YouTuberは私にとってスズメのような存在である
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:石原京子(ライティング・ゼミ日曜コース)
娘がYouTubeでゲーム動画を見始めたのは、小学校3年生の冬だった。
来る日も来る日もゲーム動画を見てゲラゲラ笑っている娘に私はイライラし、「YouTubeばかり見ていないで、勉強しなさい」とスマホを取り上げていた。そのうち、娘は私に隠れて違う部屋でYouTubeを見るようになり、見つけた私がスマホを取り上げる日々。親子のバトルを毎日繰り返していた。
「YouTubeを見るなんてくだらない。時間の無駄」と思っていた私だが、娘が4年生になったある日。驚いたことに、娘は「私も動画編集をやってみたい。YouTubeにアップしてみたい」と言ったのである。
「YouTuberになるつもり? 稼げないよ。無理、無理」と私はまったく取り合わなかったが、娘はあきらめなかった。
「動画編集をやってみたいなぁ」と毎日、毎日言い続けたのだ。
娘が4年生の冬休み。
「動画編集をやりたいなぁ」という娘に根負けした私は、自分のパソコンを娘に貸して動画編集に初挑戦させた。ところが、私のパソコンではスペックが全然足りずに編集ソフトを満足に動かすことすらできなかったのである。
その時は、「動画編集は、うちのパソコンでは無理だったねぇ。大人になってからやれば?」と言い、娘はYouTuberになることをあきらめたかのように見えた。
しかし、2月末。
緊急事態宣言による学校の休校が始まり、外に出ることもできずに退屈しきった娘は、また「動画編集をやってみたい」と言い出すようになる。
親子で時間を持て余してうつうつと過ごすよりは、パソコンのスキルを身につけるのもいいかもしれないと思った私は、「わかった。じゃあ、動画編集にチャレンジしてみようか。貯金していた自分のお金でパソコンを買うならいいよ」と言った。
こうして、我が家にスペックの高いゲーミングパソコンがやってきたのである。
パソコンが届いた後の娘の集中力はすごかった。
初めのセットアップこそ手伝ったものの、すぐにパソコンを使いこなせるようになった。苦手だったローマ字もすぐに覚えて文字を入力。ゲーム動画を録画し、フリーの音楽素材のダウンロードも自分でこなし、さくさくと動画編集を進めていく。
そして、5月。YouTubeのチャンネルに自分で名前を付けて動画をアップした娘は、10歳にしてYouTuberデビューを果たしたのである。
その様子を見ていたのが、中学2年生の息子だ。
実は、息子の方が先にゲーム動画を見始めたそうで、親には言い出せなかったものの、もともと動画編集をしたかったそうなのである。どおりで「チャンネル名は何にする?」「どんな動画にする?」「俺が代わりに文字を入力するよ」など娘の編集作業に息子が協力的だったわけだ。
娘が動画をアップした翌日。
息子は、娘がパソコンを使っていない時をみはからって、どかっとパソコンの前に座り込み、新しい動画を作り出した。そして、夜には息子が同じチャンネルで自分の動画をアップ。
ここに、めでたく兄妹YouTuberが誕生したのである。
ところが、めでたかったのはその日だけだった。
次の日から、パソコンの取り合いが起こることとなる。
「私がパソコンを使うの!」
「俺にも動画編集をやらせてくれ。楽しいんだよ」
「私が買ったパソコンだよ」
緊急事態宣言で外出できない中、一台のパソコンをめぐって、毎日兄妹けんかが繰り広げられたため、私はすっかり参ってしまった。
「わかった。学校の動画授業も始まることだし、お兄ちゃんも自分の貯金でパソコンを買えばいいよ」
こうして、YouTube反対派だったはずの我が家に2台目のゲーミングパソコンが届くことになったのである。
息子は、動画編集に熱中した。
わからないことがあると検索して、高度な動画編集技術をマスターしていった。
すると、次にまた問題が勃発する。
「チャンネルの方向性」に関する兄妹間の意見の相違である。
和やかなストーリー性のある動画を作りたい娘と、テンポがよく笑える動画を作りたい息子。チャンネルにはカラーの違う動画が日替わりで出るようになる。「これでは視聴者が混乱するかもしれない」「自分が好きなようにチャンネルを運営できないのは、面白くない」と何度も話し合いを重ねた末に、息子は別のチャンネルを作って引越すことになった。
話はここでは終わらない。
息子のYouTubeチャンネルの成長を見てうらやましくなった私は、2021年1月に娘と息子に言った。
「お母さんは、YouTuberになろうと思う」
「えっ? まじで? 何やるの?」
「ピアノで演奏をする、ピアノ系YouTuberだよ」
「チャンネル名、考えてあげるよ。『昭和の女チャンネル』とかどう?」
「それじゃ、何をやるチャンネルかわからないじゃん。『とあるおばさんが弾いてみた』とかは?」
「何かと似てない? もう少しピアノっぽいやつがいいな」
このような会話のあと、私は自分用のYouTubeチャンネルを作った。何しろ娘の時と息子の時、2回もチャンネルを作っているのでスイスイと立ち上げることができる。チャンネルアイコンも、息子のアドバイスをもらいながら簡単に作ることができた。
動画にアップする曲を練習しながら、「そんなにピアノうまくないからなぁ」といまさら怖気づく私に、息子が言う。
「お母さん、ピアノがうまければいいってもんじゃないんだよ。チャンネルの運営の仕方が大事だよ。お母さんは俺というYouTuberの先輩がいるんだから、成功間違いなしだよ」
先輩として、実に頼もしい言葉である。
まさか、2年前にYouTube反対派だった私がYouTuberになりたいと思うようになるとは、自分でも意外だった。
しかし、YouTuberの二人と暮らすうちに、いってみれば日本の特別天然記念物の「トキ」のように遠い存在だったYouTuberが、近所のどこにでもいる身近な「スズメ」のような存在に変わったのである。
今では、YouTuberを「トキ」から「スズメ」という存在にしてくれた子供たちにお礼が言いたい。二人がYouTuberになったおかげで、私は視野が広がりYouTubeの世界を楽しめるようになったのだから。
2021年1月。
私は、YouTuberデビューする。
***
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