出不精女を動かした奇跡のマンガ
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:森真由子(リーディング・ライティング講座)
非常に面倒である。
カーテンを開けると空高く太陽が燦々と照りつけ、今日はいつも以上に外出日和だった。
……が、外出なんてしない。
できればずっと引きこもって本や漫画を読んで、動画を観ていたい。家でできることなんて山ほどあるのだ。
休みの日くらいは体を動かした方がいいだろうか、という考えが一瞬頭をよぎるが、結局いつもの休日と変わらず今日も積極的に引きこもることにした。
学生時代はずっと運動部に所属していたからか、けっこうアクティブな子だと思われていた。
実際にスポーツを観戦するよりも自分自身で体を動かす方が好きだったから、確かにある程度は動きたいタイプだったように思う。
しかし部活を辞めて社会人になってからは、一切体を動かすことがなくなってしまった。通常の業務も基本的にはオフィスでメールと電話の対応のため、通勤以外はほぼ動かない。
携帯についている万歩計を見ると、200歩くらいしか歩いていない日もあり、そのときは自分の運動量の少なさにさすがに凍りついた。
*
ある日ネットサーフィンをしているとき、誰かのブログで気になる漫画を目にした。
そのタイトルは、『高尾の天狗と脱・ハイヒール』。
天狗とハイヒールの親和性のなさが、なんとも言えないシュールさを醸し出しているような気がした。(あるいは、天狗の下駄をハイヒール風と見なせば親和性は高いのか?)
ちょっとしたシュールものが好きな私は、早速1から4までの全巻を購入した。
主人公である三十路OLのノリコは、3年付き合っていた彼氏に振られる。
自分を癒すために傷心旅行を企画するも、金欠のため、なぜか彼女は近場の高尾山に行くことにした。
傷心旅行で高尾山を選ぶ人なんて聞いたことがないが、こんなところからこの漫画は始まる。
(高尾山:東京都八王子市にある年間登山者数が世界一の山)
ワイシャツにタイトスカートに、ハイヒール。
新宿のオフィスから出たその足で、ノリコは高尾山に直行する。
いきなりおいおい、と思わずツッコミたくなるありさまだ。
確かに最近サンダルやヒールで高尾山を登る人がいるらしいが、出不精の私でもさすがにそんな山をなめたことはしない。
予想通り彼女は足がボロボロになり、日頃の運動不足から歩き出して15分ほどで息が上がってしまう。
そんな彼女の前に、天狗たちが姿を現す。
他の人には彼らの姿は見えていないが、あまりの情けなさに耐えかねてノリコを助けるために彼女の前に登場したのだった。
そうこうしているうちに愉快な仲間が増えて、気付けば毎週末ノリコは高尾山に通うようになっていった。
懲りずに相変わらずハイヒールで彼女は登るのだが、景色や食べ物やおすすめスポットを知っていくとどんどん高尾山という山が好きになっていく。
正直、私はこの漫画にやられたと思った。
心を完全に掴まれた。
出不精である自分のことは棚に上げて、全然体力のないノリコを見て愉快に笑っていたいところなのだが、不思議と読者である私も高尾山の魅力に気付かされていく。
たった599mの高さしかない山でも、楽しみ方が多様なのだ。
そもそも高尾山という題材だけで漫画が発売されているのだからコンテンツは充分あることがお分かりになるだろう。
作中に描かれていたなめこ汁がどうしても食べたくなって、なんと私はついに自ら山を登ることにしたのだった。
お味噌汁になめこを入れるだけなら当然家でもできるが、私はノリコと同じ体験がしかった。
自分の体を動かした後に山で食べるおにぎりとなめこ汁はさぞ美味しいに違いない、そう思ってしまったのだ。
これもこの漫画に大いに影響されたことは正直に認めざるを得ない。
実際に登ってみてどうだったか。
端的に言おう。
爽快だった!
確かに人が多かったが、人を避けられる道もあるし、平日のオフィスワークから来ていた疲れを癒してくれる自然も多い。
なぜもっと早く来なかったのだろうと後悔したくらいだった。
一度出不精になると、外出することが億劫になってくる。外出へのハードルが上がってしまうのだ。
だからこそ高尾山は私のような出不精にとってはちょうどよかったのかもしれない。
ただ登るだけでなく、食べ物も豊富で、お土産やグッズも売られていて、エンターテインメントに富んだ山だった。観光客だけでなく、リピーターが多いのもうなずけた。
そしてついに登山靴まで買ってしまった。
ノリコたちが通った観光客があまり通らない道を、私も歩きたくなっていたからだった。
*
高尾山をはじめとして、低山を登るようになってから私の中では何かのバランスが取れるようになっていく感覚が生まれた。相変わらず引きこもってやりたいことが多いけれど、たまに山を登ると体だけでなく心も健全になっていく気がする。
これも『高尾の天狗と脱・ハイヒール』に出会っていなければ、起こっていなかった変化だったに違いない。
別に年末ジャンボで一発ドカンと当たるような変化を求めているわけではなかった。町の商店街でやっているようなくじで、外れても参加賞のお菓子くらいは当たるようなものでよかった。
それくらいのゆるい希望が、私のような人間にはちょうどいい。
そして、そういうゆるい希望を与えてくれたのが、まさにこの漫画だったように思う。
私のように出不精であることをそろそろどうにかしたいと薄々思っている人がいたら、この奇跡の漫画をお勧めしたい。
ぜひ高尾山を登ろう。
*
【紹介本】
『高尾の天狗と脱・ハイヒール』(竹書房、氷堂リョージ・著)
【こういう人にも読んでほしい】
・さらっと読める漫画を読みたい気分の人
・登山に憧れるけどちょっとハードルが高いと思っている人
***
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