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【入隊訓示】38度線をめぐる戦い


 

記事:Ryosuke Koikeさま(ライティング・ゼミ)

全員そろったか?
そろったようだな。
早速だが、入隊に当たり訓示を行うとしよう。
重要な内容である。心して聞いておくように。

ようこそ諸君、いや同志たちよ。
君たちと出会い、そして共に戦っていくことを、私は楽しみにしていた。
この困難な時代に、志願してこの道を選んでもらったことを、私は嬉しく思う。
そして何よりも、この大変な場所に臆せずやってきてくれたことを、私は頼もしく思う。

知ってのとおり、ここは最前線である。
数あるシチュエーションの中でも、最も困難と障害が待ち受けている場所である。
私も4年ぶりにここに帰ってきたところだが……。

ゴホ、ゴホゴホ……すまない。
あ、ああ……再び帰ってきたところだが、正直に言おう。

これからの数年間、肉体的に精神的に追い込まれる日々が続く。
もちろん、君たちが事前にこの状況を分析し、作戦を立て、覚悟を決めて手を挙げ進んできたことを私は知っている。よく知っている。まあ中には、そんなに危機感を持っていない者もいるかもしれないが。

それでも、君たちが想像している以上のものが待ち受けていることを、最初の数週間で嫌というほど思い知らされるだろう。
効率的な作戦を展開する以上、綿密な計画は非常に重要だが、思うように上手くいくことはほとんどというか、まずないと言ってよい。初期の段階は特にだ。想定外のことしかない。
また、基本的に作戦中はチームプレイで行動する必要がある。自信がある者も、実際の能力が高い者もいるかもしれないが、1人では早晩倒れることになる。
さらに、ここが一番問題なのは、休息地点が少ないことだ。毎日四六時中闘わなければならないことはざらである。むしろ、人も動物たちも寝静まった時間帯の夜襲に気を付けなければならない。敵は突然、本当に突然にやってくる。そうしていると……。

ゴホ、ゴホゴホ……。ゴホ、ゴ、ゴホッ。
あ、ああ……。何度もすまない。乾燥して喉の調子が悪いようだ。今朝まで何ともなかったのだが……。

で、そうしているうちに、肉体的にも精神的にも疲労が回復せず、少しずつ蓄積していくことになる。
にもかかわらず、最前線にいる以上、どんなコンディションでも戦わなければならない。敵は、状況は待ってくれない。
そして、君が本当にやられてしまうと、チームは崩壊し、終わりだ。今までの苦労は水の泡となる。私は、不幸にもそうなってしまった者たちを数少ないが知っている。

そうなってしまうのは実に残念である。
選んだこの道を、そうやすやすと諦めるわけにはいかないのだ。
そこで、私から若干ながらの先輩として、気休め程度ではあるが、生き残るための訓示を授けたいと思う。
この中から脱落者が出ないように、まずは……。

ゴホ、ゴホゴホ…。ン、ンン、ゴホッ!
あ、ああ……お、おい、ちょっと、例の薬を持ってきてくれ。
すまない。本当に喉の調子が悪いのだ。

おう、それだ。水も持ってきてくれ。
助かる。
ん、んん……。
あ、ああ……よし。これで問題ない。お待たせした。

どこまで話したか……ああ、そうだ、共働き世帯が初めて子どもを保育園に入園させる年に、時間的な点で上手くやっていくためのアドバイスをしたいと思う。

1つ。スケジュールが狂うことを悩まないこと。
親と一緒に家庭にいたときとは違い、入園して他の園児たちと触れるようになると、どんなに丈夫な子も、どんなに手洗いうがいをしていても、すぐに風邪を引く。男の子は特にだ。
保育園にもよるが、保育中に熱が38度を超えてしまうと、呼び出しの電話がかかり、自分たちの都合にかかわらず、両親のどちらかが迎えに行かなければならなくなる。
その日は迎えに行けたとしても、熱が引かなければ翌日も預けることができない。
当然、仕事にも影響が出てくることになる。
こういったことが続く。思ったような毎日を送れないことに精神的ストレスが溜まってくるに違いない。
しかし、そんなものである。子どもは風邪を引くものだと諦めるしかない。
ちなみに私の経験だが、毎週風邪を引き、薬が手放せなかった息子も、年次が上がるにつれて丈夫になっていき,3歳を境に風邪をあまり引かなくなった。
それまでの辛抱だ。

2つ。自分1人で何もかも対応しないこと。
共働きの夫婦であったとして、どちらかが全部やっていると負荷がかかってしまい、いつか爆発する。それに、もし何らかのトラブルがあったときに、もう一方では対応できなくなってしまう恐れがある。
また、祖父母など頼れる親戚が近くにいるのであれば、素直に頼ることも重要である。有料であっても公的なサポートを頼むのも手段として選ぶべきである。
私も、慣れるまでのしばらくの間、平日の夜ご飯は宅配サービスを使っていた。

3つ。ここが一番重要だが、無理にでも、休息時間をつくること。自分の時間をつくること。
2人とも仕事をし、家庭では子どもの面倒を見るとなると、プライベートな時間はほとんどない。
さらに、子どもは急に夜中に高熱を出すこともあったり、熱で寝つきが悪かったりして夜中も寝ずに看護しなければならないときもある。
割り切って、交代でもいいから仕事の休みをとり、1人で休息を取ることも必要だ。
疲労を蓄積し続け、夫婦のどちらかが体調を崩すと、状況はさらに悪化する。

ここまで不安をあおるようなことばかり言ってきたから、さぞ不安になっていることだろう。
私も正直不安である。なぜなら、数か月後に子どもがもう1人入園することになる。
あの戦いを再び始めると思うと武者震いがする。
38度を巡る戦いを。
しかも今回は子どもが2人である。どんなことになるか……。

でも、君たちなら大丈夫だ。
なぜなら、私ですらやってこられたのだから。

子どものための遅刻・早退が続くと、やはり会社や同僚に気が引けてくることもあるだろう。
他人を頼ったり、お金で解決したりすることに、ためらいを感じることもあるだろう。
家庭・仕事・育児を離れて一息つくことに、罪悪感を抱くこともあるだろう。

しかし、大丈夫だ。
受けられるサポート体制は人それぞれだろうが、時間的な点で一番大変な時期を乗り越えるためには、四の五の言っている暇はない。
文字どおり総力戦である。
頼るものは頼る。その恩は頼られる立場になったとき、頼ってくる後輩たちに返そうではないか。

まとめると、嘆かず、頼るものは遠慮なく頼り、休むときは気兼ねなく休む。
保育園1年目を乗り越える秘訣である……。

ゴホ、ゴホゴホ……。ゴホ、ゴ、ゴホッ。
あ、ああ……。やはりおかしい。風邪を引いている場合ではないのだが。
そういえば、何だか熱っぽいし体の節々が痛い気もする。
インフルエンザか?
インフルエンザは、症状も重いし回復までの期間が長いので、我々は一番注意しなければならない敵だ。家庭で蔓延するとあっという間に終わりだ。
万が一でも君たちにうつしてはいけない!

まだ話足りないが、以上で訓示を終わることにする。
諸君らの健闘を祈る!

 

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2016-03-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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