メディアグランプリ

君は井の中の蛙ではない


山下幸平さん 井の中の蛙

 

記事:ユキヒラ(ライティング・ゼミ)

 

冬である。もう蛙は土の中に入っているのだろうか。蛙は何を思い、何を願い、何を夢見て土の中に入っていくのか、僕らは知る由もない。もしかしたら、とんでもない大寒波が来て、気づかぬうちにこの世からおさらばするかもしれないのに。

人の就寝も同じようなものである。世の中に朝起きたら死んでいたという方はごまんといる。もちろんそれに気づくのはご家族であったり本人以外の人だったりするのだが。なかなかに僕らの人生というのは危ない橋のような気がしてくる。

だからかもしれない。安全で、安心な場所を僕らは求め、安住する。

「君は偉そうだ」
間接的に、そう直接本人から言われたわけですらないたった一言に僕の心は簡単に折れた。社会人になってから幾度となく言われ、コンプレックスとなっていた「偉そう」というレッテル。

結婚式ではいいネタとなり、最後に指名した友人が「私に言わせれば“生意気”」という言葉に会場は爆笑となり、僕自身も大いに笑っていた。しかし、その言葉はしだいに僕の心を蝕み、その圧力に抗してきた。

5年経ち、偉そうでない、謙虚さらしきものがわかってきたような気がする春だった。この言葉を突きつけられたのは。

努力をすべて否定されたと思った僕はふてくされた。会社で言われたことだけしかしなくなり、やる事がなくなるとひたすら本を読んでいた。仕事には関係のない本を。

満足感のない日々は、僕の心を蝕んでいった。肉体的には全く疲れていないのに、疲れていた。家に帰ってもイライラ。子供の泣き声がすると声を上げて叱りつけたくなる。でもそれをする自分も嫌でテレビに向かう。

番組をつけた。面白くない。チャンネルを変える。面白くない。チャンネルを変える。……。
BS。チャンネルを変える。チャンネルを変える。……。

消した。

なんにも面白くない。
眠いわけでもないのに布団に入る。眠れない。起きる。テレビ……。

何もないときに、何もできない自分がいた。何もすることがなかった。そんなことは知っていたのだが。

パソコンをつけた。
家を無くした生活から、人生が変わった人の記事があった。
それまで、周りの人間全てが敵だった。
家をなくしてからは、全ての人が家に泊めてくれるかもしれない人になった。
味方に見えるようになった。

うすうす気づいていた。僕は人を疑って生きている。

僕が何かアクションを起こしたときに、返ってくるリアクションが怖くてたまらない。傷つくのが怖くてたまらない。すべての出来事が結果的に僕に苦しみを与える可能性があるものとして、灰色のペンキに塗りたくられていた。

僕も人を信じられるようになるのだろうか。

偶然にも家族が帰省しているときに、休みが取れた。

のどごし生のダンボールの箱を切り、ガムテープを一面に張った。油性ペンで文字を書く。

「ヒッチハイク中」

家を無くすることはできないけれど、ヒッチハイクなら同じような体験が出来るかもしれない。

書き換えるときには、ガムテープを上から張ればいい。
穴を開け、紐を通す。これを首にかけて背負い、文字が見えるようにしよう。

家を出た。10分ほど歩いて、ダンボールを背負うつもりだった。歩く。歩く。歩く。
ダンボールを背負う予定のところに着いた。信号が青になった。歩き出した。ダンボールはまだ手に持っていた。

信号に引っかかる度に周りを見る。車が来る。信号が青になる。

かれこれ30分ほど歩いて、やっとダンボールを背負う事ができた。

背負ったそばから周りの目が気になる。人とすれ違う度に視線を落とす。
追い抜いていった車がこちらを見ている。速度を落とす気配はない。

怒りが湧いてきた。“いいよ、高速道路まで歩くさ。2時間も歩けば高速道路に着くはずだ。”

突然携帯がなった。出発するときに発したツイートにいいねがついていた。明日行なわれるイベントに参加する人だった。応援のリプライまで送られてきた。立ち止まって携帯を見つめていた。うれしかった。

「兄ちゃん!」と突然声を掛けられた。「ヒッチハイクしてるん?」東京のど真ん中、いや正確には西にもかかわらず、関西弁でスキンヘッドでサングラスをかけているBMVのおじさんが乗せてくれた。

ほんとに乗せてくれるんだ!

