メディアグランプリ

ペーパーレス化で増えたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:萩野 晴(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
ズザザザー、という鈍い音がした。
ちょっとバランスを崩した拍子に、床に積まれた本の山に足が当たって雪崩を起こしたのだ。
ゴメンねとつぶやきながら、本を1冊1冊、元通りに積み上げ直す。
 
我が家には本が多い。
買う量は雑誌・単行本合わせて月に10冊未満だが、なかなか手放すことができない性分で、ただただ溜まっていくばかり。
本棚にはスキマというスキマを埋めるように、まるでパズルのように本を詰め込んでいるのに、それでもキャパはとっくにオーバーして、入りきらない本がワンルームのそこかしこに積まれている。
そうしてできた本の山が戸棚の前を塞いで開かずの扉と化していたり、さっきのような雪崩が起きたりしているのだから、いよいよ蔵書量を見直さなければならない頃合いなのかもしれない。
 
普段読まない本を手放せば良いことは分かっている。これまで何度か、その基準で処分を試みた。だけど、今は読んでいなくても、かつて一緒に楽しい時を過ごした大切な本たちを手に取ると、手の感触から温かい気持ちが蘇って来て、どうしても捨てることができない。
 
本が無限に入る本棚が欲しかった。
大切な本を全て保管して、欲しい時にいつでも取り出せる魔法の本棚が。
 
途方もないと思っていた私の夢は、案外あっさりと叶えられた。
電子書籍の登場である。
 
最初は敬遠しがちだった電子書籍だが、保管スペースの逼迫を目前に、背に腹は代えられない。
さすがに蔵書を全て電子版で買い直すほどの余裕はないが、新たに買う書籍については、電子書籍に対応していればそちらを選ぶようにした。特に、嵩張るシリーズ物などは、最初から電子書籍で買い始めれば続巻はためらいなく電子版で揃えられる。
本を買ったはいいけれど、いざ収納しようとしても置き場所がなく、本が増える度に罪悪感を感じる日々から解放されるのは有難かった。
 
電子書籍化の効果を最も実感したのは雑誌。私は週刊のマンガ雑誌をずっと購読していたが、面白くても面白くなくてもとにかく連載作品は1本残らず隅から隅まで読んでいたため、1冊読むのにかなり時間がかかる。時々、読み切れないうちに次の号が出てしまうことがあるが、これまた飛ばし読みができず古い号から順番に消化しないと気が済まない質で、部屋の隅に未読の雑誌が積み上がってしまうことがちょくちょくあった。
雑誌に関しては場所を取るので読み終わったら随時処分していたが、未読のものは捨てられない。常に雑誌の山が高くなっていくプレッシャー。多い時は20冊くらい溜めてしまって、それを数ヶ月かけて最新号に追いついて、また忙しくなって溜まって……の繰り返しだったけれど、もう気にする必要はない。しかも、発売日に買いに行くのを忘れても自動的に自分の端末に届くし、捨てる時に切り抜きやスクラップしなくても、これからは雑誌まるごと取っておける!
 
最初はスマホで始めた電子書籍生活も、より快適な読書環境を求めてタブレットを導入。これで、いちいち拡大しなくてもサクサク読める。旅先にも持ち出せる。
 
いくらでも本を詰め込める魔法の本棚、いつでもどこでも好きな本を映し出せる魔法の鏡を手に入れた私の読書ライフは完璧……のはずだった。
 
1年後の私は、焦っていた。
毎月の購入数は変わっていないのに、積読本が増えているのだ。
電子書籍に切り替える前の私の積読冊数は最大20冊程度。
だが、それが今や、70冊を超えている。1日1冊読んでも1カ月以上かかる。
実際は仕事の合間に1日1冊ペースで読むのは無理だ。そうしている間にも定期購読している雑誌の新しい号が配信されてくる。
消化できる気がしないではないか。
ペーパーレス化で本を減らしたはずが、未読本の量が肥大化してしまった。
 
ここまで溜まってしまったのは、本の存在が感じられなかったからだろう。
自分で本屋に出向いて、探して、選んで、手に取った出会いの瞬間。
抱えて帰った手の重み。
家に帰って、さて今すぐ読もうか、後にとっておこうか悩んだ時間。
部屋の隅に積まれた本たちの、「読んで」アピールを無視した時の後ろめたさ。
そういったものが一切ないのだ。
20冊だろうが70冊だろうが、私の目の前にあるのは小型のタブレット1台。
そこで読まれるのを待っている70冊の姿が見えない。声が聞こえてこない。
 
うず高く積まれた本の山が1枚の板になった時、私は本の存在自体を忘れてしまった。
いつでも読めるという安心感を前に、今すぐ読みたいという欲が薄れていった。
 
ペーパーレス化は、読書欲や情熱を維持するには不向きだったのだ。
 
かといって、電子書籍サゲのためにこの記事を書いたわけではない。
電子書籍には保存・収納・携帯という面で存分にメリットがあり、私は今でも愛用している。紙と電子はそれぞれに利点があるからだ。
 
紙の書籍は、レストランに出向いて、料理を目で見て、香りを楽しんで、舌触りや歯ごたえを感じながら食事を摂りたい時。
電子書籍は、サプリでいつでもどこでも手軽に必要な栄養素を補いたい時。
私は、こんな風に使い分けている。
 
 
 
 
***

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事