お酒好きのアイドルヲタク嫌い
記事:大場理仁(ライティング・ゼミ)
アイドルがあまり好きではなかった。もっと言えば、アイドルヲタクが苦手だった。
私が今から5年前の高校2年くらいの頃から突如AKB48という今となっては国民的アイドルグループがTVを占領しはじめた。その頃からクラスメイトは変わっていった。
学校の休み時間中に、普段はスポーツなども得意ではなかったりする比較的マジメなタイプのクラスメイトがある下敷きを取り出した。その下敷きはまさしくAKB48のメンバーがずらりとプリントされたものだった。そこからは恐ろしいもので、AKB好きのクラスメイトが彼に群がった。そこからの話は想像できると思う。「誰が好き?」「○○かわいいよね」「この子には期待してる」などなど普段はあまり大きな声で喋らない彼らがどんどんとその話題で饒舌になっていき、終焉を告げるチャイム音が鳴るまで、それは終わらなかった。それが毎日どの休み時間かに行われていた。今思い返せば、よくそんなに話題があったものだと感心する。
これが毎日続いていくと今まで関心のなかった割とスポーツ一筋で人気者タイプの人もこの群衆のことが気になり始めた。そうしたら、その群衆は彼を当たり前のように会話に入れてしまい、さらに力を強めていった。いつの間にかクラスはAKBに染められようとしていた。そんな中で、一歩引き気味の女子と楽器好きの一部の男子だけが「ヲタクだよな」と眉をひそめ嫌味を込めてつぶやき、それに入らなかった。
理由はそれぞれあったと思うが、音楽好きの自分はアイドルの踊って口パクをするというスタイルが好きではなかった。バンドという数人のカタマリでどれだけいい曲を作り出すかという限界を常に超えようとするところが好きだった。メンバーが3人なら同時に3つの楽器しか基本的には触れない。その中で、どんな音を生み出すのかということに心を奪われていた。だから、アイドルのように何人も人がいる状態は好きではなかった。ましてや、48人なんてのはムダとしか言いようがなかった。全員踊って歌うという同じ動作をするならば、その人数は決して必要ないはずだ。おそらく、熱狂的なファンを除いたAKBを好きな人でもメンバー全員を覚えていることはないだろう。自分自身、人気が出てきてから数年経っているにもかかわらず、名前と顔が一致する人は10人を超していない。
結果として、高校を卒業する前にはクラスのグループとして、もともと人数が少なかった女子のグループ、体育会系、サブカル系、そして、AKB好きといったグループが出来上がって、卒業することになった。入学当初にまさかアイドルグループ好きのグループが生まれるとは、全く予想していなかった。
大学に入った私はアイドルと無縁の生活を送るようになった。友達の誰もがアイドルには興味がなかった。そうして、アルバイトを本格的に始めていき、大人の嗜みのいくつかも知るようになっていった。そうした中で、自然と酒と本が好きになっていった。
大学に入って始めてのアルバイトはカフェ&バーだった。昼からランチメニューとコーヒーや紅茶などを提供し、夜になるとある程度しっかりとした料理やカクテルやワインなどのお酒を提供した。未成年だったから、そこでは味見程度にしか飲めなかったが、それがきっかけとなり、飲み物というものに異常な興味を持つようになった。まずはじめに、カフェラテというものに興味を持った。ラテアートというものが実際にやってみるとかなり難しい。慣れている人ならば、サラサラとやってしまえるのだが、素人にはできない。それをひたすらにお店で練習した。そして、次第にカクテルに興味を持った。数え切れないほどのレシピがあるカクテルは種類も多いのだが、店によって人によってレシピが少しずつ違う。本格的なバーだと、お客さんに合わせて微妙に味を変えていたりする。それから、ワインにも凝るようになった。どこ産でどのブドウ種で熟成がどうかということも知るようになった。
そうした興味を埋めていけば埋めていくほど、いかに飲み物は奥深いものなのかを知っていった。今ではビールからワイン、カクテル、蒸留酒、日本酒など基本的になんでも飲める人間になってしまった。しかも、運がいいことにあまり酔わない体質だから、じっくり酒の味を楽しめる。
だから、友人と飲みにいく時に、ワインを選ぶのは自然と私になっていった。カクテルもよく聞かれたりもする。
ある日、一緒にバーに飲みに行っていた友人がポロっと私につぶやいた。
「お前、ヲタクだよなー」
その時、その言葉が頭の中で響き、なんとも言えない嬉しさがこみ上げた。
友人からそういう風に酒好きとして認められることがなんとなく嬉しかったのだ。
そこでハッとした。もしかしたら、高校の時の彼らもそういう気持ちだったのではないだろうか。AKBが好きではない自分たちが「ヲタクだよな」と嫌味を込めて言った言葉は彼らには喜びの言葉だったかもしれない。そして、何よりも自分自身が「ヲタク」であるという認識をされることに驚いた。
あれだけ高校時代に忌み嫌った「ヲタク」というレッテルを自分にも貼られたことに驚愕した。
ヲタクとは、もしかしたら単なる物好きであって、熱狂的なマニアなだけなのかもしれない。それにネガティブイメージを加えるから第三者から見て「ヲタク」なだけなのかもしれない。そのネガティブイメージを生み出しているのは彼ら自身でなく、偏見という色眼鏡で見た何も知らない人だったりする。それこそAKBメンバーを10人も知っていないような私のような存在だったりするのだろう。
友人からそう言われてからモノの見方が少し変わった。別にヲタクだろうと何だろうとどうでもいいように思えた。むしろ、何かに熱中するということ自体が素晴らしいもののように感じられるようになった。周りの偏見を持った人々を放っておいて、何かに熱中すればいい。どうせ熱中している本人にしか面白さはわからないのだから。そして、何かに熱中している人がいたら、それに興味を持ってくる人々が現れてくる。面白い奴には人は集まるものだ。そうしたら、ヲタクと言われようと楽しめばいい。
好きなものをとことんファナティックに語り合えばいい。結局は楽しんだもの勝ちなんだから。
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