお軸の文言の意味、ズシンと来たな」 と感じるようになり、毎週のお稽古が楽しみになっていった。
茶道は、総合芸術と言われる。 掛け軸、茶碗、茶杓などの道具、花、抹茶、菓子など、どれか一つの知識を極めるにしても、相当の年月を要するし、終わりの見えない宙ぶらりんのような状態が続く。
例えば、お茶会の主催者である亭主が、客のために入れたお花を、客がどう見てどう感じるか。自然が作り出した花や葉の色に癒される人もいれば、思い出の人と過ごした庭に咲く花を思い浮かべるかもしれない。 掛け軸の禅語 明珠在掌(みょうじゅたなごころにあり。宝は、自分の手の中にあるの意)を見て、公私とも順風満帆の人は、まさに自分が得ているものと悦に浸るだろうし、落胆している人は、昨夜の夕飯が美味しかったという何気ない幸せのありがたさを思い出すきっかけにもなるだろう。
相手がどう感じるかは相手次第で、正解がない分、緊張が強いられる。
その時々、場所、季節、お点前をする人やお客、そしてその人たちの当日の気持ちによって、見方感じ方が異なる劇場のような場所に、茶道はなりうる。
私は、今、宙ぶらりんと緊張を行き来して、楽しんでいる。 総合芸術をひとつひとつ学んでいく楽しみもあれば、茶道を介して、自分がどんなことにワクワクする人間か、どんなときに心を揺さぶられるのか、答えは定まっていない。 きっとこれからも答えは出ないだろうが、答えを探していく毎日こそ、幸せなのかもしれない。
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