メディアグランプリ

「ピンチはチャンス!」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:棚橋 愛(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私の座右の銘は「ピンチはチャンス」である。
 
物事が何もかもうまくいかなくて凹んでいるときこそ、新しい何かを始めるチャンスなのだ。
私はいつも自分にそう言い聞かせて、幾度となく困難を乗り越えてきた。
 
そのきっかけは、ある楽器との出会いだった。
 
今から二十年近く前、私は当時付き合っていた彼氏に振られた。
溜息ばかりついていた私を見かねた友達が合コンを開いてくれることになったのだが、合コンの当日、待ち合わせ場所へ向かう途中で私は車に轢かれた。
 
右足の甲が骨折しており全治1か月と診断された私は、足をギプスで固定されてしばらくの間不自由な生活を強いられることになった。
彼氏に振られ、さらには交通事故にも遭うという災難が重なり、私は途方に暮れた。食欲もなくなり、テレビのお笑い番組を見てもひとつも面白いとは思えなくなった。
生きてはいるけれど、抜け殻のようになってしまった。
 
そんな日々が2週間くらい続いたところで、なんとかしないといけないと焦りだすようになった。
そんな中、ぼんやりとネットサーフィンをしていたところ、とある音楽教室の広告が私の視界に飛び込んできた。
 
音楽教室か……。
 
私はマウスを持つ手を離し、しばらく考え込んだ。
新しいことを始めたら気分が変わって、また元気になれるかもしれない。
それに、自己解放することはストレス解消にもなるのではないか。
 
これだ! と思った私は、またマウスを握りなおして音楽教室のサイトへアクセスした。
 
ところが、いざ楽器を習うと決めても、どの楽器が自分に合うのかがわからなかった。
バイオリンはなんか敷居が高そう。ギターはコードを覚えるのが大変そう。ピアノは子供の頃に習っていたけど長続きしなかったから無理……。
やっぱり音楽教室は厳しいのかな、と諦めてページを閉じようとしたそのとき、サイトの中で控えめに主張するアイコンに目がいった。
 
「二胡コース開講中 初心者大歓迎」
 
二胡? 何ですかそれ?
そもそもこれ、何て読むの?
頭の中がハテナマークだらけの状態で、この「二胡」というキーワードを検索してみた。
 
「二胡」は「にこ」と読み、中国古来の民族楽器なのだという。
さらに詳しく調べてみたところ、音はバイオリンに似ているが、弦が2本しかないシンプルな構造のため、それほど難易度は高くないようだった。
また、当時人気があった「女子十二楽坊」という中国の演奏家集団が使っていた楽器ということもあり、注目度も上がっていたが、日本ではまだ演奏する人は少ないとも書かれていた。
周りにだれもやっている人がいない、ということは誰とも比較されなくて済むから、気楽にできるかもしれない。
 
すっかりやる気になった私は早速、音楽教室に問い合わせて、足の怪我が回復次第教室を見学させてもらうことを願い出た。
 
数週間後。
ギプスと松葉杖を手放した私は音楽教室を訪れ、1時間の体験レッスンに挑んだ。
 
二胡は確かにシンプルなつくりの楽器だったが、音を出すのは至難の業だった。
先生の指示に従って弓を動かしても、歯ぎしりのような雑音しか鳴らなかった。
それでも何度か挑戦していると、コツをつかむことができて次第に「雑音」から「雑」な部分が消えていった。
さらに集中力を高めて練習を続けたところ、1時間経つ頃には「キラキラ星」が弾けるまでになっていた。
 
「これはいける」と確信した私は、その場で教室の申し込み手続きを済ませ、ほどなくしてマイ楽器も手に入れた。
 
それからは毎日、会社から帰ると出された課題を練習した。
練習をすればするほど上達して、それが楽しくてまた練習する……という好循環が生まれ、二胡に触れる時間がこの上なく幸せだと感じられるようになった。
それと同時に、またご飯もおいしく食べられるようになり、テレビも楽しめるようになった。
 
二胡と出会ったことで、抜け殻状態だった私が「生」を取り戻すことができたのだ。
 
入門して1年経つ頃には日々の努力の甲斐もあって難易度の高い曲も難なく演奏できるようになった。
そして、友達の結婚式へ出席するたびに余興で二胡を披露した。
さらには音楽仲間も増え、ライブハウスで演奏する機会を得ることもできた。
 
二胡と出会ったことで生活が一変したが、すべては失恋と交通事故がきっかけだった。
この経験から私は、ピンチに陥ったときこそがチャンスなのだ、と思うようになった。
 
そして、2020年。
新型コロナウイルスの流行を機に、私は窮屈な生活を強いられることになってしまった。
しかし、このピンチこそがチャンスなのだ。
だから私は、今できることを考えて、動くことにした。
そのひとつが「ライティング・ゼミ」だ。
コロナ禍で外出できなくなった代わりに、家でライティングの技術を磨き、多くの人に読んでもらえる文章が書けるようになることを目標に掲げて、課題に取り組んでいる。
 
いつか大輪の花が咲くと信じて今日も私は、「チャンス」という名の種を大事に育てている。
 
もし今、どん底で嘆いている人がいれば手を差し伸べて声をかけたい。
「ピンチはチャンス。ここから這い上がったときに新しい道が開けるよ」と。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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