メディアグランプリ

人見知りの表現者は精神的自傷行為をして、強くなる

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谷口さん 人見知り

 

記事:たにこにー(ライティング・ゼミ)

 

人見知りの僕が、一番大好きで一番大嫌いなのは「新たな出会い」に立ち会う瞬間です。例えば、学校のクラス分け、サークルの入部、新入社員、新規営業。

駆け出しのライターとして、時折仕事をいただくとき、新たなコンテンツとの出会いと同時に、見知らぬ人に話を聞かないといけない、その人の伝えたいことを引き出さないといけない、という義務感と遂行できるかどうかの不安感に毎回かられます。

それでも、ライターの仕事を断らないで、むしろ、積極的に引き受けている理由は至ってシンプルです。

「好奇心に恐怖心が負ける」

私たちが生きる世界には未知のことだらけである、ということがライターを通じてまざまざと知らされるのです。
今、本業は内勤の仕事なので、新規営業することはないし、お客様と会うことも稀ですが、ライターは不躾にも、厚顔無恥になって、換言すれば、一人情報の荒野に立ち向かうカーボーイになって、歩き進むことができるのです。

私の尊敬する人でファッション・デザイナーの川久保玲さんという方がいます。彼女は慶應大を卒業後、スタイリストを経て、コム・デ・ギャルソンというブランドを立ち上げました。
1980年代、パリ・コレクションで彼女がショーを開催したとき、世界のファッション・エディターから賛否両論の嵐だったのです。今まで布たっぷりでカラフルのドレスがパリのおしゃれでしたが、川久保玲さんが発表したのは真っ黒で布が引き裂かれている服。フィガロ紙では「ホームレスが着ている服」と批判的でした。
しかし、現在、川久保玲さんは世界のクリエイターで最も尊敬されるデザイナーの一人です。彼女のショーは常に斬新です。時代の変化を敏感に感じ取って、情報化社会や頻発するテロに対するステートメントを時には過激に、時には暗喩的に世界に公開し続けています。

そんな彼女ですが、メディアに出ることはありません。ショーの終わりによくある、デザイナーの挨拶もステージの裏から少しだけ顔を出して、お辞儀してすぐに引き下がる。

彼女は人見知りなのです。なるべく人と会わず、目立たず、クリエーションに時間を費やしていたい人なのです。(あくまで推測の域を出ませんが)

人見知りなのに、彼女が先鋭的なデザインを発信し続けることができるわけ、それは「情報に対する好奇心」と「受け取った情報を発信することへの好奇心」が働いているからなのでしょう。

川久保玲さんはコム・デ・ギャルソンのデザイナーとして、そして経営者として様々なクリエイターと交流し、発掘し、ファッション・エディターと言葉を交わし、時勢を捕まえるのです。
彼女は「好奇心が勝ち続けて」、まだ見ぬ情報の波に飛び込んでいくのです。そして、受信した情報を自分の言葉(デザイン)にして、再構築していくのです。彼女はファッションという土台を使った、ライター(表現者)なのでしょう。

さて、私はライターという肩書を通じて、情報を受信し、自分の言葉に換言して、発信していきます。それは知的好奇心を満たす行為であり、未知のものを自分のフィールドに落とし込んで、自己の筋肉とする行為です。
これは、ある意味「自分磨き」なのかと思います。磨きながら筋肉を付けるというのは逆説的ですが、自分を磨くことは知見を得ることですから、知という筋肉をつけて、無駄な肉を減らす。情報に対して後ろ向きに、人との出会いに対して受動的になりがちな、怠惰な贅肉を落とすのです。

人見知りで保守的な私にとって、ライターという立場は、自傷行為に近いけれど、その傷からは生きていることを改めて自覚させる血が流れ、かさぶたになり、またきれいな肌に戻っていく。
ライターであることは生きていることなのです。そして、生きていることを実感しながら、自分の筋肉を鍛えていく行為なのです。受動的になりがちな性根を変えることはできないけれど、性根を利用して、自己成長に還元していくことがライターをし続けていて可能である、と気づきました。

文字を書くことは、書くための準備を合わせると、かなり苦しい修行のようなものですが、それを人に見てもらうことで、そして評価をもらうことで自分が「そこ」に存在しているのだと自覚できる行為だと思っています。

川久保玲さんが言ったことで私が忘れられないフレーズがあります。

「無視されるぐらいなら、批判されるほうがいい」

批判は怖いです。あたかも誰かに自分自身を否定されているかのような気持ちになります。しかし、その批判は私がいるから存在するのであって、換言すれば、自分という存在を批判が認めているということになるのでしょう。
無視は、自分の存在を否定しているのです。意見がないと傷つかないように見えて、よく考えると自分の意見は「ない」ものとして扱われているのです。そちらのほうがゾッとしました。
川久保玲さんがおっしゃることは、自傷行為における成長を極めてシンプルに表現した言葉だと思います。

私は批判をされること、意見をもらうことを、とても恐ろしく、そしてとてもありがたく感じています。無視されることの終末的恐怖も体験しています。私と川久保玲さんは、立場は違えど同じことを目指していると思うのです。

私たちは「好奇心が勝ち続け」、自分のクリエーションを発表し続けるという、精神的自傷行為を行いながら、成長し続ける表現者なのでしょう。

人見知りの好奇心が自分磨きにつながり、果ては世界を動かすことができるのかもしれません。2016年の冬、ウイスキーを片手に原稿を書きつつ、思った出来事。

 

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2016-01-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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