いや、そこを疑っていたらヒッチハイクもなにもないのだが。でもやっぱり疑っていた。正直だめなら引き返せばいいと思っていた。

会社を経営しているこのチョイ悪おじさんは高速の入口まで乗せてくれた。

インターチェンジでダンボールをかかげていると減速しながら通り過ぎる車があった。ダッシュして追いかけると止まり、載せてくれた。りんご農家のおじさんは配達の帰りだった。「人間なんでもありがたいと思っていればいい」と名言を残して、サービスエリアで下ろしてくれた。

ダンボールでは無理な気がして、直接声を掛けて回った。3人目。ちょっと元ヤンぽい兄ちゃんだった。二つ返事で乗せてくれた。いつかヒッチハイカーを乗せたかったらしい。まじか。偶然にも程がある。

一気に長距離を移動し、高速を降りた。そこでまたダンボールを掲げた。10分たったとき、ビビッとクラクションを鳴らされた。荷物を持って走る。
「ゴメン、乗せれんのだけど、兄ちゃんが行きたいところへはそこではつかまらんわ。場所変えたほうがいい。」
わざわざ戻ってきてアドバイスをくれた。言われたとおりにする。5分でつかまった。

女の人。普段は教習所のバイクの先生。彼氏のところまで行く途中、面白そうだったから乗せてくれたらしい。ポテトフライをもらった。そろそろ暗くなってきた。山の中のコンビにまで。

真っ暗の中、ダンボールを掲げる。20分くらいで止まってくれた。また女の人。スピリチュアル系のお仕事らしかった。なんで乗せてくれたのか尋ねると「悪い人じゃないと思った」暗くて顔は見えていないはずだが……
最後に国際夫婦の二人とベテランヒッチハイカーに乗せてもらい夜10時に目的地に着いた。

着いた。ほんとに着いた。いやー、まじか。

世の中はいい人ばかりだ。
いやそんなことはないだろう。しかし、いい人はいっぱいいるのだ。いい人をいい人じゃなくしているのは自分自身だったのだ。

道を尋ねて教えてくれない人はいなかった。全ての人は僕のことを信じて乗せてくれた。僕も全ての人を信じて乗せていただいた。

サービスエリアに下ろしてもらったときの絶望感は忘れない。もう戻れないという恐怖。自分では進めない。運んでくれたのはすべて赤の他人だった。

僕は、支えられて生きている。

「井戸の中の蛙大海を知らず」と言う。
狭い世界に生き、偉そうに安住している者のことを言う。

しかし、蛙にもいろいろいるだろう。

空があることを知っている蛙もいるはずだ。
桶が下りてくることを知っている蛙もいるはずだ。
その蛙は井の中の蛙ではないはずだ。

この文章を読んでいるということは、貴方はインターネットを駆使しているということだ。インターネットはすべてとつながっている。空のように。

この文章を読んでいるということは、貴方は天狼院書店を知っているということだ。
天狼院書店は多くのゼミという器を用意している。桶のような。

あなたはいわゆる井の中の蛙ではない。

さあ、桶に乗り込もう。

ライティング・ゼミいう名の桶に僕は乗り込む。

あなたはどの桶に乗りますか?

 

***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、店主三浦のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

【東京/福岡/通信】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?〜《最高ランクの「ゼミ」に昇格して12月開講!初回振替講座2回有》

 

【天狼院書店へのお問い合わせ】

TEL:03-6914-3618

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。

【天狼院のメルマガのご登録はこちらから】

メルマガ購読・解除

【有料メルマガのご登録はこちらから】

バーナーをクリックしてください。

天狼院への行き方詳細はこちら


2015-12-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事